約2週間の開拓術








「「「かんぱーい!!」」」



ライアの狂気の訓練が開始して大体1週間程、着実に進めて行っていた第二ダンジョンの開拓が完了した事を祝う為、バンボ達大工組と騎士達の皆はダンジョン前の拠点にて、宴会を開いていた。



開拓とは言っても、ダンジョンと飛行船の離着陸場に防壁と冒険者達が安全にダンジョンへ向かう為の通路を造っただけなので、それほど時間の掛かる物は作ってはいない。



だが、一応ダンジョン前で傷薬の販売や露店などを設置する事も考え、防壁の規模はちょっと広くしてもらっているうえで、最初の拠点作りから数えて1ヵ月も掛かっていない事を考えれば相当早い方だろう。



この世界にはスキルがあるとはいえ、中々にファンタジーな作業スピードである。





「主君ーッ!ワッチも何かお手伝いいたしまするぞッ!!」



「ん?ありがとうシグレ……でも気にしないでいいよ?俺は分身体じゃご飯を食べても味が感じないから調理をやめたらする事が無くなっちゃうし、≪家事≫のスキル訓練にもなるから」



「な、なるほどッ!スキルの訓練も兼ねていたとは……ワッチは目から鱗でございまする!!」



シグレの反応に『この世界にも目から鱗って言葉あるんだ…』と少しズレた所に関心をしつつ、調理の手を動かし続ける。








第二ダンジョンでの開拓は、はっきり言えば、殆ど何も問題などは起きなかった。



ダンジョンの中ではミノタウロスと偶に出る花の魔物の2種類の相手をするのみで、ダンジョンの外では偶に騎士達だけでは対処しきれない魔物が出ては来るが、ライアの魔法の補助があれば問題は無かった。



……いや、一度だけ一つ目巨人の【サイクロプス】が来た時はライアが対処した時があったので、それは問題があったと言えるかもしれないが、基本ワイバーンとそれ程変わらない位の強さだったので、余り問題だとは感じる事はなかった。



そんな平和(?)な1週間でダンジョン探索と騎士達の見守り以外にライアがした事と言えば、ミノタウロス肉の干し肉作成とズバリ、魅了属性とも言える花の魔物の魔石の研究である。




この際干し肉の方はおいて置くとして、魔石の研究の方なのだが、わかった事がいくつか存在する。



第一に【魅了属性】の魔石は魔力の込める量で効果(魅了される強弱)は変わらないという事。(変わるのは魅了の影響範囲のみ)



第二にこの【魅了属性】は基本、恋愛感情に対しての魅了しか掛からない。(尊敬や家族への親愛では発動せず、性欲に直結する感情を肥大化させる効果しか無いっぽい)



この二つが新たに分かった事である。



ちなみに、第二の方は検証をする際には騎士の数人に手伝って貰い、ライア自身が≪変装≫にて、おじさんの姿に変える事で実証できた事なので、見た目の良し悪しが関係するのは確実であり、最初に魅了に掛かったバンボとシグレは、少なからずライアに性欲を抱いていた証明にはなるのだが、これは2人の為にも言わない方が良いだろうと心に決めたのは言うまでもない。




あと、少しだけ魔が差した訳ではないが、分身体の姿を一時的にリネットの姿に変えて、自分自身に魅了は通じるのか試してみたが、同じ魔力を持つ者同士では効かないのか、もしくは分身体にはそもそも魅了が通じないのかはわからない。



他の人に魔石を使ってもらい、確かめようにもそもそも≪魔力操作≫を持っている者がいないので出来なかった。



そんな訳で、結局魔石を使った使用者へほんの少しでも性的欲情を持っていれば魅了に掛かるが、その感情を持ちさえしなければ、大丈夫という何とも安心しきれない代物という結果に落ち着いた。



これは余談だが、ダンジョンでのミノタウロスの襲撃に関しては、花の魔物にミノタウロスが欲情をした事になるが、それは恐らく“花”の魔物らしく、ミノタウロスや他の魔物達を惑わすフェロモンの様な物を使っているのではないかと予想しているが、これは確実ではないとだけ言っておく。





(……まぁ今までに何度か花の魔物とミノタウロス達を倒しているけど、フェロモンを飛ばす様な仕草は一切して無いっぽいし、ミノタウロスを呼び寄せているのは別の要因かもしれないけど…)


















