天災の亜竜戦 陸
巨人が足のトゲを引き抜こうと暴れるのをよそに、今が攻め時だと分身体とドロイド総出で巨人の元に目掛けて素早く移動する。
もちろん、その動きは巨人にすぐ勘付かれブレスで迎撃しようと動き出すが、今はそれを回避するよりもいい手段が存在する。
「デリャァァァッ!!」
「ゴッ■■■■■■!?」
――――バァァァンッ!!
ブレスを放とうとした下顎目掛けて【鬼人】の蹴りが飛んで行き、ブレスが口内で暴発したのか、口全体から黒い煙と爆発音が鳴り響く。
巨人は堪らずトゲが足に刺さったまま、後ろに倒れ込んでしまう。
「…ッ!今だッッ!」
まさかブレスの暴発があるとは思わなかったが、巨人が仰向けに倒れてくれたのは幸運だとすぐに分身体達を動かす。
「「「“マッドプール”ッッ」」」
「「「“アースバインド”ッッ」」」
巨人に再び起き上がらせない為に、地面を泥に変え踏ん張りの効かない状態にし、ダメ押しとばかりに巨人の身体を押さえつけるように土の網をかける。
「が■あ”■…■■あ”■■」
自分が抑え込まれたと理解はしているようだが、口が焼けただれていてブレスは放てないようだし、ご自慢の両手と尻尾も泥の所為でうまく作用せずに、沼を掻くだけで終わっている。
「……大魔法で両手足切断はしなきゃと思ったけど、【鬼人】と【魔女】がいい仕事をしたね」
幸運にも巨人が後ろに倒れ込んでくれた事で、予想より早く巨人を抑え込めたと安堵の声を漏らすライア。
このまま巨人が沼と土の牢獄を攻略される前に、さっさと巨人の元となった人を再構築してしまおうと戦闘に参加させていなかった
「■■ッッ!!■■■■あ”あ”■■!!」
「わっと!?そんな暴れるな!………この状態で自爆技でも使われたら結構まずいかも……急がないと」
巨人の身体の上に到着した
(……くッ……以前の巨人より魔力が複雑になってる……それに、見た目からも大体わかってたけど、前にダルダバの町で手に入れた巨人化の薬の内容物より確実に何種類も魔物の魔力が多いッ!)
火竜の魔力は当たり前だが、ギガントやフドムの魔力以外に恐らくブラックウルフ……いや、そんなちゃちな魔物の魔力ではないからその上位種の魔力も感じるし、竜種に近い魔力も別に感じる。
その数種類の魔力が絡み合い、寧ろ
(…まさか本当に元は人間じゃない…?いや、魔力の土台となってる部分にはきちんと人間の魔力を感じるし、元は人間なのは間違いない……でもそうは見えない程に色んな魔力が一つの固まりとして成り立ってる……これじゃ≪錬金術≫で作り替えた所で、肉体と魔力の質が違い過ぎるせいで、人間の肉体じゃ持ちそうにない)
何故、このような状況になっているのかはわからないが、元々不可逆の巨人化だったのが、ライアの手をもってしてでも完全に元に戻せない程の不可逆になってしまっているのは間違いない。
(どうする……?このままじゃ、この巨人は人間には戻せない……だからって放置をすればヒンメルの町の皆やこの国の人が犠牲になる可能性も高い……やっぱり…殺すしかないのか……?)
気持ちは『嫌だ……人を殺すなんてしたくない』と心の中で叫んでいるが、自分の思考の中に殺す以外の選択肢が出てこない。
(殺すか……否か……くッ…!)
やろうと思えば、このまま≪錬金術≫で巨人の原動力となっている魔力をせき止め、心臓を止める事だって出来るには出来る……だがそれをしようとすれば、無意識に手が止まってしまう。
「ライアねぇちゃんッッ!!」
「―――ッ!?プエリちゃん!!?どうしてここに!?」
自分の思考に没頭していた為か、巨人の近くまで来ていたプエリの存在に分身体の誰も察知することが出来ず、プエリの叫び声に心底驚愕してしまう。
「ライアねぇちゃんッッ!逃げてッ!!」
「え?…ッッ!!」
あまりに思考が動いていなかった証拠なのか、自分の足元で暴れていた巨人が大人しくなっていたらしく、巨人は微動だにしていない。
だがその代わり、身に覚えのある
「しまったッ!自爆ッッ!?」
「が■あ”■■■■あ”■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!」
――――――--………
「……だ、大丈夫?プエリちゃん?」
「わたしは大丈夫!……でも他のライアねぇちゃん達は…?」
「プエリちゃんのおかげで、何とか……流石に巨人の上にいた
地中……土魔法を使った緊急防空壕の中に、分身体とプエリが身を守るように丸まりながらお互いの無事を確かめ合う。
巨人が仮に自爆攻撃を仕掛けてきた際に、地面を掘って隠れるという対処を考えていたのもあって、巨人の上で作業していた
お陰で、ライアの戦力は分身体15に減ってしまい、深く考えなくても若干のピンチである。
「……どうしたのライアねぇちゃん…?」
「え?」
「なんか、落ち込んでるっていうか、何か辛い事考え込んでるみたい……」
自分の戦力が減った事と巨人への“殺す”という選択肢しかない状況が表情に出ていたのか、プエリにそう指摘され、ハッとしてしまう。
「……ちょっと困った事があってね……助けようとしてた人が助けれないってわかって気持ちが沈んじゃってたんだ」
「……?そうなの?……でもなんで助けられないの?」
「……ちょっと面倒な法則があってね……変えられない事実があるから俺じゃどうしようも無いんだ……」
ある意味、ただの愚痴に近い自分の無力さを卑下した言い訳だが、プエリはそんな事には気が付かないで、そのまま思った事をそのまま口にする。
「前にリネットさんが言ってたけど『ボク達錬金術師は世の中のありとあらゆる法則を書き換え、創り変える作業をする人達の事なのです』って言ってたけど、その法則っていうのは変えられないの?」
「法則を……変える……」
リネットらしい言い回しだと妙にホッコリしながらも、プエリの言葉を噛み締めるように自分の脳内に落とし込む。
「法則を書き換える?とか物を造り変えるとかわたしにはよくわからないけど、ライアねぇちゃんはわたし達家族を救ってくれたんだもん!きっとその人も救える答えがあるよ!きっと!」
「……ふふふ……そっか……そうだね」
プエリの話は殆どが中身のない願望に近い言葉。
でも、その言葉に視野が狭まっていたライアの頭に1つの考えが過ぎる。
「プエリちゃんは凄いね……おかげで、助けたい人を助けられる可能性に気が付いちゃった」
「むふぅー!わたしのライアねぇちゃんだもん!それくらいは当たり前だよ!」
自分が褒められた事が嬉しいのか、小さいお鼻をピクっと動かし、嬉しそうに表情を歪ませる。
「でも、ヒンメルの町の方をお願いしてたのに、勝手にこっちに来た事は説教だからね?」
「うッ!?」
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