作戦会議
敵兵力は約500……内100名ほどは馬に乗った正規の騎士の様な装いをした手練れのようで、それ以外は皆歩兵や奴隷の子供達ばかり。
指揮官…というより、今回の襲撃に同行して来たのは、以前帝国の【ラウル亭】にて密談を交わしていた人の片割れである貴族風の男で、どうやら白衣を纏った男は同行をしていないらしい。
近くに待機させている分身体からの情報では、その貴族風の男の名前は【へベルベール伯爵】と言う名前らしく、後方の馬車の中でふんぞり返っているようだ。
どう見ても戦える風貌ではないのだが、何故かこのヒンメルの町への襲撃に同行しているので、もしかしたら何かしらの有益なスキルでも持っている可能性はあるかも知れない。
「……後は基本的に、武器や食料を積んだ馬車だけ。数はそれ程多くは無いようだから、籠城をすれば、ほぼ100%勝てる戦いだね」
場所はヒンメルの町のインクリース家の屋敷に備えついている広間。
今回の戦いに関しての情報を共有、指示を出しておこうと騎士団代表でアインとシグレ、ヒンメルの町代表としてリネットとモンド、そして今回急遽応援に来てくれる事となった王国騎士団の騎士団長であるドルトン……ではなく。
「では、籠城を選ぶので?」
「いえ、今回は籠城をしても防壁を超えられる可能性が存在するので、基本的に籠城はしないです」
「……例の巨人化ですか…」
ライアに質問を投げかけた女性は、王国騎士団副団長の座に就いている【エマリア・ボールト】。
実は、今回応援に来てくれたのは王国騎士団の約3分の一程の人数。
騎士団長であるドルトンは王都の守衛の任があるので、おいそれと王都を出る事が出来ないらしく、今回は副団長のエマリアが隊を率いて来てくれたのだ。
「はい……それに、相手側には奴隷にされている子供達の存在もいますから、出来る事ならあの子達を無事に保護をしたいと考えてます」
「何か策はあるので?」
戦いの場に、子供の命を優先するような発言をしても、エマリアは特に表情を曇らせる事無く、話を続けてくれるので、ライアと同じような優しい考えの人なのか、もしくは単純に救えるのなら救った方が良いだろうという合理的な考えの人なのかもしれない。
「策と言える様な物では無いです。奴隷の子供達を隙を見て開放して、私の分身体に子供達を保護させるつもりです」
「……色々と問題はあるとは思いますが、それ以前に帝国が使用している奴隷の首輪はどうするんですか?アレは契約者の意思一つで首を締めあげ、最終的には命を奪うような代物ですが……」
「そちらは大丈夫です。以前、帝国の使う首輪を解体した事がありますし、内部構造は頭の中に入ってます」
セラ達に付けられていた奴隷の首輪も、きちんと≪錬金術≫で解体可能だと実証済みであるし、やろうと思えば大体一個20秒で解体は出来る。
「仮に分身体20人が一斉に50人いる子供達の首輪を外そうとすれば、約1分程あれば、全員の首輪を外すことが出来ます」
「つまり戦いの中で約1分程、インクリース殿の邪魔を帝国側にされなければ、子供達は全員救えるという事ですね?」
「はい」
恐らく、奴隷の子供達はこの戦いで捨て駒として連れて来られたはずだ。
戦いが始まれば、武器を片手に先陣を切ってこちらに攻めて来ると仮定をすれば、その状態で子供達の首輪を外そうと動けば、すぐにこちらの作戦がバレ、子供達の首輪を作動されかねない。
もし作動されなくとも、数人でも首輪を外し損ねれば、子供の人質が有効とバレてしまい、子供を盾に攻めてくる事は目に見えている。
だから、どうしても、戦いの中で子供達の方に注意を向けさせず、ライアの動きを勘付かせずに約1分の時間を作り出すしかないのだ。
「……かなり難しいですね……」
「一応、分身体はもっと居るのですが、各地の連絡要員や家族の護衛に数人を行かせるので……」
自衛の手段を攻めに使い、万が一家族や自分の身に何かあれば本末転倒になってしまうし、アーノルドと話していた自分の護りたいモノをきちんと護れるようにする為に、無茶はあまりしたくはない。
「……まずは敵の攻撃をどうにかしないといけないでしょうし、まずはそちらの方を詰めましょうか」
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――――――――――
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ライア達の会議が行われる中、ヒンメルの町の外では大規模な掘削作業が行われていた。
よく、テレビとかで見た事があるかも知れないが、戦いの本拠地を守る際に必ず登場するのは、防壁を簡単に登らせない為の堀池や木を尖らせた物を柵に見立てたバリケード、そう言った対策はどの世界でもかなり有効な手段として活用される。
「“アースクエイク”!!」
―――ゴロゴロゴロゴロ……
「おぉぉ!さすが領主様、あっという間に、地面が粉々だ……よーしおめーら!早速瓦礫をどかして行くぞぉー!」
「「「おぉぉぉ」」」
敵が攻めて来るのは大体1ヵ月後。
やろうと思えば、それだけの期間でも町の周りに堀池やバリケードを作る事など簡単だろうが、手伝えるのに何もしないという選択は出来ず、ライアは分身体を数人土木作業員として、ここに送っていた。
「堀池の掘削はこのままいけば、明日にでも完成しそうだね……バリケードや町の内側から外の様子を確認出来るように、高台みたいのも作った方が良いかな?」
魔法で地面を隆起させ、堀の部分の土や岩を浮かせながら、色々と1ヵ月後の戦いに思いを走らせる。
「…ってこの堀も、こんだけ深いと溺れる人も出る可能性もある…?そうなったら、奴隷の子供達もちょっと危ないよなぁ……」
頭の中では、屋敷の広間で行なわれている会議の内容は随時更新されて行ってはいるが、現場を見ているライアでも、子供達を安全に隔離する方法が思い浮かばない。
何なら、堀の深さを見て、この堀に水を貯めた際に奴隷の子供達が誤って落ちてしまって溺死の可能性もあるなと心臓がヒヤリとする。
「堀の高さをもっと浅くする?いや、それじゃぁ子供達以外の帝国の連中が簡単に突破できるようになっちゃうしなぁ……あ」
『―――ちょわぁぁぁぁっと!?』
――――ドテンッ!ガラガラガラ……
頭を悩ませるライアの目の前で、1人の男性が瓦礫に足を取られ、堀の深い所まで転がり落ちるのを目の当たりにする。
ライアは少しだけ男性の心配をしたが、周りの人達に『なーにやってんだこのどじ』『どんくさいなぁもっと足腰鍛えとけ?そんなんじゃツェーンちゃんのライブで足が持たねぇぞ?』と茶化され、転がった男性も『うっせッ!ちょっと足を滑らせただけだろ!!』と恥ずかしそうに作業に戻って行くので、問題は無さそうだと一安心する。
「………あれ?……もしかして、これって……うまく行けば子供達を救えるんじゃ…?」
ライアの頭の中に、ある作戦が思い付いたと同時に、もしそれが上手く行けば、会議で問題になっている【1分問題】も【堀池の溺死】問題も両方解決できるのでは!?と目を光らせる。
(……あのこけた男の人には感謝しなきゃな)
ライアは、こけた事を恥ずかしそうにしている男性に静かに感謝の念を送るのであった。
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