インクリース家騎士団の実力









――――アインside





「「うおぉぉぉぉ!!主君(ご主人様)の為にぃぃぃッ!!」」



―――ダダダンッッ!!!



『『『がぁぁぁ!?』』』




インクリース様からの初の出撃命令に興奮しているのか、目的は時間稼ぎだというのに敵を殲滅しかねない勢いで先行するシグレと変態。



変態に関しては別に心配などはしていないし、願わくば怪我の一つでもしてシグレの横から消え去って欲しい気持ちは存在するが、まぁいい。



流石に俺も、初の騎士団の出撃に気合が入っている気持ちは存在するし、寧ろ出来る事ならこのまま我々騎士団だけで、この戦いに勝ちたいとまで思っている。



何故かと言えば、これは他の騎士団員達も思っている事なのだが、実は今回の戦を力試しの場と考えている者が結構存在している。





というのも、インクリース様は軽くやってしまわれたが、ダンジョン遠征にてワイバーンを狩るなんてこと、普通の人は出来る訳が無いのだ。



地上で一体見つかるだけで、周辺地域の住人が別の街に避難して、国でも高レベルの騎士や冒険者に依頼を出し、それで討伐……と討伐が成功する事も稀な魔物なのだ。



それ程強力な魔物であるし、もし一体だけでも倒すことが出来れば、民衆から英雄視され、大量の経験値を取得する事も出来る。



………ダンジョン遠征の際に、結構あっさりシグレとコルドー殿、それに私や変態の手で討伐出来たりもしたが、アレはもしもの時にインクリース様の助けがあるとわかった上で行動していたし、コルドー殿の高レベルの≪拘束≫があってこその成果である。



恐らくコルドー殿が騎士団に居てくれなければ、動き回るワイバーンに攻撃を入れるのは難しかったであろうし、騎士団内で一番攻撃能力の高かったシグレでも翼膜以外の部分にはかすり傷程度しか付けられなかっただろう。



まぁその事をコルドー殿に言っても『ワイバーンを止める事は出来ても、その後に止めを刺す力は俺には無いから』と言われたが…。




そんな訳で、我々騎士団があぁもワイバーンを狩れたのは、インクリース様のおかげと騎士団員のスキル構成の相性の良さがあっての事だという訳だ。



だから、大前提となるインクリース様の様なワイバーンを単独でいとも簡単にねじ伏せてしまうような強者が居なければ、あのダンジョン遠征は成立しなかったと言える。(まぁ何故かもう1人ワイバーンを単独で狩っていた強者プエリちゃんがいたんだが……)







……話が少しそれたが、結局何が言いたいかと言えば一つ。



俺達騎士団員全てのレベルが上がったのだ。それも跳ね上がったと言っていいほどの速度で。



普通の生活をしている一般市民の生涯で上がるレベルの平均は大体15行けばいい方で、冒険者や騎士の様に戦いに身を置く者であれば25も行けば御の字、30まで行ったら誇っていいレベルだろう。




それを踏まえて考えて欲しいんだが……俺のレベルは31になった。



シグレは俺よりも1レベル高い32レベルらしい。




……俺達はまだ18歳や19歳の新米騎士のはずなのに、騎士団の全員が20レベル以上になっているのだ。



はっきり言って、異常の成長スピード。



そして、そのレベルアップに伴い、騎士団全員が驚くほどステータスが跳ね上がっている。




故に



「デリャァぁァァぁッッ!!」



「遅い遅いぃぃ!!」



「アハハハッッ!!インクリース様のお手を煩わせるまでもないですね!!」




いつも暴走気味に先行しがちのシグレ達以外の者達も、己の力を試そうと若干暴れまわっている。




「くぅぅそッ!!お前だけでもぉ!!」



「≪不動≫」



―――ガギィィンッッ!!



「なっ!?」



混戦になっている所に、周りの状況を見渡していた俺に一矢報いようとしてきた者の剣が、俺の目の前で止まる。



「……切れないとわかっていても、痛み位は感じるかと思ったが……やはりあの遠征効果は凄まじいな」



「あ、ありえねぇ……どうして真剣の刃がで受け止められるッ!?」



「勘違いするな、手のひらと言ってもきちんと防刃の手袋を付けているだろ……まぁそれでもスキルとステータスの高さが無ければ手をダメにする可能性もあったが、俺も存外色々と試してみたくなってな」



「な、なんなんだよお前ら……」




周囲でも、同じ戦いを専門にしている騎士達同士が、一方的に攻め入られている様子に怯えを含んだ顔でそう呟く。




「それがわからずに攻めて来る貴様らが問題だったな……ふんっ!!」



「ごガッ!?」




拳を諸に受けた男は気絶して、地面に倒れ伏す。




「……インクリース様の願いで、出来るだけ無駄な殺生はしない事になっているんでな……そのまま戦いが終わるまで、気絶していろ」



力の入れ具合的に、もしかすれば明日まで目が覚めない可能性もあるが、早くに目が覚めてしまうよりはいいだろう。



「……他の皆も、力量差的に問題は無さそうだな……シグレは……む」





『そこぉぉぉッ!!』



―――ダッダッダッダッッ!!



『くッ!?スピード関係のスキル持ちかッッ!!』




周りの状況は概ね問題無さそうだと判断して、敵本隊の方へ先行していったシグレ(あと変態も)を確認しようと前方に目を向けると、意外にもシグレと互角に戦えている者の姿が目に映る。




「シグレが優勢ではある……が、何故あの変態が助けに入っていない…?まさかあの変態、シグレを置いて先に進んだのか?」



そうであれば、俺自ら天罰を与えてやろうかと思うが、少し目線を横にずらせば、同じく変態と同じくらいの力量の敵と戦闘中だったらしく、シグレとは別で戦闘に掛かり切りになっていたようだ。




「(助けに入るならシグレだな)…シグレ!」



「むっ?アイン殿、どうなされた?」



戦闘中だというのに、敵から目を背け、俺の方に振り向くお茶目なシグレにキュンとしつつも、表情には出さないように気を付け、キリリと口を開く。



「……何やら手こずっているようだったんでな、手を貸そう」



「それは忝いッ!この者が相手側の騎士団のリーダーらしく、生け捕りにしたかったのだが、生憎と中々の手練れ故に、ワッチ1人では手に余っていた!頼むッ!」




頼むッ!……頼むッ!……頼むッ!



うん、こちらを信頼して頼って来てくれるシグレについ、頬がニヤケそうになるが、何とか堪えつつ「あぁッ!」と顔が崩れないように力を入れて返事を返す。



「……話は終わったか?あまり悠長に戦場で長話なんてすれば、いい的になるぞ?」



「……警戒はしていたさ。だからお前は俺達の会話中も攻撃をしてこなかったんだろ?」



「ふむ……ワッチは別に攻撃を仕掛けられようともすぐさま回避できる自信があったのでなッ!警戒なぞしていないッッ!!!」




男は、俺達2人に軽口を言いながら剣先をこちらに向けて、何時でも攻撃に入れるように腰を落とすのだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る