発見










帝国からヒンメルの町に来るには必ず通らなければならない道がいくつか存在する。



その中で、王国の目を掻い潜りながら進行するとなれば、山を越えるルートと魔物の出る森林を抜けて来るルートしか存在しない。



なので、山の出口2か所と森林を見張る為にライアは分身体を3体送り出し、万が一敵が進軍してきても早めに把握できるように監視をさせていた。




『―――』



「……ん?」




帝国の密会が行われた日より数か月、元々人通りなど一切ない山の麓で身を潜めていたライアの耳に、何かこちらに近づいてくる音が聞こえ始める。




「≪潜伏≫……“カモフラージュ”」



人の気配を感じ取ったライアは、すぐさまスキルの感知をされないように≪潜伏≫で己の存在を認識されないようにし、念押しをするように幻魔法のカモフラージュで視覚的にも姿を見えなくする。



ここまでしっかり隠れれば、仮に≪索敵≫持ちが居ようと恐らくすぐには見つからないはずだ。




姿を消し、音の聞こえて来る先を確認する為、山の切り立った高台の様な場所に移動する。




『―――ってんだ!――く歩け!!』




(……見つけた)




山の中腹らへんに、総勢2~300人ほどの隊列を組んだ者達が、声をあげながらこちらに進んで来る。



パッと見、馬に乗っている者達の服装から帝国の者であるのは間違いなさそうだし、奥の方では位の高い者でもいるのか、荷馬車とは別の装飾が施された馬車があった。



(……この道を抜けるなら、まず間違いなくヒンメルの町に向かうんだろうね……この山を越えた先はエルフ達の住む神樹の森かヒンメルの町にしか道はない……今更帝国がエルフ狩りをする意味もないだろうからね)



念の為、エルフ達に注意喚起はしておくべきだろうが、ライアはすでにあの帝国貴族達の話し合いが欺瞞であった可能性は無いと判断している。




『きびきび歩かんか奴隷どもッ!!』



(……奴隷…?)




敵の人数や装備、その他色々を観察していたライアの耳に、先程から馬上から声を荒げている者の声が入ってくる。



「……まさかあの子達って…!?」



隊列の先頭集団の少し後ろ……馬車や先頭を歩く馬の姿で見えにくかったが、下を向きながらよたよたと首輪を付けたまま歩く者達が目に入り、すぐさまライアは気が付く。




「……本当……帝国の人間って、俺の心を逆撫でする奴らばっかりなんだね……」



帝国にスパイのライとして潜入し、2年以上を過ごすうえで、仲良くなった自由の無い子供達……その子供達が50人以上、無理矢理歩かされるように隊列の中に組み込まれていた。




「……結構な人数が居なくなったと思ってたけど……この為に集められていたなんて……」



何かが出来た訳では無い。だが、それでも何も知らない間に小さい子供達が命を落とすともしれない戦争に連れ出されていた事実が悔しく、帝国への苛立ちが募る。



(……絶対、助ける…)



ライアは決心と共に、奴隷の子供達の安全の為と敵の情報をより集める為に、姿を消したまま近くまで近寄って行くのであった。








―――――――――――

―――――――――

―――――――







――――王国(アーノルド付きライア)Side




帝国が攻めて来た情報は、すぐさまアーノルドに伝え、そのまま国王並びに軍事を預かる貴族達にも通達された。



「ライア殿、リールトンの街に滞在している騎士達とは合流できたか?」



「えぇ……リールトンの街のアイゼル様達にもこの情報を伝えていますが、問題はないですよね?」



「構わない……仮にヒンメルの町が落とされるか、撃退されて逃げる場合にはリールトンの街にも危険が及ぶ可能性もあるのだし、情報はきちんと伝えておいた方が良い」



「はい」




アイゼルや冒険者ギルドのシェリアにはすでに帝国の動きを伝えていたので、仮にアーノルドに黙っているように言われでもしたらどうしようも無かったので、少しだけホッと息を漏らす。




