狂気の訓練法








―――ザスッ!!


「くっぷッ!!」



訓練を続けていく内に、剣や槍を躱し損ねた者がちょくちょく現れ始め、今も分身体の一人が喉を槍に掠められ、普通の人間であれば致命傷の傷を負う。




だが、その分身体は特に消滅するようなそぶりはなく、そのまま立って訓練場の横にはけて行き≪自己回復≫の力で全快(太もも、もしくは一部の怪我は残しつつ)させて、再び訓練に戻るを繰り返す。



本来、分身体は致命傷を受ければ消滅するはずなのだが、ライアに至ってはこの程度の致命傷を受けようと実は大丈夫だったりする。



それというのも、分身体の身体が消えるのは分身体が持っている【HP】が消えた時なのであって、ある程度の損傷を受けようと、その身体にHPが残っている限りは消えたりはしない。



分身体の元となるライアのHPは3万と8千……まず簡単には死にはしない。



もちろん首を切り落とされたり、身体の血が全て抜け落ちたりするような事…つまりは生物として生命を維持できないような怪我をした場合に関しては別問題だが、今の様に首を断ち切られる事なく、喉を裂かれたくらいの傷ではライアにとっては致命傷にはならないのだ。(血は≪体液操作≫で流れないようにしているので、出血死の心配もない)



なのでレベルが上がり、≪体液操作≫を取得したライアの分身体は、心臓や頭を破壊するような攻撃をしない限り、分身体は消滅しなくなったのである。



(まぁ俺本体が攻撃された場合には、傷を付けられた痛みでショック死する可能性もあるので、俺自身の身体で死なないかどうかの実験はするつもりはないけど……)



そう言った意味でも分身体の体は、こういった傷の痛みを無視した訓練法もしやすいと言える。




「≪体液操作≫様様だね……まぁ、とぉさん達に見られたら止められそうな光景だけれど…」




ライア本人は、万が一分身体が消滅するような攻撃をしてしまってもいいように、すぐ≪経験回収≫を行えるように訓練場の近くで、訓練の様子を眺めていた。




分身体達の使っている訓練場は砂煙が上がりながら土魔法や水魔法が飛び交い、何人かは片足を落としたり、血は流れていないのに胴体に槍が突き刺さっていたりと中々にショッキングな光景が生み出されている。



両親に見られでもしたら卒倒された後、自分を大事にしろとお説教される事間違いなしだろう。



ちなみに、本日の両親達は畑仕事をしに畑に行っているのは確認しているし、両親達は訓練場に用など一切ない人たちなので、まずこちらには来ないだろうが。




『はわわわわわ……』



『……なにあの魔法の嵐……なんで戦えてるの…?』



『あはは……アレが俺達の守る対象か……守る…?』



『はぁ……はぁ……あの中に入れて頂き、完膚なきまでに痛めつけられたい……』



『痛みを感じる前に死ぬだろ!?ってかお前ホントに行くなよ!?』




訓練場の騎士達もその異様な光景に気圧されているのか、訓練を一旦中止して分身体達の様子を伺っている。




「……あんまり気になるようだったら、どこか別の場所に移ろうか?皆の訓練の邪魔はしたくはないからー!」



『『『あ、大丈夫です!すいません!』』』



騎士達に確認のつもりでそう声を掛ければ、アリの子散らす様に自分達の訓練に戻って行く。




「う~ん……今度からは此処でやらない方が皆の為になるかな…?」



「―――ご主人様」



「わッ!?…ってベルベット?」



先程の変態的発言をして、分身体達の所へ歩き出そうとしていたベルベットが何もなかったかのような涼しい顔をしながら、ライアの背後から声を掛けて来る。



「申し訳ありませんご主人様……しかし先程、別の場所で訓練をしようかと言葉にしているのを耳にしまして」



「あ、いや別に良いけど……それがどうしたの?」



「もし、ご主人様が騎士達の迷惑を考えての考えでありましたら、場所の変更などはしないでいただきたいのです」



「え?どうして?」




「先程はあまりの光景に我を忘れかけておりましたが、あの戦闘訓練の様子はご主人様の御力をきちんと目にする事の出来る絶好の機会なのです!今は他の騎士達は混乱でご主人様の凄さが漠然としか通じていませんが、ご主人様を守る騎士達はきちんとご主人様の力の力量を知っておく事は重要なのですッ!!願わくば私もご主人様の容赦のない攻撃を間近で見ていたいという気持ちもございますがッッ!!」



「後半で台無しだよ……」



ベルベットの主張は何となくわかるし、騎士達も日を追うごとにそれほど気にはしなくなるとも思うので、ベルベットの声で決めるのは癪だが、明日からもこの訓練場にお邪魔させてもらおうかなとライアは考える。



「……まぁベルベットの主張はひとまずわかったよ…どのみち、今日は夕方までこのまま続けるつもりだから、そこまでやって騎士達の訓練の邪魔にならなそうだって思えたら明日からもお邪魔しようかな?」



「かしこまりましたご主人様……ではこのまま立って見ているのもご主人様のおみ足に負担が掛かりましょう?ささ、私のお背中に……」




「座らないから向こうに戻りなさい」





―――――――――――

―――――――――

―――――――





結局、騎士達はライアの訓練を偶に目を向ける程度で、それほど訓練の邪魔をする訳では無さそうだとわかった。



一応、ベルベットが騎士達に色々と話してきちんと訓練に集中した可能性もあるが、それはそれできちんと訓練になっていれば問題は無い。





「よし!今日の訓練は終わろうか」




時間も時間で、既に夕刻だ。



昼からずっと訓練を休むことなく続けていたので、大分効率よく訓練を出来たと思う。



後は≪経験回収≫きちんとしてから、屋敷に戻る……という訳ではない。




(仕事は午前中に片付けれる分は片付けたけど、昼の分はどうしても少なからずあるから、数人は屋敷に戻すけど、その他の分身体達はこのままダンジョンへ直行させる)




昼は分身体同士で効率的にスキルを鍛えさせ、夜中はライア本人が付いていけないダンジョンへ経験値を溜めにワイバーン狩りへと行かせる。



そして翌日の朝に戻って来てもらい、午前中の仕事を一気に終わらせ、再びスキル訓練を行おうとライアは考えたのである。



「寝不足になる一歩手前までは訓練して、一気にレベルを上げてやるぞ!目指すは俺のレベルが1上がるのと、≪家事≫や≪農業≫みたいな育てにくいスキル以外でスキルレベルが20以下のスキルは最低でも3……出来れば5は上げたい所だね」




頑張るぞー!と気合を入れるライアは、ひとまず分身体達から今日の分の経験を早速回収して行くのであった。









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