天災の亜竜戦 壱










―――――巨人side(ライア)






「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」




火を吹き、巨大な両手を振り降ろし、腰から伸びる巨木の様に太い尻尾で辺りを薙ぎ倒す。



木々はへし折られ、大きな岩も破壊して進む姿は正しく化け物。



「―――こっちだ怪物ッ!こっちにこいッ!」



「■■■■■!!!」




推定20メートル以上はある化け物の足元で、自分に付いてこい!と言わんばかりに化け物へ挑発を掛ける者達が居る。



まるで化け物に恐れを抱いていないような行為を平然と行っているようだが、少し目を凝らして見て見れば、どう見ても顔には焦燥の色と震える四肢が死への恐怖を感じているのだという証拠だろう。




(……そこまでして、何になるんだか……はぁぁ)




彼らは、命を賭けて、ライアの治めるヒンメルの町にあの化け物を誘導しているのだ。



誘導をしつつ1人、また1人と犠牲者を増やしながら進むその姿はどう見ても狂人のそれである。






今ライアが居るのは巨人達の少し後方、新たに出た犠牲者を死なせない為に、治療と巨人の居る場所の補足役として尾行をしている。




アイン達騎士団と一緒に行動している分身体達はこちらよりひどい、巨人が発生した敵陣地に怪我人の救出に向かっている。



「■■■■■■■■■■ッ!!」



「がぁぁぁぁッッ!?」




(くそ!またッ!)




巨人は動かなくなった人間にはそれほど興味がないのか、瀕死の人間に追撃を入れて来る事が無いのは助かるが、1分もしないうちにポンポンと瀕死の重体者を量産されるのは些か勘弁してほしい。




「ふぅぅ……≪錬金術≫」



「グッ……ぁぁぁぁ……」



破裂した内臓を無理矢理成形しなおし、折れた骨を周りの肉と癒着させずになるべく綺麗につなぎ直す。


流石に≪錬金術≫の操作性を特化させた改造人間ホムンクルス状態のライアよりも施術時間が伸びてしまうし、若干神経がズレたり、骨の一部が歪んだりしてしまうが、ひとまず死ななければ問題は無いので、心を鬼にして患者を放置する。




「っと、こっちは大丈夫……いい加減犠牲者を出さないようにしてくれないかなぁ」



≪錬金術≫にて、兵士の身体を創り直すとともに、いい加減終わりのないこの作業に嫌気がさしつい文句を垂れてしまう。



「っていうか、アレって本当に巨人なの?前に見たのより姿が違うし、前のは火だって吹かなかったんだけど……」




冒頭でも少し触れたが、巨人の姿が以前フェンベルト子爵事件の時に見た姿と大きく違い、その姿はどちらかと言えば、以前討伐した事のある火竜の姿に近く、翼の無い竜種と言われても納得がいきそうな姿だ。



一応胴体と足の部分は人間に近い物だったので、巨“人”なのだとは思うが、どうにも疑問が残る。



(この巨人だけ別の改良された薬を与えられた?……いや、寧ろさっき回収した2つの薬も実はこんな変化をする新薬だった?……うぅ~んわからない)



どの道、分身体1人ではあの巨人を倒す事は出来ないので、この応急処置まがいの作業を続けるしか出来る事は無いのだが。




「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」




―――ひゅぅぅぅ……




「えっ?……うっそでしょ!?アレって!!」



唐突に、何の前触れもなく、いきなり巨人が動きを止めると、ギザギザな牙を持つ口を大きく開くと空気が吸い込まれる音と同時に、口内に眩いオレンジ色の光が漏れ出してくる。




「ッッ!!さすがに即死されたらどうしようもないんでねッ!!!“アースクエイク”ッッ!!」




――――カッッ!!!!




どがぁぁぁぁぁぁぁんッ!!




ライアの魔法が、巨人の足元を崩し、敵兵士達に向けられていた照準が僅かにそれ、少しだけ遠くの地面が大きな爆音と共に吹き飛ばされる。




「おいおいおい……火だけかと思ったら、本当に火竜と同じブレスまで撃てるとか…反則だよ」




僅かに火竜の面影を思い出していたおかげか、ブレスの体勢に入った巨人にすぐさま気が付けたおかげで、敵兵士が蒸発する事無く危機を脱する。



しかし、別の魔法を使った代償として幻魔法のカモフラージュが解除され、見えなくなっていた姿が映し出される。



そして、恐らく本能か何かで自分の行動の邪魔をされたと認識したであろう巨人が、未だ≪潜伏≫の効果内だというのに、こちらをギュンと睨んでくる。




「あはは……バレちゃったー?」



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!」





自分を煽ってくる人間達ハエよりも、自分の邪魔をしてくるライア害虫にヘイトが向いたらしく、すぐさま方向転換してきて、こちらに両手を振り上げて来る。




「うわっと!?」



威力は申し分なく、素早く振り降ろされる両腕に気を取られると、すぐに横から薙ぎ払われるように尻尾が迫って来て、寸での所で躱しきる。




「ふっ!!“アースボール”」



「■■■■■ッッ!」




両手を振り下ろした所為か、腰を曲げていた巨人の両目に魔法の石礫を打ち込み怯ませる。



生物の本能的対処として、目に当たった痛みに手で顔を覆う巨人を見ながら、少し後方に後退するライア。



「そのまま怒ってこっちにこい」



「■■■■■■■■■■ッッ!!」



目の痛みに怒り狂った巨人が、ライアを追うように足を進めて来る。






……このまま真正面から戦ったとしても、攻め切る事は出来ないし、元となった中の人間を元に戻す為には分身体1人では何もできない。



なら、今やるべきは討伐でも捕獲でもなく、引き付けつつする事。




ただ逃げるだけであればステータス任せに逃げ出せばいいが、そうなるとまた敵兵士達にブレスが撃ち込まれる可能性も出て来て、ライアの心に根付く良心がそれを許さない。



だからこそ、ヘイトを自分に向かせながらの逃亡が現状においての最善策だと認識するライア。





「出来れば、早く他の分身体達に来て欲しい所だけど……ねッ!!」




「■■■■■■■■■■■■ッ!!」











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る