小瓶の行方










結局、変態ベルベット変態新しいを生み出した事から、責任を取らせるべく変態ベルベットにその場を任せ、もう一方のシグレ達の方に姿を消してから救援に向かう事にしたライア。



(一応戦場のはずなんだけどなぁ……なんかすごい拍子抜け感が…)



ライアは何とも気の抜ける状況にため息を漏らしながら、手に持ったに目を落とす。




(まずは1人目……後2つ薬は残ってるはずだから、少なくとも小瓶を持った人間が後2人は必ずこの戦場のどこかに居るはず)



実はベルベットに敗れ変態にされた兵士は、ワイバーンレベリングを施したベルベットといい勝負が出来るほどの強者だったらしく、3つしかない巨人化の薬を持たされている有能の兵士だったらしい。



……数少ない貴重な巨人化の薬を持たされるというだけで、敵軍でそれなりに信用されている者だったのは間違いないだろうが、どうにも変態に変貌している様子に疑いの目を向けてしまう気持ちがある。



一応、薬の持ち主を聞き出そうともしたが、そこは喋る気が無いのかだんまりであったし、仮に喋られてその情報が真である保証も無いので、放置する事にしたのだ。



まぁ、何となく目に力が入って『情報が欲しければ痛めつけてくれ』と表情に書いていたので、少し尋問の真似事をすれば、色々と聞きだせたかもだが、そんな事をしている時間も暇もない。



そんな訳で、結局ベルベットに任せるのが妥当だと判断した訳である。





(っと……意外だね……てっきり、シグレとアインだったらもうすでに決着がついているかもと思ったけど)



アレコレ考えてもしょうがないし、ひとまず危険物の巨人化の薬が一つ確保出来ただけで儲けものだとポケットに薬をしまい込むと、ちょうどシグレの大きな踏み込み音が聞こえ、アインと敵が切り合いをしている場面に遭遇する。



まだ決着はついてはいないようだが、敵の肩には恐らくアイン達が付けた切り傷があり、アインとシグレの2人には怪我も疲れも無いように見える。





『……降伏?……はッ…そんな事をして何になる!……僅かに延命して、王国の奴隷に落ちるくらいなら、私は此処で命を捨てるさ』




(……なるほど……2人は俺の“出来るだけ殺さないように”って話を聞いて、手加減をしながら相手をしてたからまだ決着がついてなかったのか……だから降伏勧告……)



シグレ達と敵の会話を盗み聞く感じで、粗方の話の流れがわかったライアは、2人が律儀にライアの願いを聞き入れてくれた事への感謝と面倒を掛けている罪悪感に申し訳なくなる。




どうやら敵兵士には、撤退も降伏も受け入れる気が無いらしく、片腕が満足に動かない状態でも戦闘を続行する気らしい。




このまま敵を殺さずに対処するとすれば、もしかしたらアインやシグレが怪我をするかもしれないと、こっちに回していたもう1人の分身体と連携して、すぐさま敵兵士を取り押さえれるように背後に回る。




だが、ここで敵兵士の傷ついた右肩が動き、ポケットの中に入っていた小瓶を取り出す。



『……ッ!!その小瓶……巨人化か』




まさかいきなり2つも見つかるとは運がいい。



ライアはすかさず、敵兵士にバレないように右手に持つ小瓶を奪おうと背後から手を伸ばす。




『驚いたな……情報戦など一切出来ないであろう王国が、このの事を知っているとは』




―――ピクッ……




敵の右手に伸ばしていたライアの腕が、ピクリと動きを止める。




(……べ、別に、こんなゴミを秘宝なんて勘違いしている無知の言葉に……意味なんて無いしな……こ、ここは大人の対応で許してあげよう)



≪潜伏≫と幻魔法の“カモフラージュ”を併用しているおかげで、『ふんすふんす』とほんの少し鼻息が荒くなっているライアはバレる事無く、再び小瓶目掛けて腕を伸ばす。



『主君が言っていたが、その程度のゴミが“秘宝”とは帝国の錬金術の程度が知れると嘆いていたぞッ!!!』



(シグレッッ!良い事言ったッ!!)



伸ばしていた右腕はすぐさまシグレの方に伸び、グッと親指を立てるようなサインを送る。(もちろん見えていない)









『はッ!負け犬の遠吠えか?(イラ…)この秘薬の力を知り、嫉妬で貶す事しか出来ないのだろう?(イラッ……)……この秘薬がゴミというのなら、この秘薬の力を見せるんだなッッ!!(ブチッッ!!)』









―――――すぅぅぅ………





(決めたッ!!完膚なきまでにこのゴミ巨人化の薬を否定してやるッ!!)




堪忍袋の緒が切れたライアは、すぐさま後ろに待機させていた分身体に行動を起こさせる。




(必要なのは、竜種の血液や魔物達の魔石やらを薬に込められた錬金術で身体に融合させない事……それと並行して、薬を摂取した男の身体の操作を出来るようにして、自由自在に巨人化の効果を操れるようにする……だから、特化すべきは錬金術の“浸透力”じゃなく“操作性”の向上ッ!!)



周りには見えない透明の分身体2人は、以前にフェンベルト子爵事件の時にやったように、片方の分身体がもう片方の分身体の身体を改変するべく、背中に手を当てて≪錬金術≫を発動させる。




≪錬金術≫を施されているライアは、みるみるうちに身体の色が副作用の様に褐色色に変色していき、腕には錬金術の技術向上のイメージを付与した刺青が浮かび上がり、一目で異常だとわかる状態に変質していく。



(ふっ……きちんと腕も足も動くし、以前の様な失敗はしなかったな……まぁあれだけリネットさんに弄られたりすれば慣れるか)




改造人間ホムンクルス……以前、フェンベルト子爵事件の際にライアが編み出した、分身体の身体をスキルや戦闘能力特化に改変する技術。



昔は、巨人化した人間を無理矢理元の姿に戻すという前代未聞の行為をする為に、色々と身体能力を犠牲にして、自分では動けない下半身不随の改造人間ホムンクルスを作ってしまったが、あれから数年間、自分でも訓練をしたり、リネットに身体を弄られるなどと言った経験を得たライアにとって、腕以外動かない、などと言った失敗をする事は無い。





(後は……)



ライアはこちらの準備は完了したとでも言いたげに、シグレの剣を腕で受け止め、小瓶の中身を飲み込む敵に目を向け、冷めた目で1人語ちる。




(今見せてあげるよ……そのゴミ程度、簡単に消し飛ばしてあげるから…)










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