出陣










――――ライアSide





帝国からの侵攻者達を観測してから、防衛陣地や作戦を練ったり、戦いの場で有利に事を進める為に魔道具の作成を進めて約1ヵ月。



ついに、ヒンメルの町から数キロ程離れた場所に、敵が到着した。




「――――敵はどうやら、こちらの町の設備を見てかなり動揺してるみたいですね」



「……言われてみれば、インクリース子爵領はまだ開拓が始まって2年程でしたか……それでこれほどの町を作り上げたとなれば、敵に同情してしまいそうですね…」



「500人程度であの防壁を突破するとなると、何かしらの魔道具が必要になると思うのですよ!もし、興味の引くような魔道具があったらきちんと回収するのですよライア!」



ライアが居るのは、作戦司令部とも言えるインクリース家の屋敷内にある、会議室として使った広間だ。



その広間には、王都からの援軍出来たエマリアとライア本人、それにリネットと世話係のユイとセラが一緒に居る。



他の非戦闘員であるモンドやリグ、それにとぉさん達は屋敷の中にはいるが、戦いに参加する訳では無いので、いつも通りに生活はしてもらっている。




「……ライア様、ラー様方の方でも、敵の姿を捉えられたとの事です」



「ありがとうセラ……ラー達には引き続き上空からの監視との道具の準備だけして待機しておいてって伝えてくれる?」




「かしこまりました」




セラは返事と共に、恐らく屋敷の外で動かしている分身体を通して報告に来たラーにライアの伝言を伝えているらしく、ほんの少し目を伏せながら姿勢を元の場所に戻す。




(……ふふ、セラも大分分身体を操れるようになって来たね……これで≪経験回収≫を取得で来てれば、もっと色々出来たんだけどね)




なんでも、最近は分身体を同時に3体まで動かす事が出来るようになったらしく、それに伴い≪分体≫のレベルも順調に上がったらしい。



ライアの経験則的に、もうそろそろ≪分割思考≫が取得出来ても可笑しくはない頃だとは思うので、これからは、セラが沢山屋敷内で見かける事になりそうだと嬉しく思う。




「戦闘用の道具……やはり、アレを上空から落とすのですね?」



「ん?まぁそうですね……殺傷能力も無いですから、奴隷にされている子供達を傷つける事はありませんし、何より敵を混乱させる事を考えれば、とても有効的だと思いますしね」



「……確かに、相手は混乱するでしょうね…」



エマリアは微妙な顔をしつつ、確かめるようにライアに質問をしてくる。



「エマリアさんはあのネバネバとした感触が嫌なのです?」



「……嫌…というか……戦闘に備えて、周辺の地理を確認しようと外に出た際に、堀の中に落ちてしまいまして……」



「あぁぁ……それは…災難でしたね……堀の中には【粘液属性】の魔石で作り出した粘液が大量に散布されてますから……」







実は、堀池の中身を池用の水ではなく、リグとパテルが作り上げた【粘液属性】の他属性合成魔石から生み出される粘液を堀の斜面に塗る事にしたのだ。



これは、堀の掘削作業中に1人の男性が掘削中の堀に滑り落ちていく事から思い付いた事なのだが、堀池を水で満たすのではなく、粘液というローションまみれし、堀のそこに滑り落ちるように作れば、仮に子供達が堀に落ちようとも水で窒息する事無く、ただ堀から這い上がれないようにすることが出来る。



それに、堀が水だった場合は、大人の人間は泳いで越えられる可能性の方が高いので、寧ろローション堀にした方が突破は難しくなるはずなので、この考えに至らせてくれた掘削作業中にこけた男性には本当に感謝の念しか存在しない。



そして、先程の会話からもわかるかと思うが、ラー達ハルピュイア3姉妹達には、敵のはるか上空で【粘液属性】の魔石を持ったまま待機してもらい、子供達の救出を開始する際に敵の頭上からローションの雨を降らせてあげれば、いきなり振って来たネバネバの雨に『もしや毒!?』と混乱は必須であろう。



ちなみに、ハルピュイア3姉妹に持たせた【粘液属性】の魔石は簡易ながら魔道具化しているので、生まれつき≪魔力操作≫の使える3人には上空でも魔力を流し込めば使える仕様にはしている。





「色々とトラウマになりそうでしたが、落ちてしまった私にも責はあるので、ひとまず忘れる事にします……それより、敵の動きはまだありませんか?」




「何か、指揮官っぽい人が部下に何か話しているようでしたけど……どうやら子供達を使って何かするっぽいですね……子供達がヒンメルの町に向かって来ました」




「数は?」



「……恐らく、事前に確認した奴隷の子供達全員が来てます。……なんで子供達を先に行かせたかはわかりませんが、これはチャンスですね。子供達と分断する手間が省けました」



元々、子供達を戦闘に巻き込まない為に、どうにかして子供達を相手の陣地から誘導し、保護するつもりだったが、どうやらその手間は要らなくなったらしい。




「……子供達は武器を持たされているので、恐らく武力偵察の為に送り出されたのかも……このままいけば、子供達は堀の中を超えようと進んで来そうなので、回収班の分身体達を動かします!セラ!ラー達にいつでも合図を送れるように準備をしておいて!」



「かしこまりました!」



「エマリアさんは……」



「私は、子供達の回収の時間を稼ぐ為に騎士団と共に出陣……ですね?」



エマリアに声を掛けようとした時には、既にどう動くかは理解してくれていたようで、机に立てかけていた愛剣を腰に差し直し、広間を出て行こうと準備をしていた。





「すみません!お願いします!」



「心得ました」







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