天災の亜竜戦 拾
「ライアねぇちゃんから離れろぉぉぉッッ!!!」
「―――ッッ!!」
―――ブンッッ!
ライアが襲われていると瞬時に理解したプエリが、剣を腰下で構えながら素早く少女に切りかかり、それを回避する為に少女が一旦飛びのく。
「ライアねぇちゃん!大丈夫!?」
「分身体自体は首の骨ごと持って行かれてるね……出来れば直したいけど……プエリちゃん!!」
経験値の為に分身体をあまり消滅させたくはないので≪錬金術≫で無理矢理身体を直そうかとも考えたのだが、それを待ってくれる程、相手は優しくはないらしい。
「ぐらあ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」
「キャッ!!……やったなぁ!!」
巨人から生まれた少女……長いので、一旦少女で区切らせてもらうが、その少女が自分に攻撃を仕掛けて来たプエリを目の敵にでもしたのか、周りに居るライアには目もくれず、プエリに鋭く鋭利な獣の爪を振るって来るが、プエリも負けじと剣で受け流し、そのまま攻撃に回る。
――――ギギギギッ!!
剣と爪がせめぎ合っているとは思えない金切り音に思わず耳を閉じたくもなるが、そうも言っていられない。
「ぐらあ”あ”!!」
少女が腕を大きく振りかぶり、プエリに向けて弾丸の様な拳を振り下ろしてくるが、それを華麗に避けて見せるプエリ。
――――ボゴゥッ!
「わッ!?」
「馬鹿力ッ!」
しかし、少女の拳は止まらずそのまま地面に吸い込まれるように叩き込まれると、CGでも見ているかのように10メートル程の広さの地面が一気に陥没する。
流石の範囲攻撃に思わずライアもプエリも体勢を崩してしまい、大きな隙を作ってしまう。
「まずッ……プエリちゃん!気を付け……ってあんたもかい!?」
プエリちゃんが危ない!と心配してそちらに目を向ければ、プエリの近くでライア達と同じく体制を崩して、顔面から地面に落ちている少女を目にして、思わずツッコミを入れてしまう。
(……力の制御が出来てない…?いや、どちらかと言えば人間台の大きさであれだけの力を持っている事に慣れてないって感じか?……何ともチグハグ…)
恐らく少女は、自分の中に存在する魔物の魔力を抑える為に必死に戦っているはず。
もしも、元となった少女の意思が力尽き、理性無き魔物に落ちればこのままずっと暴れまくるだろう。
だから、ライア達がやるべき事はこの少女が自分の意思で魔力を抑え、理性を取り戻す事。
それまで、両者共に死なせる事無く時間を稼ぐしかない。
「プエリちゃん!ここからは時間稼ぎ!俺が何とかこの子の相手をするから、今は退避を!」
「いやッ!!」
「えぇ!?」
先程まではきちんと言う事を聞いてくれていたのに、まさかのここでの拒否。
「この子、ライアねぇちゃんの1人を殺したもん!絶対わたしが倒すの!」
プエリの言葉に、いつの間にか首を嚙み切られていた分身体が消滅している事に気が付き、今、プエリの頭に血が上っているのだと理解する。
(……さっきも一応分身体が自爆技で5人消滅したのに、1人消滅して怒るのか……わからんなぁ…)
恐らく、爆発で消滅した方は直接見ていなかったからという理由もあるだろうが、プエリにとって目の前で殺されたという事実が怒りの元なのだろう。
まだ小さな子供であるプエリにとって、分身体とはいえ身近な人間の死ぬ姿を目の当たりにしたのはやはりまずかったらしい。
プエリはライアの静止の言葉を振り切り、体制を整えた少女と再び戦闘を開始し始め、ライアが蚊帳の外状態になる。
(一応、女の子の事を殺さないように気を付けてるみたいだけど、このままヒートアップさせれば、両者とも大怪我は免れ無さそう……なら!)
