ヒンメルの町での変化












ヴァハーリヒ帝国との戦争に王国が動き出している頃、ヒンメルの町では少しだけ普通とは違う変化が起こっていた。




「よっ!」


―――ガガガガァ…



「おぉぉ!流石……巨木も余裕で持ち上げますかい…」



「最初は頭に角が生えてる亜人っぽい姿に戸惑ったが、慣れりゃカッコいいから俺は好きだな」




帝国との戦闘……というより、巨人化していたリンとの戦闘で周辺の岩山や森が破壊され、そこの修復兼、土地開発の為に多くの土木作業員達と一緒に働いているのは、ライアが以前に作りだした改造人間ホムンクルスの亜種である【鬼人】……それも、筋力上昇のイメージをブラッシュアップさせ、姿もより【鬼人】らしさが出るように、額から白く輝くほど綺麗な角を生やした通称“オーガ”の姿が多くみられる。



「俺ぁどっちかってぇと“ウィッチ”のねぇちゃんの方見た目の方が、好きだぜ!」



「おめぇは単に巨乳が好きなだけだろ……確かに“ウィッチ”ちゃん達は皆巨乳で俺も好きだが……額の第三の眼を見るとゾクゾク!ってしちまうんだよなぁ」



「それがいいんだろそれが!あの目で見つめられると、どうも逆らえない気分になって、心が沸き立つというか…」



「……お前…変態だったのか…」





土木作業員達の言う“ウィッチ”……想像は出来るかもしれないが、そちらもライアの分身体であり、前回の戦闘で活躍した【魔女】の事である。



オーガの事で一つ付け加える情報があるとすれば、オーガには男性体…つまりは男の姿を取らせている分身体もいるのだが、このウィッチには女性体しか存在しない。



別に制約があるとかではなく、最初に【魔女】と安易に名前を付けてしまったので、何となく男のイメージが湧かなかったので、女性体オンリーにしているだけである。



そんなウィッチの姿は、前世の日本での知識から照らし合わせ、全体的に黒の衣装を着せ、胸は妖艶さを出す為に大きく、そして不気味さを出す為にウィッチの額には第三の眼として、きちんと眼球が動く目玉を取り付けている。



まぁもちろん視力は無いただの飾りではあるのだが…。




「こらぁ!話してばっかりいないで仕事をしなさい!」



「「「す、すいやせん!!」」」




女性体のオーガを見つめながら雑談に興じていた男達に、オーガの身体を使いながら注意を飛ばす。




「まったく……変に嫌悪感を抱かれる結果にならなくて良かったけど、微妙に変な趣味の変態が増えて困るな…」




男達の会話を遠巻きながら耳にしていたオーガライアはそんな事を愚痴る。




……ではオーガ然り、ウィッチの様な特異な姿を取らせなければいいのではないか?寧ろ、緊急時でもない現状で【鬼人】と【魔女】を作りださずに、今まで通りの生活をすればいいのではないか?と疑問が生まれるだろう。



実はこの状況をきちんと説明するのであれば、少しだけ過去の話をしなければならない。






―――――――――――

――――――――

―――――








ヒンメルの町での戦闘が終了し、暫くしてライアは自分の新しい力……【鬼人】と【魔女】の力量がどれほどなのかをきちんと把握する為に、ダンジョンに訪れていた。





「イメージ……魔力的因子や無駄なスキルを全て肉体強化に変換……≪格闘技≫などの体術系スキルへの最適化……【鬼人】ッ!」




ダンジョンの内部に潜り、慣れた様子でサンドバックには丁度いいワイバーンが発生する5層まで分身体5人で向かい、早速分身体の1人を【鬼人】化させる。




「……ッ……よし!次は…」





――――バァサッ!!



「グギャァァァァァァァァッッ!!」



【鬼人】化を終わらせたタイミングで、ちょうどよくサンドバックがこちらに飛んできたので【鬼人】の分身体以外を退かせ、力を試そうと普段はあまり込めない全力の力で拳を握り、飛行するワイバーンの腹部目掛けて、ダンジョンの地面を踏み込む。



……いや、表現が少しばかり適切では無かった。



正確に言えば、ダンジョンの地面を




――――ダゴゴゴォッッ!!



「うあぁ!?」



ダンジョンの固い地面がライアの踏み込みに耐えられず、踏み込んだ地面の周りをも地盤沈下させながら、床が崩れる。




「あっぶなッ!?」




地面が崩れ、体制を維持しようと膝をつけば、ちょうど先程ライアの首があった場所にワイバーンの鋭い爪が風切り音と共に通り過ぎる。




「くっ……ワイバーンサンドバック如きに膝をつけるとは……不覚ッ!」



妙にシグレの言い回しが移ったような発言をしつつ、思考を落ち着かせる。



「……踏み込みの力はひとまず抑えるしかないか……イメージ的に、全力の70%…ッ!!」



再びワイバーンの元に向かう為に、地面が崩れないギリギリの力加減を見極めつつ、今度こそライアは踏み込みを成功させる。



若干踏み込んだ地面がまるで爆発したような音を発していたが、ひとまずおいて置く。



ライアは今まで経験をしたことも無い様な急加速を体験しながら、ワイバーンの元へ飛んで行く。



「あ」


―――ドパァァンッッ!!



………そして、あまりの速度に止まる事や拳を振りかぶる前に、ワイバーンの身体に接触し、ワイバーンの身体を突き破りながら通り越して行く。




「………?」



身体の半分ほどの大きさの風穴が腹部に出来たワイバーンは何が起きたのかも理解できなかったのか、首を傾げながら、静かに絶命していく。




「……ワイバーンサンドバック…」



【鬼人】のポテンシャルが高すぎるのだと理解したと同時に、ワイバーン程では全力を試す事は出来ないのだと、ライアは悲し気に1人呟くのであった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る