キメラの少女
「――プエリちゃん、様子はどう?」
「あ、ライアねぇちゃん。この子、まだ目を覚まさないけど身体の怪我は完全に回復したみたいだよ」
話合いが一段落した後、ライアは怪我人や意識不明の者を収容している臨時救護室に足を運んでいた。
救護室には意識を失った敵兵士達や巨人から生まれたあの少女もいるので、万が一に備えて訓練場に設営されている。
ここならいつでも近くにライアの分身体が数人待機しているし、もし戦いになっても近くに民家などがない分暴れやすい。
そんな救護室で、巨人の少女の容態を確かめに来たのだが、どうやらプエリがこの少女の看病……というか監視をしていたらしい。
「怪我が治ったのなら、そろそろ目が覚めるんじゃないかな?プエリちゃんも念の為にこの子が暴れたりしたらすぐに避難するんだよ?」
「ん~…何となく、もう大丈夫な気がするけど…わかった!」
「……ん……ッ……」
話をすれば何とやらとでも言うのか、話題の渦中であった少女がタイミングよく目を覚ます。
「プエリちゃん」
「はーい!」
静かに警戒心を高めたライアとは違い、プエリはライアの目くばせに呑気に返事を返しながら、ライアの後ろへと避難する。
「……ここは…」
「意識ははっきりしてる?今目が覚める前の一番新しい記憶はどんなだったか聞いてもいいかな?」
「え……貴女は……あ、そうだ私……貴女の事を襲って……」
どうやら少女の中には先程暴れまわった時の記憶が残っているらしく、ライアの顔を見て申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「色々と混乱もしてるようだけど、先に確認させてもらうね?君の身体の中の魔力――」
混乱をしている所で申し訳ないが、人間とは違う亜人に近い全く新しい身体を造り出した身としては、きちんと身体が動くのか、痛みなどはないか、魔物の魔力は制御出来ているのかなどの検診はしておきたい。
色々と聞いて行く間に、この少女が今の状況を把握していき、混乱も収まる事も期待しているが。
「なるほどね……今の所、色々と出来る事が増えた身体に混乱はあれど、意識や身体に問題は無し…と」
「は、はい……寧ろ、今まで取り込んでいた魔物の身体がすごい馴染んでいる感覚があって、すごい気分はいいです」
「……取り込んでいた?」
「えっと、私は…」
ある程度検診も終わり、話の流れでこの少女……“リン”は今までどのような生活をして来たのか、何故それだけの魔物の特徴を取り込んでいるのかを説明してくれた。
「≪合成術≫……それを使って、無理矢理自分の身体に融合させる……野蛮で人権なんか無視した帝国らしい幼稚な考えだね」
「ライアねぇちゃん、なんか殺気みたいなの漏れてるよ?」
既にライアの中に、帝国に居る錬金術師並びに研究者達への評価はだだ下がり。
国柄的に、脳筋思考の考え方が主流なのかもしれないが、それにしたって色々と酷すぎる。
「ふぅぅ……それで、君はこれからどうしたい?一応君はこの国に攻めて来た敵兵力として捕虜の扱いにするべきなんだろうけど、どう考えても自分の意思とか関係無しに連れて来られてるみたいだし」
「……どうする…と聞かれても、何が何やら…」
「リンの話を聞いて、俺が考えられる道としては主に3つ……その弟君…リク君と会う為に帝国へ帰る道……まぁ帰った所で、またひどい目に合わされるのは間違いないだろうけど」
「ッ…」
リク……自分の大事な家族の元に帰るという期待の気持ちとまたあのような苦痛に満ちた場所に戻る恐怖にうっすらと目に涙を浮かべるリン。
「2つ目は単純に、そこら辺の事情を全部忘れて、新しい生活を始める……一応この国には帝国みたいな罪もない人を奴隷にする事は出来ないって法律で決まってるから、この国でならリンは一般市民として生きていける」
「………」
流石に、リクの事を忘れる事は出来ないのか、どう見てもこの選択肢に魅力は感じていないらしく、俯きながら静かにライアの話に耳を傾け続ける。
一応、リンがこの2つ目の選択肢を選べば、どう見ても普通の人間種の姿に見えないリンでも住めるこのヒンメルの町やエルフが多く住んでいるリールトンの街などを紹介出来るので、姿だけで迫害などをされる心配は少ないはずだ。
「……そして3つ目……リク君を取り戻す為に、俺達と一緒に帝国と戦う道」
「と、取り戻す…?私が……?」
巨人になるまでは殆ど戦いなど知らなかった少女にとって、自分が戦うという選択肢は予想外だったのか、目を真ん丸に見開きながらライアの言葉を反芻する。
「リンはまだ子供……まだ守られるべき立場なんだ……けど、何もせずに平和に暮らすのは嫌なんでしょ?」
「……はい…」
2つ目の選択肢で、全く心を揺り動かされていない様子なリンは、恐らく自分の愛する家族の元へすぐにも行こうとしてしまう。
ならば、せめて戦うという選択肢で前向きにさせ、この小さな女の子をみすみす帝国の下種共に渡してやるものかとリンに提案したのだ。
「もし今後、リク君を救い出せるチャンスがあればリンを必ず知らせる……だからそれまで、家族を取り戻せるように、この国で力を付けない?」
「わたしも手伝うよ!!」
後ろで話を聞いていたプエリもこの提案に賛成のようで、元気よくそう発言する。
「……いいんでしょうか…?こんな私が皆さんに迷惑をかけて…」
「もちろん!どんと頼ってよ。こんななりでもこの町の領主で大人だからね」
リンは自分が奴隷の立場だった事や今の自分の姿が普通の人間ではない事などの葛藤で自虐的な言葉を漏らすが、そんなのは関係ないと下を向く彼女に、ライアは胸を張りながらそう応える。
「そんな訳で、これからはよろしくって事でいいかな?」
「……ッ…よろしくお願いします!」
こうして、リンが正式にヒンメルの町の新たな住人になったのであった。
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