天災の亜竜戦 参











―――――巨人side(ライア)






巨人のブレスを逸らして、巨人にライアの存在がバレた数分後の時間に戻る。





「……ブレスをドカドカ撃って……竜種かよッ!!」



――――カッッ!!!




「ぐがぁぁ■■■■■ッ■■■!!」





敵兵士達にこれ以上無駄な犠牲を出させない為に、ライアは竜種が使用するブレスを連発してくる巨人の化け物を引き付けながら、ヒンメルの町とも救護班が居る場所とも違う方向に向かっていた。



「“アースウォール”ッッ!!!」



ブレスを放つ際に、地面から吹き上がる砂埃を利用し、目隠しの用途で巨人とライアの間に大きな土壁を生み出し、少しでも距離を稼ごうと脱兎の如く移動を始める。




「■■■■■■■■ッ!!」



巨人は、ただの目隠しで設置された薄い土壁を諸ともせず、太い尻尾で遮蔽物を薙ぎ払う。




「ちッ……“カモフラー…”うわっ!?」



―――ダダダンッッ!




つい、逃げる足を止めて、自分の姿を見え無くしようと幻魔法を展開しようとすれば、間髪入れずに巨人が器用にバカでかい両手で岩を持ち上げ、こちらに投げつけて来る。



「遠距離をブレス、中距離は投擲……近距離は尻尾とバカでかい両腕?前に戦った巨人よりはるかにグレードアップしてない!?」




見た目だけの進化ではなく、きちんと性能まで上がっている仕様に、つい文句を漏らしてしまうライア。



「それに加えて、巨人本来の自己回復力……改造人間ホムンクルスで人間に直すと言っても、巨人その物を押さえつけなきゃいけないんですけ……どッ!」



少しでも気を抜けば、即座に岩や尻尾が飛んで来るので、悠長に考え事に没頭する事も出来ない。



「“ウォーターブレイザ”ッッ!!」



「がぁ■■■■ッ■■■■■■グ■■■ッッ!!」




巨人の足部分に水の刃を飛ばせば、僅かに痕は残るが、基本的にダメージは通ってはいないようで、防御力も以前よりかなり上昇しているみたいだ。




「ぐる■■■■■るる■■■■■ッッ!!」




「……威嚇のつもり?というかホントに元人間?唸り声をあげるなんて絶対犬か狼の魔物が混ざってるでしょ」




心なしか、頭部の上に耳の様な物がある気がするが、額には角やらも生えているので実際には判別は出来ない。



「ぐら■■■■■■■■■■ッッ!!!」



「ぐっ!」



―――カッ!!




隙あらば、ライアに向かってブレスを叩き込んでくる相手に、もはや慣れた様子で射線上から素早く退避する。




「ぐがぁぁ■■■■■ッッ!!」




「ふぅ……ごめんね、そんなにムカつかれてもワザと負ける趣味は無いから」




巨人は数分もの間、何度もブレスを躱されている事に腹が立っているのか、ライアに向けて殺意満タンの鋭い目を向けている。



あまりのイラつきに、巨人の身体から熱が発生しているのか、蒸気の様な煙が立ち上がり始めたように見える。




「……え?ってホントに煙??」



思わず自分の目を疑ったが、いくら目を何度も瞬かせても巨人の身体から溢れ出ている蒸気は無くならない。





「グあ”あ”■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」



「え、ちょ」





(じ、自爆ッッ!?!?)











―――――――――――――

――――――――――

―――――――








――――……バァァァァン……




「「爆発ッ!?」」




巨人と戦っていた分身体は、巨人の自爆技に耐える事が出来ず、消滅してしまう。



(分身体が消滅…!?……何気に敵の攻撃では初めての経験かも…)



今までは、なんだかんだステータスの高さ故にリネットの人体実験以外では分身体を倒された事がなかったので、思わず顔に緊張が走ってしまう。




「くっ!皆、すぐに行動を起こして!……誘導していた分身体が……消された」




「インクリース様の分身体がですか!?……わ、わかりました」




流石にワイバーンを1人であしらえるライアの分身体が消滅したという事実にアインもコルドーも驚いている様子だったが、すぐにライアの命令通り動けるように他の騎士団達に指示を出しに向かう。




「ライアちゃん、大丈夫そうかい?」



「大丈夫ですよ……ここの事はコルドーさんとアインに任せます」




分身体を全員(改造人間ホムンクルスの5人を含む20人)を巨人の居る爆心地へと向かわせる。




「気を付けるんだよ!」




「はいッ!」





心配そうにこちらを見つめるコルドーにライアは少し場違いではあるが、ほんのちょっと不謹慎な事を脳裏に浮かべてしまう。





(……多分、コルドーさんの心配もツェーンが戦いの場に出される事を懸念して心配してるって考えると、なんかなぁ……)




何気に、コルドーの性格を正しく認識で来ているライアだった。
















巨人は自爆技を使用した。



自爆、と言ってもそれで死んでしまうとは思っていないし、仮に死んでしまうような技を使ったのだとしたら流石に頭が悪すぎる。



恐らく、自爆をした所で己の強靭な肉体と巨人特有の再生能力で生存しているのは間違いない。



そう仮定して動くのであれば、自爆が起きてからすでに1分は立っているし、下手をすればまた敵兵士の居る方向に進んでいる可能性がある。



だからライア達は、出せる限りのスピードで岩場を縦横無尽に飛び越えて行く。





「―――居たッ!!」




――――しゅうぅぅぅぅぅ……




少し地面が隆起している岩場に立って、遠くを見た時に巨人の姿を確認する事が出来たが、どうやら巨人は、先程の爆心地から殆ど移動をしていないようで、自爆技で傷付いた身体を癒しているようだった。



(あれだけの自爆をして、もう完治寸前か……規格外もここまで行けば賞賛モノだね…)




さてと…ライアはそうため息を漏らしながら、周囲の地形に目を向ける。




(巨人の戦い方、最終手段の自爆、それに移動スピード……分身体1人でそれだけ把握出来れば十分だったと前向きに考えよう)



改造人間ホムンクルスは5人で、自由に動ける分身体は15人……もっと改造人間ホムンクルスを増やす事も出来るけど、≪錬金術≫特化にする分、他のスキルが使えなくなり、単純に戦力低下に繋がる愚策になりかねないので、ひとまずはこのままの人数で行く。




大魔法も使えるが、火竜討伐戦で使った“泥王の怒りポ・セイドン”は発動までの詠唱時間と大体10人程の人数が必要なので、どの道巨人の目を引かせる囮は必要になる。





「……相手は火竜よりも厄介な存在で、ブレス以外にも様々な攻撃方法を持ってる……それに、火竜は持って無かった再生能力持ち……加えて、俺はそんな存在を討伐するんじゃなくて、元の人間に戻すつもりでいる……どう考えても前より条件が厳しいね」



でも、とライアは口角をあげて、闘志みなぎる瞳で言葉を漏らす。




「前に比べて、俺は強くなってるし、単純に分身体の数も多い……まぁ少しだけど」




この戦いは、ライアにとって今までの戦いの集大成。



フェンベルト子爵事件の時の様に周りは被害を考えなくていい山岳と木々がチラホラと生えている平原。




「――好きに暴れよう」




心なしか、傷を恐ろしいスピードで回復して行っている巨人の目が、こちらにギンッ!と動いた気がした。










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