天災の亜竜戦 玖








―――――ライアSide





「―――」





巨人に≪錬金術≫を使用した瞬間、何か“声”のようなモノが聞こえた気がしたライアは、その出所を探す様に辺りを見渡す。



しかし、目に見える物は何もなく、精々目の前の巨人が何とか暴れようと藻掻いている姿しか存在しない。



(……巨人の元となった人間…?……どう見ても理性があるようには感じないけど…)



巨人の瞳の中には、こちらを射殺す様な強い殺気しか感じられず、先程聞こえた“優しい声”とは似ても似つかない物だった。



だが、巨人の身体に触れ≪錬金術≫を発動させたと同時にたまたま幻聴が聞こえたとは思えない。



「……もし、意識があるなら……この言葉が聞こえるなら……何が何でも生きる事を諦めないで」



もしも“優しい声”の持ち主がこの巨人の元となった人物なのだとしたら、今からライアのやろうとしている事の成功率が僅かにだが、上がる。



しかし、その人物が死ぬ事を受け入れてしまえば、途端に失敗する可能性が跳ね上がってしまう。




だから呼びかける。



諦めるなと、死ぬ事を容認するなと。





「俺は諦めない為に今貴方を助けようとしてるんだ……勝手に諦めるなんて許さないから」



ライアはそう言って、改造人間ホムンクルス特有の褐色肌を強く巨人の胸に押し付ける。



ライアが今やろうとしているのは、ある意味錬金術の本質とも言える“物を分解し、全く新しい物へと変質させる”……それだけだ。



前にフェンベルト子爵事件の時も、巨人の中から人間だった部分を分解、再構築をする事によって救い出したのだ。



しかし、それが出来なかったから先程まであれだけ悩んでいたのに、何を?と思われるかもしれないが、きちんと今回と前回の違いは存在する。



違い……それはいわゆる、計算式の解答の部分。



「……人間に戻そうとすれば、分解しきれない魔物の部分がどうしても取り除けない……なら、魔物の部分が残っても大丈夫な人間をし直せばいい…!」



人間に戻そうとすれば、どうしても人体にとって有害な魔物の因子が残るのであれば、その魔物の因子に適応させた新たな身体に作り替えてあげればいい。



もし成功すれば、魔物の強靭な身体を併せ持つ、エルフやハルピュイア達とは違った新たな亜人種の誕生だろう。



もちろん、失敗の可能性も大いに存在する。



まず一つとして、この世界の人間にあるのかはわからないが、前世の記憶で人間は遺伝子という設計図を体内にもっていて、少しでもそれが崩れてしまうと、人間はあっさり死んでしまう。



これは、先程敵軍陣地で敵兵士を直した時にも話したが、ある意味折れた骨をくっつける程度と同じ危険度では全くないのだが、遺伝子配列という意味では同じ危険性であろう。



そして、もう一つ……これが先程の呼びかけに起因する可能性。



「今から、貴方の身体を無理矢理人間の姿に改変させる……俺の予想が正しかったら、貴方の中に混ざり合った魔物の魔力が身体を乗っ取ろうと暴れる……それを貴方の意識で耐えきってください」




身体を魔物の因子に適応させるという事は、逆に魔物もその身体に適応するという事。



火竜の血と魔石でこれほど暴れまわる巨人の化け物を作りだしてしまうのだとすれば、そこに含まれる魔力に僅かにでも魔物の怨念?の様な物が残っている可能性は高い。



意図的に人間を襲う習性も、恐らく魔物の意識が反映されている結果だと予想する。



となれば、起こりうる可能性として、魔物の魔力が適応した身体を乗っ取ろうと暴れる可能性があり、生きようという意思を持って抵抗してくれなければ、巨人と同程度に厄介な魔物が誕生してしまうのである。




これらの考えは全てただの可能性……もしかすれば、案外あっさりと何もなく片が付く可能性もある。



だが、ライアの直感では、このまま一筋縄ではいかないとハッキリと言っている。



「ふぅぅぅ……ッッ!!」




だが、それ以外に道はないのだと、目の前の人を救う為には、その人の意思を信じるしかないのだと判断し、慎重に巨人の身体に≪錬金術≫の魔力を流し込んで行く。




「……4……7……15……」



魔物。魔物。魔物。



巨人の身体に埋め込まれた魔物の魔力の種類の多さに苦戦をしながらも慎重に、そして確実に施術を進めて行く。



「………魔力……ダメ……このままだと身体にダメージが行く……魔力を一か所に……魔石化か?」




人間の体にどう組み込もうと、複数の魔力は制御しきれず、素体の身体を傷つけてしまう。



ならばと、巨人の身体の至る所にある魔石の破片を集め、それを心臓部分に置き換え、一つの魔石として生み出そうとする。



「……グッ……魔石が合わさらない……≪錬金術≫じゃ魔石は加工出来な……え」



魔石の加工は不可能……それがわかっての試みだったのだが、何回か魔石の統一化を失敗した所で、魔石が勝手に一つにまとまり出した。




どう考えてもライアの力によるものではない、となれば考えうる可能性は…。



「………原因を考えるのは後!今はこのまま!」



最大の難所であった魔物の魔力問題も解決し、残りの部分も一気に分解、再構築を進めて行く。



喉の爛れた巨人は徐々に縮んでいき、黒かった肌がどんどん人間の肌色に戻って行く。



切断された両手両足は有り余る巨体部分から再構築し、五体満足の状態に生まれ変わる。




「……っはぁ……はぁ……はぁ…」



あまりの集中に、呼吸が必要のない分身体の身体で、つい酸素を求めるように息を身体に取り込む。



施術は恐らく成功……だが、まだ安心は出来ない。



何故なら。



「ぐるるるるるぅぅぅッッ!!」



――――ダッッ!!!



「ガッ!?」



巨人から生まれた狼耳を生やし、腕や鳩尾部分を鱗が覆い、腰に蛇の胴体の様な尻尾を生やした、全裸状態の美少女が≪錬金術≫を施していた改造人間ホムンクルスの1人の喉元に、獣のように鋭く尖った牙を突き立て、思いっきり嚙みつかれていた。




「ぐるるるるるるッッ」



「カッ…ひゅッッ!」



≪錬金術≫以外を制限している改造人間ホムンクルス状態では、血流を操作する≪体液操作≫も怪我を覆い隠す≪変装≫も使用できず、喉元から逆流して来た血が、口から漏れ出してしまう。





「ライアねぇちゃんから離れろぉぉぉッッ!!!」









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