聖女?
「くくく……ぐふっ……ハァハッハッハッハッ!!!」
「ぐっ!!巨人化させる訳にはッッ!!」
「落ち着けシグレ!一旦退いて、巨人化に備え――」
ライアが近くにいると露知らずにいる3人の内、敵兵士である男の背中に向かって、歩き出す。
――――そっ……
身体の変化が起こり、狂ったように笑い出す男の背中に手を当て、身体の中で暴れまわっている魔力や竜種の血を無理矢理制御し、男に起きている変化を停止させる。
「はい残念……その失敗作程度なら簡単に制御出来るんだよ?」
「「イ、インクリース様!?(主君ッ!!)」」
それと同時に、幻魔法と≪潜伏≫のスキルの効果を切り、周りから認識されるようにする。
そのおかげで、ライアの姿はシグレやアインにも確認されたようで、2人とも驚きの表情を浮かべる。
「な、何者だ!?ぐふっ!……か、身体の変化が押さえつけられるッ!?」
僅かに膨張し始めていた身体の変化が止まり、身体に浮かび上がっていた線の様な模様も消えていく様子を見た男は、何が起こっているのかわからないらしく、パニック状態に陥っている。
「……今、貴方の中で作用している巨人化の薬を私自らが≪錬金術≫で押し留めました……貴方が言ったのですよ?このようなゴミの力を実力で止めて見せろと……ほら?帝国が言う錬金術の秘宝?だかのゴミがたった一人の≪錬金術≫で簡単に無効化出来ていますが?これで秘宝とは、余程帝国の技術は幼稚な物らしいですね?」
「なッ!?」
ライアは、目の前で混乱している男に今の状況を懇切丁寧に説明するべく、今ライアが≪錬金術≫を使っているのだとあっさり説明しつつ、帝国の錬金術のレベルは低いと
「ふふふ……これで王国風情やら王国民の癖にやらこちらを下に見たような発言をするとは……どちらが
「(……さっきの会話を聞いていたか……)」
「(くぅぅッ!!主君のあの冷え切った眼差しッ!!何と凄まじい事かッッ!!!)」
男の身体はもうすでに元の大きさに戻っている状態で、ライアの言う巨人化の薬の無効化が事実であると理解し、苦悶の表情を浮かべる。
「……貴様がどこの誰かは知らないが、我らが帝国を愚弄しているのは事実……例え命が消えようとも、必ず後悔をさせてやる。……さっさと殺せ」
男の顔にすでに生気は殆ど残っておらず、シグレの剣を腕全体で受けた時の出血がひどく、もう助からないと理解しているらしい。
「……はぁ……その反論で一切こっちの言い分を否定してないだけ、貴方は理性的なのかな?……ちょっと痛いかもだけど、我慢してね」
「は?何を…」
生きる事を諦めている男には悪いが、流石に目の前で死なれる程目覚めが悪い物はない。
成功するかわからないが、傷薬では間に合わない傷を治す為に、ちょっとばかり
(≪錬金術≫)
「ぐっ……ぐあぁぁ!!」
「ぐぅぅぅ……はッ!はぁ…はぁ………は?」
人の身体を錬金術でいじくり回すのは慣れているし、分身体の身体に出来た傷を≪変装≫で消したりしていた経験があったからか、ライアは
「ほら、腕は治ったんだから死なせないよ?きちんと捕虜として情報を話してもらうから」
「……か、回復……魔法…?」
傷を治した男は、治った腕を振ったり力を入れたりした後、信じられない物を見たかのような反応で、そう言葉を漏らす。
「「回復魔法??」」
シグレもアインも、回復魔法とやらの名前を知らないのか、首を傾げながら名前を復唱する。
ライアも、この世界に転生してきてから、一切そう言った魔法は聞いた事はなかったが、恐らくファンタジー物の話でよく出て来るアレの事だろう。
「回復魔法……我が帝国に伝わる……死人すら蘇らせるという伝説の聖女の魔法……」
「「死人すら!?」」
「え、そんなすごい魔法なの?」
