最終兵器











――――へベルベール伯爵side






空から降る毒か油かよくわからない物がようやく止み、やっとまともに外に出れると安堵をしたのもつかの間、既に戦闘が始まっている先方部隊から最悪の連絡が上がってくる。




「ほ、報告しますッ!!先方隊の壊滅、並びに騎士団長、副騎士団長の両名も敵兵士に敗れ、敵軍に捕まった模様!!」



「なにッ!?その二人には奥の手として錬金術の秘薬を渡していたのだぞ!?……まさか、命惜しさに日和ったかッッ!!」




秘薬は生産数も少なく、ある程度ステータスが高くなければ身体の変化に耐えきれずに死亡してしまう劇薬。



ステータスが足りたとしても、精々半日程度大暴れした後に必ず死亡する諸刃の剣だ。



死を恐れる者には使用する事も出来ないその秘薬は、選ばれた者しか使う事の出来ない栄誉の秘薬。




(あの2人であれば、死などに恐れず、私の為…ひいては我らが帝国の為に潔く命を使えると思っていたが……買い被りだったか?)




私の信頼を裏切りおって……そう考え込む私に、報告に来ていた兵士がまた口を開く。




「そ、それが……私もきちんと確認した訳では無いのですが、騎士団長が秘薬を口にした直後……肌が焼けた褐色の女性が団長の背中に手を当てて、秘薬の効果を打ち消した……ように見えました」




「なに……?」




兵士は、自分でも信じられないと言った様子で、自分の目にして来た物を私に伝えて来る。




「何を馬鹿な事を……帝国が誇る錬金術師が生み出した秘薬の効果を打ち消した?そんな訳が無かろう」



「ですが、少なくとも秘薬を飲んで身体が肥大化しかかっていた団長の変化が止まって、時が巻き戻るかのように元の身体になって行ったのは事実です!」



「………」




兵士の目に必死さが感じ取れ、嘘は言っているようには感じない。



仮に、もし本当に秘薬の効果を打ち消せる何か……スキルか魔法?があるのだとすれば、にしまっている残り一つの秘薬を服用しようとしても、また同じく無効化されるのでは?と考えてしまう。




「……本当に秘薬が無効化されていたのだな?」



「……はい」



「わかった……一応聞くが、騎士団長は巨人になった状態から元の状態に戻された訳では無いのだな?」



「はい……身体が一回り大きくなった所で背後から現れた女の手が背中に触れて、元の姿に戻ったように見えました……少なくとも、巨人になりきる前であれば、近づかれて無力化されるのかと」




「であるなら、敵の目の前で秘薬を摂取するのは危険……敵に接近される前に秘薬を飲まねば意味はない……か」




少なくとも、我が騎士団の中で一番の手練れである騎士団長がまんまと背後を取られている時点で、戦闘の最中に秘薬を使うのは至難の業。



あまり言いたくは無いが、王国兵の中にもそれなりの手練れが居る事は確かなようだし、この戦はまず間違いなく勝ち戦ではない。



……正攻法だけで動けば、まず間違いなく我らが負ける。



寧ろ、相手側にそれほど損害を与えられずに終わる可能性もある。




ならば……せめて、相手に嫌がらせ程度はしなくては、私の気が収まらない。




栄誉ある帝国貴族の私が、開拓が始まって数年ぽっちの街に『何も出来ずに負けた』などとはプライドが許されない。



「……念には念を…か」



「はい?」



「何でもない……残った兵を半分集めろ!物資などの見張りも要らん!」




「は、はい!……えっと、伯爵はどちらに?」




を使う」




「ッ!?……かしこまりました……」




兵士は私の言葉に驚きつつ、命令を聞いて飛び出す様に外に走って行く。




私も自分の馬車を降り、少し離れた位置に待機させている鉄製の頑丈な檻馬車へと足を進める。



地面は謎の液体の所為でぬかるみ、足を動かすたびにヌチャヌチャと音を立てるが、今はそんな事すら気にならない。



鉄製の檻馬車に近づいて行くと、汗臭さや血の混じったすえた匂いが鼻腔を刺激し、つい顔を顰めてしまう。



「……流石に臭いな……よくもまぁこのような姿になっていて生きてるものだよ……だが、その命もようやく役に立てる時が来たぞ?」



「グゥゥゥ……ガァァァッッ!!」




檻馬車の中で、鎖で雁字搦めにされているのは帝国の保有する奴隷……であった



頭部にはウルフ系統の魔物の耳が生え、口元はギザギザとした人間らしからぬ牙、両腕は一回り大きい熊の手で腰からは蛇の様な大きな尻尾が生えている。



こいつは、帝国の奴隷として生まれ≪合成≫だとか言う石ころや木を合体させる程度のスキルを持った出来損ないだ。



最初は未発見のスキルだと錬金術師達がこぞって興味を示したが、あまりの使えない効果に落胆の声は多かったらしい。



だが、そこで一人の錬金術師がある可能性に気が付いた。






“もしや、と何かを合成する為のスキルなのでは?”と




そこからはとんとん拍子に事が進んで行った。



魔物の腕を、耳を、魔石を、鱗を、無理矢理身体に埋め込み≪合成≫の力を使わせれば、普通であれば拒否反応が出て死亡するはずが、見事に生き残ってみせた。



それと同時に、筋力や頑丈性が上がり、ステータスも向上して人間ではありえない程強靭な肉体を持った化け物になり、通称魔人と呼ばれる程の強化個体として生まれ変わった。



まぁその分、知性は魔物寄りになったのか、殆ど唸り声をあげるだけの獣になったが、奴隷の首輪は付けているので暴れそうになっても言う事を聞かせる事は出来る。





……こいつに秘薬を飲ませれば、確実に他とは違う強力な巨人が生まれる。




「本当であれば、貴様を敵地に連れて行ってから暴走させようと考えていたが……喜べ魔人……私達を殺す事を許可しよう……精々大暴れして、王国の連中に目に物を見せてやれ」



「ガァァァァァァァァァッッ!!!!」




巨人になった者は総じて近くにいる人間を殺して回る。



恐らくこいつを今ここで巨人にすれば、我々全員を殺す為に動き続けるだろう。



ならば、その人間エサを街の方向へ一列に配置すれば、こいつ巨人はそちらに向かって進んで行くのだ。





「……帝国の為に命を捧げるのであれば本望………ただでは死なんぞ…?」











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