天災の亜竜戦 弐









――――救助班side(ライア)





『グッ……はぁ……はぁ……』



『い……てぇぇ……』




「……待ってなさい、今運んであげるから」



「軽傷な者は後でいいッ!重傷者を優先してインクリース様の所にお運びしろ!」



「「「はいッ!!」」」





ライア率いる救助隊は、巨人の進行方向に被らないように気を付けながらなんとか敵本陣に駆け付ける事が出来た。



辺りには破壊された馬車の破片や抉られた地面、それに巨人の犠牲者となった者達が大量に倒れ込んでいて、正しく地獄絵図と言っていい光景が広がっていた。



流石のアインや他の騎士達もこれほどの惨状に最初は思考が追い付いておらず、一瞬動きを止めてしまっていたが、流石に王国騎士団所属だったコルドーはこのような場面でも冷静に状況把握が出来ていたようで、すぐに動き出していた。



アインも、すぐに動き出したコルドーに釣られて正気に戻ってからは、コルドーと一緒にトリアージ損傷具合の分類作業を開始し始めてくれた。




「ガッ!!あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!!」



―――ゴキッ!グググッ……




「かっはッ!!………」




そして、ライアは今動かせる分身体全員を総動員して、重体患者……前世で考えるのであれば、助かる可能性がまずないであろう死亡扱いの兵士達の身体を直していく。



骨が折れ、皮膚を突き破っている者は折れている骨を一度≪錬金術≫で分解しながら元の位置に再構築していき、出血多量の者はその身体に蓄えられている脂肪や筋肉から血を作り出し、無理矢理生き永らえさせる。



前世の知識を持つライアとしては、遺伝子配列や肉体構造にほんの僅かでもズレがあれば、どっちにしろ数時間後に死んでしまう可能性があるとは思うが、少なくとも身体を組み替えた所で分身体の体は死ぬことは無かったので、そう言った問題は無いと願いたい。



それに、もしそれで死ぬとしても、今死なれれば結果は同じだとは思うし、生きれる可能性を考えてやらない選択肢はない。




「よし……次!」



「いっ!!!痛い痛い痛いッッ!!」



骨が突き出ていた患者を直し終えると、今度は腕がちぎれかけ、腹部に大きな穴が開いた男性の修復を開始するが、男性は≪錬金術≫で身体が組み替えられる痛みに目を覚ましてしまう。




「あぁ……ごめんね?麻酔とか無いから、頑張って耐えてね!」



「え、は?麻酔?……ってなんで俺、生きて……っていでぇぇぇぇッッ!!」



男は今の自分の身体がどうなっているのかはすぐに理解できていなかったのか、ライアの言葉にハテナを浮かべるだけだったので、そのまま今も血を流し続ける腹部と腕の修復と再開する。




「君も気絶してた方が痛みを感じなくてよかったのに……残念だったね?でもこれも自業自得だから諦めて」




「あ、ちょ、待って!?すっごい痛いけど、めっちゃ美少女にやられてると思うとなんかヤバい扉ががががががががッッ!!!!!」





何か男性の口から変なセリフが聞こえてきたが、時間も惜しいのでさっさと終わらせる為に≪錬金術≫の方に意識を割く。




「よし!次!!」




「あひゅぅ……あひゅぅ……」
















敵本陣での治療紛いの行為が始まってから約20分……分身体も20人中5人程改造人間ホムンクルス化していた事もあり、大体の人間を助け出す事が出来た。




流石に、血も流れ過ぎて、両手が紛失したような大怪我をした者もいたりして、作り替える脂肪や骨の総量が足りなく両手を再構築出来なかった者もいたりはしたが、ひとまず現状命を落とした者は出ていないはず。




「本当に助けちゃったよ……」



「………インクリース様の聖女伝説、広めておいた方が良いでしょうか?」



「アイン?それをやったら君とシグレを一生別の仕事に割り振るからね?」



「聖女などまやかしですね」




総勢60名ほど重体者を1人もかける事無く救って見せた事実に、コルドーとアインは夢でも見ているかのような心地で言葉を漏らす。



「俺は人が死ぬのとかは見たくない……それなのに勝手に自滅されて、こっちの所為みたいにされるのが嫌だったからね……無理矢理にでも生かすって決めてたから」



「あははは!さすがライアちゃんだ……リネットは凄い子を嫁に出来たものだよ」



「……嫁って……というか、恐らくですが≪錬金術≫の身体構築に関してはリネットさんも同様に出来ると思いますよ?この方法は分身体の身体を弄り回したおかげで出来るようになった技術ですし、何ならリネットさんの方が綺麗に直せるかも?」




「おぉふ……」




リネットはそう言った使用方で≪錬金術≫は使おうとはしないだろうが、分身体の身体を弄り回す際に、腕の取り外しと取り付けを何分以内であれば可能かの実験などをしていたので、問題なくそう言った技術は持っている。



……どちらかと言えば、何分後に腕の細胞が死滅するのか、という部分に注目していた気はするので、直すより壊す方が得意かも知れないが……。




「それに、この方法で直した人間がきちんと生きて行けるかはまだわかってないからね……もしかすれば、数日後に全員パタっと死んじゃう可能性もあるから、まだ喜ぶのには早いかな」




「そうなのかい?」




「えぇ……なので、この人達全員ヒンメルの町で捕縛して、随時変化が無いか確認しなきゃなので、コルドーさんとアイン達にはこの人達を町まで搬送しといてくれる?」




「かしこまりました。インクリース様は……巨人…ですか?」





アインは恐らく巨人の元へ向かうであろうライアにわかっていて、一応の確認として質問を投げかけて来る。




「まぁね……あっちの方向にまだ巨人にやられた人が倒れて行ってるからそっちの人も回収出来たらして行って?巨人はあっちの方に今俺が誘導して……ってヤバッ!?」










――――……バァァァァン……





「「爆発ッ!?」」




ライアが巨人を誘導して行っている方向を指を指したと同時に、その先からこちらにまで音と振動が伝わる程の大爆発が発生する。




「くっ!皆、すぐに行動を起こして!……誘導していた分身体が……消された」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る