「【魔女】ッッ!!」
「―――“グラウンド・キャニオン”ッ!!」
「わ!?」
「がぁ!?」
少々意味が違うかもしれないが、今はイメージ重視と魔女の魔法を発動させ、プエリと少女の間に高さ100メートルはありそうなそびえ立つ壁を生み出す。
「っともう一つ!!」
続けざまに、少女が逃げ出さないように少女を取り囲むように大きな壁を生み出す。
「ッッ!」
野生の勘か、単純に簡単な知性を持っていたのかはわからないが、自分が閉じ込められたと瞬時に理解したであろう少女は、いきなり四つん這い状態になったかと思うと、一気に移動を開始し、四足歩行の状態を維持しながら、そびえ立つ壁を登り始めた。
「マジかー……勢いで無理矢理上るとかゲームじゃん……【鬼人】」
―――ダンッッ!!
万が一の為に、壁を生み出すと同時に壁の上に登らせていた【鬼人】に意識を集中させると、もうすぐこの100メートルはある高い壁を登りきろうとしている少女の姿が見える。
「だけど……そのまま逃がす訳には…いかないの…サァッッ!!!」
―――豪ッ!!
「ぐあ”!?」
流石に当てれば殺してしまう可能性もあるかと考え、本気の力を込めながら少女のバランスが崩れるように少女を掠るイメージで拳を振りぬけば、拳圧によって少女は吹き飛び、地面に真っ逆さまへと落ちてゆく。
「“アースバインド”」
落ちて来た所を【魔女】の魔法で強度をあげた土のロープで縛り上げ、身動きを取れないように押さえつける。
「よし、ひとまずこれで…「ライアねぇちゃーん!!」えぇ…どうやって登って来たの…」
「気合!剣をうまく使って、壁に切り込みを入れて駆け上がって来た!」
少女の姿になったとはいえ、恐らく自爆攻撃自体は可能のままであるはずなので、それに警戒をしようとすれば、なんとこのそびえ立つ壁をプエリが登って、こちら側に降りて来た。
「……一応、壁の強度は結構固かったはずだけど」
「うん!だからめちゃくちゃしんどかったよ……大変だからもうあんまりやらないでよ?ライアねぇちゃん!」
(しんどかったで終わる程度なのかー……この子の将来は安泰だね)
もうすでに、少女への怒りは薄れているのか、捕縛され大声をあげる少女に対し何かをする様子はないらしい。
「……それで?この後はどうするの?」
「このまま、この子の意思が魔物の魔力を抑え込めるのを待つ…って感じかな」
流石に魔女の強度の上がった“アースバインド”を抜け出すのは難しそうで、無理矢理抜け出そうと少女が暴れるが、土のロープに僅かに傷が付くだけで終わる。
万が一、魔女の魔法が壊された所で、すぐさま次の魔法を発動させれば問題はないので、自爆技を使われなければ問題は無い。
「がぁぁ……ッッ!?」
「っと危ない……そうだった、自爆もあるけどブレスもあったね」
少女は息をかき集めるかのように口を開くと、僅かにオレンジに輝く光が喉元に見えたので、すぐさま口を閉ざさせ、ブレス攻撃を中断させる。
少女の姿になってから一度も使っていなかったから忘れていたが、ブレス攻撃もあるのだと再認識し、それも警戒しつつ、他の攻撃に対応できるように準備する。
「……出来る事なら、早めに勝ってくれると助かるんだけどね」
ライアは少女の瞳を見つめながら、そう語りかけるが少女はただただ暴れるだけ。
寧ろ、身体のあちこちから僅かに蒸気の様な物が吹き出し始めたのを見て、顔を顰める。
「…今の姿で自爆して、きちんと自己回復出来るかもわかんないんだけどね……プエリちゃん!自爆が来るから退避!」
「うん!」
今度こそ、ライアの言う事を聞いてくれたプエリに感謝しつつ、少女の身体が持つのかが不安なライアは頭を悩ませる。
(……このまま自爆で死なれるのは勘弁だけど、流石に自爆を止めるにはこの拘束を解くしかない……そうなれば、またプエリちゃんとこの子の戦いが始まって、大怪我の危険が……ああぁもう!)
「……ま………って…」
「え?」
八方ふさがり!と頭を抱えるライアだったが、爆発寸前の少女の口が僅かに開き、言葉を漏らす。
「……おさ……って……」
「……ッッ!……頑張れ!」
少女に意識が戻りかけている、その事に気が付いたライアは、爆発寸前の少女の前まで戻り、全身全霊で少女の意識に呼びかける。
「収まってッッ!!!私の身体ッッ!!!」
少女の身体から発せられる、爆発寸前の光が辺りを覆い隠し、周囲が眩い光で埋め尽くされる。
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