シグレとアインは、死人が蘇るというとんでもない話に驚愕している様子だが、ライアとしては【回復魔法】が本当に存在しているのだとすれば、精々骨折をした腕を治すと言った程度の効果だと思っていたので、効力面でつい驚いてしまった。
(っていうか、なんかすっごい嫌な予感がするんだけど…帝国に宗教があるのかどうかとか知らないけど、
「回復魔法を操り、伝承に合った通りの可憐なお姿……伝説の聖女様が、誕生していらっしゃった……」
「あ、いや、別に回復魔法じゃ……」
「わ、私は何て事をッッ!!聖女様に無礼な態度……あまつさえ、たかが帝国の錬金術師が作った汚物の所為で、聖女様の御力を使わせてしまうとは……万死に当たりますッッ!!この無礼は死を持って償いとし……」
「いやいやいや!?折角治したのにいきなり死のうとしないで!?っていうか態度が一気に変わり過ぎじゃない!?“たかが帝国”って言っちゃってるよ!?」
もう女性と間違われる事は慣れているし、ある意味“聖女”というワードを聞いた瞬間に、勘違いされるのではと予想はしていたが、ここまで豹変するとは驚愕しかない。
「おぉぉ……なんと慈悲深いお言葉……このような私めなど捨て置けばよろしいのに……」
「ふふんッ!!我らが主君がお優しいのは当たり前であるッッ!この戦いでも、死者が出ないように指示を出されていたお方こそ、ここにいるライア・インクリース様なのだッッ!!!」
「ライア・インクリース様……なんと素晴らしいお名前か……」
(あぁぁ……あぁぁぁぁ……はぁぁぁ……またかー……またこのパターンかー)
ライアの事を崇めるようにキラキラとした目で見つめる男にシンパシーでも感じたのか、シグレが『仲間ッ!!』とでも言いたげに、同じくキラキラとした目でライアの事を話す。
「え、えっとね?先に否定しておくけど、さっきのは【回復魔法】じゃなくて、スキルの≪錬金術≫なんだよ……だから、私は貴方の言う“聖女”じゃないし、そもそも私の性別は男なんだ」
「男……?……なるほど……理解しました」
絶対理解していない。
「聖女様は聖女様とバレる訳にはいかない事情が御有りなのですね……【回復魔法】の事が帝国にバレれば、皇帝陛下と強制的にご結婚を迫られる事もありますし、王国でもそれに近い何かが御有りなのでしょう……心配しなくても構いません!私が聖女さm……いえ、インクリース様の事は必ず秘匿いたします……もしも情報の漏れが心配であれば、インクリース様の元で生涯幽閉をされようと構いません。寧ろ大変名誉な事であると歓喜に震えてしまいます……だから、どうかご自分を汚らしい男だなんだと偽らなくてもよろしいのですよ?」
(ガチか~……)
あまりの饒舌ぶりに、思わず額に手を当て、呆然としてしまう。
ある意味、自分が男だと伝えた所為で『全く男に見えない姿で何を……はッ!!ウソをつくという事は聖女である事を隠したい!?』と曲解されたようで、もう何を言った所でこちらの話は通じないだろう。
何なら、下半身を見せて男である事を証明しようとしても『聖女の御力』か何かで、どうあっても信じない可能性もある。
(いや、別に見せる気なんてないけど……)
どの道、敵対しないのであれば問題はないかと、自分が聖女であるという認識を改めさせる努力を放棄する事にした。
「……大丈夫ですか?」
「アインはそのままのアインで居てね……」
シグレと聖女信者の相手やら、ベルベットの所の変態2人組の相手やらで精神的に涙が零れそうになっていたライアに、同情の念が感じられる優しい目でアインが話しかけて来てくれたので、思わずキュンとしてしまったのはしょうがないのかも知れない。
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