戦後処理










「ッ!“アースウォール”!“マッドショッド”!」



――――ボォブゥンッ!!



このままではまずいと考えたライアは、咄嗟の判断で少女を囲むような小規模の囲いを造り出し、そこへ爆発を和らげる為の緩衝材として泥を生成させる。



前世でも特に詳しい訳では無かったが、爆発物を処理する方法として有名な物に“爆発を広げない為に周りの空気を無くす”という話があった。



うまく行くかはわからなかったが、どうやら咄嗟の判断としては間違いではなかったらしい。



少女を囲い、泥で満たした空間で爆発音がこちらに響いてくるが、ただの分身体が作った強度の低い土壁でも耐える事は出来たようで僅かに罅が刻まれてはいるが、それ以外に被害らしい被害は見られない。



もしかすれば、巨人状態の時よりサイズ的な意味で縮小していた事もあり、爆発の規模が小さかった可能性もあるが、それは今考える事ではないだろう。



念の為に後ろに退避しているプエリの方も確認してみるが、特に怪我などは無さそうだ。




「…っと、早くあの子を!」



現状、自爆で少女の身体にどれほどの損傷を負っているのかわからないが、少なくとも今現在は泥に埋まっている状態で、呼吸などが出来ないはずなので、すぐに出すべきだと魔法を解除する。



「くっ……やっぱり火傷がひどい……けど自己回復も発動してるし、呼吸も正常……危機一髪かな?」



泥から引きずり出した少女はどうやら気を失っているようで、静かに寝息を溢しながらライアの腕にもたれかかる様に出て来る。



身体の半分ほどは火傷を負ってはいるが、目に見えて少しずつ回復しているのは見て取れるし、少女の寝顔からも特に痛みで苦しんでいるようには見えず、ホッと安堵の息を漏らすライア。



「……目を覚ました時に、きちんとである事を信じてるよ…」



ライアは、少女の火傷まみれの身体を気遣いつつ、流石に全裸状態はダメだろうと自分の羽織っていた白衣の様に白いジャケットを脱ぎ、黒いスカート膝上付近まで破り裂いて少女の身体を隠す様に羽織らせる



「……よし…プエリちゃん!もうこっちは大丈夫だから、ヒンメルの町に戻るよ!」



「はーい!……ねぇライアねぇちゃん」



「ん?」



少女を背に背負い直しながら、プエリにそう声を掛けると、プエリが何か言いたげに口を開く。






「流石にその恰好じゃ、町の皆に変な目で見られちゃうから戻した方が良いと思うよ?」



「全裸の女の子をそのままで運べと!?」



プエリは、絶対領域がきわっきわでジャケットの下がノースリーブの肌着だったライアの姿に対しての注意喚起を飛ばしてくるのであった。









―――――――――

―――――――

―――――







「―――捕虜が453名、内32名は未だ意識が戻ってはいませんが、命に別状は無いそうです……こちらの損害は精々装備の剣の刃が幾つか欠けたくらいでしょうか?」



「そう…皆無事ならなりより。念の為に俺が治療を施した人達には細心の注意を払って見ておいてね」



「了解です!…それと、保護した子供達ですが…」



「あぁ…そっちは大丈夫……こっちで何とかしておくから」




戦闘が終わり、戦後処理に追い回されながらも人的被害なし、敵戦力の完全制圧という大勝に満足をしながら騎士達の報告を聞いて行く。



奴隷の子供達に関しては、ライに姿を変えた分身体の傍から離れたがらず、一時的に子供達を落ち着かせる為に、町の中をライと一緒に散歩をさせている。



本来であれば、一応帝国から来ているので、町中を自由に歩かせるのは良くはないのだが、この町のトップはライア自身なので、問題は無い。




「あ、そう言えば町の住民達には…」



「はい、既にアイン団長とシグレ副団長が通達に動いているとの事です」



「通りで2人ともいないと思った」



シグレは今回の戦闘で、何故か敵指揮官と意気投合をしていたし、アインにとっていい気分のする状況じゃなかったのだろう。



恐らくアインがシグレを無理矢理連れて行ったのだと納得し、ひとまず住民への通達関連は大丈夫なのだと理解する。




「騎士団はこのまま捕虜達の監視を継続。町周辺の警戒も怠らないように努めるようにアイン団長達にも伝えて」



「かしこまりました」



報告に来てくれていた騎士が部屋から出て行くと、入れ違うように王都からの援軍で来ていたエマリアが部屋の中に入ってくる。




「失礼します。インクリース殿、今よろしいですか?」



「エマリアさん!今回は本当にありがとうございました……それで、どうされました?」



「いえ、戦後処理も粗方片付いて来ているようなので、我々も今回の情報を王都へ持ち帰ろうかと」




エマリア達は、既に捕虜達から尋問による情報の引き出しが終了しており、もうこの町に留まる必要は無い。



エマリアはこの町を去る前にきちんと挨拶に来たらしく、既に王国騎士団の騎士達は王都に向け出発できるように準備を終わらせているらしい。



「なら、明日にでも飛行船で王都までお運びしますよ」



「……よろしいのですか?」



「えぇもちろん…流石にここから王都まで戻るとなれば相当時間が掛かりますし」



流石に、殆ど戦闘での手助けを借りる事無く、終わったら勝手に帰っていいよ!は申し訳なさすぎる。



「感謝します……しかし、出来れば我々をリールトンの街で降ろしてくれると助かります」



「リールトンの街ですか?構いませんが何故リールトンの街に?」



「お恥ずかしながら、リールトンの街に王都から連れて来た馬がいますので、その回収もしなければいけませんので」




あ、とライアは当たり前の事を忘れていた事実に、申し訳なさそうな顔を浮かべる。



元々エマリア達王国騎士団は、王都からリールトンの街まで“遠征”という名目で来ていたのだし、騎士達の足として馬に乗ってきているのは少し考えればわかる事。



ライアは少し恥ずかしそうに「ですよね」と苦笑いを浮かべる。



「一応王都にいるドルトン騎士団長へはステータスカードを使って情報の共有はしておりますので、リールトンの街からは自力で戻りますので、そこまでは御厄介になります」



「……いえ、こちらこそ今回の件で助かりましたから……王都に着いたらドルトン騎士団長にはよろしくお伝えください」




まぁ王都にはウィスンやアーノルド付きの分身体が居るので、会おうと思えばいつでも会えるが、そこは様式美として考えない事にする。












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