現在、ライアとアーノルドは王城の中を歩きながら、軍事会議を行う部屋に向かう途中であり、細々とした事実確認をアーノルドと交わしている最中である。




「……しかし、私の様な一般市民が本当に軍事会議に参加してもいいんでしょうか…?」



実は、今から向かう軍事会議という場所は国王を始め、侯爵家や軍事に関わる伯爵家以上の高位の貴族ばかりが参加するガチ目の会議場なのである。



以前、ダルダバの町の襲撃があった際にも会議が行われていたらしいが、ライアの様な貴族になりたてのほぼ一般人が参加する事は出来ず、アーノルド経由で情報などを流すのみだったのだが、何故だか今回から『帝国との争いに関しての会議には必ず参列するように』と命令が下ったのだ。




「帝国の事で、一番情報を持っているのはライア殿であるのは間違いないだろうし、いちいち私経由で情報を聞くのが面倒なのだろうな」



「いくら情報を持っていても、軍師の真似事なんて出来ないんですが……」



「ライア殿であれば、作戦など考えなくとも帝国兵たちを捌ききってしまいそうだがな」



スキルとステータス的に、数百人ほどの盗賊であれば問題は無いかもしれないが、さすがに敵の何人かは死人を出す可能性もあるので、気持ち的にはそれはやりたくはない。



それに、今回の敵はあの奴隷の子供達が相手になる可能性が高い。



そうなれば、ライアは子供達を傷つけるような攻撃は行えないし、その甘えが敵にバレれば、奴隷の子供達を盾に攻められる可能性もある。



「……私は人を殺す事は出来ればしたくはありません…」



「それは私も同じ気持ちだし、恐らく騎士達の中でも喜んで人を傷つけるような者はいないだろうな……だが、生半可な力で優しさを持てば、己が傷つくとわかるから、皆覚悟をもって剣を振うのだろうな」



「それは……そうですね。私はその覚悟が足りないのだと思います…」



悪い人間を痛めつける事は別に心が痛まない。



魔法で骨を折ろうが、沼に落とし窒息させて気絶をさせようが、その人間が悪党で、自分の敵であれば『ざまぁみろ!』とお仕置きをするような気持ちで攻撃が行える。




だが、命を奪ってしまえば、その責任を背負う事になる。



人の人生を奪う事に対しての恐怖やその命を奪った者達の親族や親しい者達からの恨み、そう言った物を背負うのがどうしても……怖いのだ。



恐らく、この考え方は大事な者を奪われるような事にならなければ変わる事が無いのだと、自分を情けなく思ってしまう。





「……別にいいのではないか?」



「別にいい……ですか?」



アーノルドから返された言葉は、今までの会話の流れからは予想できない、不殺を認めるような言葉。






「単純な話、護るべきモノを護りきれる力を持っていれば問題はないんだ。……人を殺せないというのであれば、誰も殺さずにいれるように強くあればいい」





アーノルドは大真面目に、ライアの考えを応援しているのか、何ともバカげた話を自信満々に言い放つ。




「……ぷっはははは!……とても理想的な考えですね……ふふ」



「む?理想的という事は、それが一番良いという事だろう?……ライア殿であれば、出来なくはないと思ったから私も言ったのだ。撤回するつもりは無いので、ライア殿の自由にすると良い……さぁ、ここだな」




アーノルドは目的の場所に着いたと話を切り上げ、会議室の扉に手を掛ける。



ライアは、アーノルドの予想外の言葉に勇気を貰った気がして、お礼を伝えようとアーノルドの顔を見ると、耳が真っ赤に染まっている様子が伺え、先程の言葉はライアの為を思って言った言葉なのだろうと理解した。




「……アーノルド王子……ありがとうございます。私、頑張りますね」




アーノルドからの返事は無かったが、横顔から覗く口元が、僅かに微笑んでる所から、きちんとライアの言葉が伝わったのだと感じられた。









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