予測と対策










―――――――王都アンファング(ライア)side




帝国に潜入を果たしたライアは、そこで見聞きした情報をアーノルドに伝えるべく、王宮にあるアーノルド専用の執務室まで行き、ちょうど休憩時だったアーノルドに事のあらましを伝える。



「……ふむ……確かに、挟み撃ちだけで勝ちを確信するというのは些か不思議だね……」



「はい。なので、帝国には巨人以外にも何かとっておきの策があるのかもと……」



アーノルドは執務室に備え付けられているソファに腰掛けながら、メイドの淹れた紅茶を優雅に一口。




「ふぅ……ただでさえ巨人化という力を持っていながら、それ以上の力か……楽観的に考えれば、巨人の力だけでもかなりの戦力なのだし、それに慢心したという線もあるのかもしれないね」



「……流石に、巨人の力だけで一国を墜とせるとは考えにくいのですが……」



「もちろん簡単な事ではないけれど……ライア殿は自分の力で巨人の力に対処出来るから想像しにくいのかも知れないが、この国で巨人に対抗できる人材など両の手で数えられる程度……1対1でも勝てる者と限定すれば、私はライア殿くらいしか知らない」



「………」




なんだかんだ、ライアは自分の力で巨人に対抗できる部分もあり、思いもしなかったが、巨人の力を過信しているのであれば、確かにあの会合でのライアと他の人との温度差も説明がつく。



帝国は王国が巨人に抵抗できるだけの戦力を所持していないと考えていれば、あのような幼稚な作戦?でも王国を打倒できると考えても不思議ではない。



ライアは『もしかして、俺の早とちり…?』と不安げな表情を浮かべる。



「ふふ……そんな顔をするなライア殿。これはただの可能性の話なのだし、帝国が秘策の1つや2つ隠し持っていても不思議ではない……警戒をし過ぎるのは良くないかもしれないが、警戒をせずに後手に回されるよりは断然に良い。可能性の一つとして巨人化以外の脅威も考慮しておこう」




「……はい!」












――――――――――――

―――――――――

――――――







それからライアとアーノルドは、帝国のスパイ情報で今後の帝国の動きを予想する事になり、ライアの知りうる情報を繋ぎ合わせて行き、帝国軍の侵攻ルートや拠点配置、それに伴い避難勧告を出すべき地域の選別をしていく。




「……やはり北はいくつかの町を放棄させるしかないか……」



「帝国が攻めて来るとなれば、国境沿いは戦火の真っ只中になりますし、戦争が開始されれば真っ先に近隣の街や村に略奪行為を起こされますでしょうし、そこはしょうがないですね」



王都の北側、つまりは帝国が攻めて来ると予想される北東方面は防衛には向かない平坦な道の多い平原地帯。



王国の東……帝国のある方向には未開地の森や山が数多く存在するのに対し、北側は魔物の出る森も少なく、人間同士の争いの少ない地域柄なのか、町や村に柵や防壁と言った物が極端に少ないらしい。



そんな平和な場所に国民を放置していれば、帝国に『どうぞ略奪してください』と言っているようなもの。




「南側はライア殿やアイゼル殿がいるので問題は無さそうだ」



「一応、ヒンメルの町の守りに必要な分身体以外は王国各所に送る予定ですよ」



「助かる」




元々へベルベールの偽情報のおかげで、ヒンメルの町はすでに帝国の手に落ちていると勘違いをされている。



これから戦争が始まれば、ヒンメルの町を拠点にしようと帝国の兵士達が油断したままのこのこやってくる所を一気に叩く。



もちろんそこまで上手く行くとは思わないから、予備戦力はきちんと整えておく必要があるが、分身体総数の半分くらいは他の場所に回せるだろうとライアは考えている。





「北は帝国の国境沿いに唯一存在する砦…【バグラス砦】。南は【ヒンメルの町】と【リールトンの街】。そして【王都アンファング】……この4つの場所に避難民を集め、帝国との戦いに備える……ライア殿には冒険者ギルドと連携をして速やかにその情報を各町村に連絡してくれ」



「かしこまりました」



「……そして帝国が予想外の動きを見せない限り防衛戦に徹し、相手の物資の枯渇を狙う……と言いたい所なのだが」



「帝国はまず諦めない……寧ろ下手に戦争を長引かせれば、両者共に共倒れの危険がありますね」




「あぁ」




ならば、狙うは短期決戦。




「少数精鋭で守りの少なくなった帝都を攻める」




「……ですね」




帝国は王国を潰す為に全戦力の殆どを北側と南側に投入する事を考えれば、帝国本国の守りは薄くなり、軍隊を率いなくとも制圧できる可能性が高い。



もちろん帝国に住む市民達には被害を出さないようにする為に隠密行動を心掛け、帝国の王【皇帝ヴァハーリヒ13世】を抑えれば、戦争は終了だ。




「…すまないが、その少数精鋭の中にはもちろんライア殿も含まれているが、受けてくれるか?」



「もちろんですよ!こんな戦争さっさと終わらせて、子供達に笑顔で過ごせる世の中にしたいですから」



「アハハハ!ライア殿はそうだったな」




ライアの子煩悩なセリフにアーノルドが吹き出す様に笑い、ライアとアーノルドの間には穏やかな空気が流れる。





「よし!ひとまずライア殿は先の内容で動き出してくれ。私は父上や軍部の者達と詳細を話し合って来よう」



「わかりました」












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