翌日、ライア達は飛行船の前に集合し、バンボ達の最後の確認を終えるのを待っていた。




「―――お待たせしましたインクリースさん。こっちは大丈夫そうです」



「わかりました……では、今回の開拓作業は終了とし、第二ダンジョンの拠点は完成といたしましょう!皆さんお疲れ様でした!」




「「「お疲れ様でした!」」」



期間にすればそれほど長い開拓では無かったかも知れないが、それでも精一杯仕事をしてくれたのには間違いはないので、心を込めて【お疲れ様】と言葉に出す。



皆も自分達が思っているより、未到達地域という危険地帯で作業しているという心労があったのか、皆ホッとしたような顔をしている気がする。



「大工達の皆さんには“働きアリハウスマン”さんからのボーナスが出るのは決まっているようですが、私の方でも感謝の意味も込めてお給金をだしますので、ヒンメルの町に着いたら受け取ってください……騎士の皆さんも特別報酬として給料に上乗せしておくので楽しみにしててください」



「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」



「流石は主君ッ!!懐の広さが違うぞッ!!」



一応、危険手当の様な物はあった方が良いと思うし、一緒に働く仲間達には気持ちよく働いて欲しい。



そんな思いで話したのだが、予想以上に臨時報酬の話は嬉しかったらしい。




「俺、久しぶりに町に帰るなら絶対ツェーンちゃんのグッズを買い漁ろうって思ってたんだ!」



「いやぁ開拓がこんだけ早く終わらせれて良かったよなぁ……日付的にはあと2週間くらいか?そんくらいでツェーンちゃんのライブが開催されるって言ってたし、建築に気合が入ったよなぁ!」



「俺…絶対ツェーンちゃんのライブに間に合わせるって決めて、めっちゃ働いたわ……なんか途中で周りの奴らの動きがスローに見えてめちゃくちゃ仕事が捗ったわ」



「よし!貢ぐ為の金が増えるッ!生活費を消費してこそ真の愛ッ!!」





(……ってツェーンかッ!?そこに行きつくんか!異様に開拓スピードが速いと思ってたけど、スキル云々よりもツェーンのライブに間に合わせるために急いでたんかいッ!!確かに2週間後にライブあるけども!!)



歓声と共に、大工達の予想外の話し声に、思わずこけそうになったライアは、何とか醜態をさらす事無く心の中でツッコミを入れる。



「……すみませんねインクリースさん……こいつら、ウルトの奴の影響でしばらく前からこうなってまして…」



「……いや、バンボが謝る事じゃないし、ある意味自業自得だからね……気にしないで」




バンボは『自業自得…?』と疑問を浮かべるが、すぐに考えても意味が無い事だろうと、すぐに頭を切り替え、仲間の大工達に「お前ら!いい加減静かにしろぉ!!」と喝を入れてくれる。




「……ごほん…まぁ伝える事は伝えたので、皆さん飛行船に乗り込んでください。早めにリールトンの街に行っておかないといけないので」




「……主君?リールトンの街なのですか?」




シグレが、ライアの言葉に疑問を持ったのかすぐに質問をしてくる。



「あぁそうだったね、皆に伝えてなかったけど、リールトンの街に王都から来てる騎士団を迎えにいく事になったんだ」



「そうなのですか?しかし、何故に王都の騎士団がリールトンの街に……?」




「いやぁ、実はもしかしたらヒンメルの町に敵が攻めて来るかもって情報があって、もしその情報が欺瞞でなかったら応援を呼べるように、アーノルド王子に騎士団の一部をリールトンの街に遠征させてもらってたんだ。本当に敵が攻めてきた時にすぐに駆け付けてもらえるように」



アーノルドが送ると言った『それなりの戦力』というのがこの騎士団達であり、何故リールトンの街に滞在しているのかと言えば、単純な話、王都を攻められようとヒンメルの町を攻められようとどちらにでも駆け付けれるように、王都とヒンメルの町の中間地点であるリールトンの街に滞在させているという訳である。



ライアの発言を聞いたシグレは、すぐさまライアの『迎えに行く』という言葉である可能性を口にする。



「……つまり、ヒンメルの町が攻められる事が確定した……という事ですな?」



「そう、そしてその情報はアーノルド王子にもすでに伝えて、リールトンの街に滞在している騎士達にも迎えに行くってすでに通達済み」



「承知いたしました主君ッ!!…で、敵の襲撃は何時頃と?」




ライアは口元に手を当て、少しだけ考える様な仕草をした後、真剣な顔で質問への返答を返す。








「3週間後」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る