娯楽
「むむむむぅ……も、もう一枚なのですッ!」
「はい」
「に……26!?アウトなのですよぉ……」
ウルトにカジノスペースやアミューズメント施設内で必要になりそうな家具なんかの発注をしてから数日、早速試作品が出来たと連絡を貰ったライアは、早速トランプがきちんとこの世界で受け入れられる遊びなのかを確かめる為、人を集めてのトランプ大会を開催していた。
「リネット様は脱落ですね。他の方はどうしますか?」
「セ、セラさん!私にも1枚く、ください!!」
「おぉ!アルってばカッコいい!お姉ちゃんも続くよ!セラさん、私も1枚!」
「ちびっこ姉妹も勝負をかけるっすか?ならウチも負けてはいられないっすね……2枚追加でお願いしまっす!」
「アルさんとエルさんは1枚ずつ……ヴァーチェさん?ライア様のルール説明を聞いてなかったの?追加は1枚ごとに判断する物ですよ?それに貴方の手札は10の札の12とエースですでに21じゃないですか、なんで負けに行こうとしてるんです」
「これは……16か……相手の数が17以上じゃない場合は絶対に引くというルールなのであれば、無理に攻めずにいてもいいのかな…?いやしかし……」
参加者は錬金術師側からリネットとモンド、メイド組からはアルとエルの双子姉妹と筋トレ好きのヴァーチェ、そしてディーラー役にセラの6人で集まってもらった。
今皆にやってもらっているのは、前世でもかなりオーソドックスなルールのブラックジャック。
2~9までの数字はそのままに、10~13までの数字は全て10としてカウントし、エースである1のカードは1か11を選べるワイルドカードのルールで合計21に近づけるゲームである。
その他の細かいルールなどは省くが、今リネット達がやっているブラックジャックも、殆ど前世のルールと変わらない物だ。(スプリットなどの細かいルールは無しでやっている)
ただ、お金を賭けている訳では無く、単純な勝ち負けを競ってもらっているので、チップだったりサレンダー(勝負を降りる事により、掛け金の半分が戻ってくる)のルールは存在しない設定になっている。
もちろん、飛行船のカジノスペースを始動させる場合には、チップの仕組みは導入予定だが、それは今話さなくてもいいだろう。
「14……一枚引いて…6で合計は20……アルさんは同数なので引き分け、エルさんは先程の1枚を引いた事によって21になってますから、今回はエルさんとヴァーチェさんの勝利ですね」
「わーい!やったー!」
「くッ……引く事も出来ずにただ勝利を得るなんて……悔しいっす!」
ディーラー役のセラは、ライアの教えたルールをしっかり把握してくれているようで、ゲーム進行に淀みはなく、きちんとリザルトを発表を出来ている。
「セラはディーラー……進行役もきちんと出来てるね。どうだった?このゲームを飛行船の賭博場…カジノスペースに導入する予定なんだけど、皆は楽しめた?」
見た感じ、楽しくゲームをやってくれているとは思うが、一部きちんとルールを把握出来ていない子がいたりもしたので、確認を取る。
「……ボクはいいと思うのですよ。数字を数える分には難しくはないのです。…まぁ21という若干中途半端な数字を目指すという部分は何かこう……研究者としてもやっとする部分はあるのですが…」
「あはは……まぁ仮に20を目指すルールだと10以上のカードを2枚引けば勝ちになっちゃうし、30や50に引き上げれば、使うカードの量も増えて非効率になる可能性もありますから」
実際には、ブラックジャックの『21』という数字に何の意味が込められているのかなどは知らないが、前世のブラックジャックを創作した人達は色々な葛藤や試行錯誤の上での『21』なのだろうし、そこを変えてゲームが可笑しくなったりすれば笑えないので、ひとまず今はルールを変える気は無い。
「私も、比較的楽しくやれたと思います……ただ一つ挙げるのであれば、やはり木のカードを混ぜたり、配る動作が結構難しいですね」
「そこは確かにそうかもね。セラの手つきを見ていてやっぱり扱いずらいんだろうなって思ったよ」
これは仕方が無い事なのかもしれないが、いくら薄く加工をしていても、木は木だ。
どうしても厚さは残っているし、52枚もの木札を重ねれば、厚さ30センチほどまでになり、手でシャッフルなどは不可能だ。
セラも、カードを裏に返した後に何度もかき混ぜる様に木札のトランプを混ぜていたので、扱いずらさはあるのだろうと一目瞭然だった。
「そこら辺の改善策は考えてみるけど、考えつかなかったらカジノで雇う人に頑張ってもらうしかないかなぁ……」
既にカジノへの就職が決まった領民達にはすでに通達を送って要るので、その人達に迷惑をかけるかもなと、心の中で謝罪する。
「他の皆は?」
「わ、私はこういう遊び、今まで出来なかったので……とっても新鮮で楽しかったです」
「私もアルと一緒で、めっちゃ楽しかったですよ!勝ちましたしね!」
「ウチは……実力で勝負が出来なかった事が悔しいっすが、面白かったっすよ!」
アルとエルはとても楽し気にそう言ってくれて、ヴァーチェは少しズレた回答をしつつも、本質的には楽しかったと言ってくれた。
「私も色々と考えてしまって、普通に楽しめたよ……私が言うのもアレだが、貴族達にもきっと遊ばれるようになると思うよ」
「本当ですか?よかったです」
モンドも自分自身の観点と今までの経験から貴族にもこの遊びは通じると太鼓判を押してくれる。
「なら、早速ウルトにトランプの追加を作ってもらわないと……皆も手伝ってくれてありがとうね?」
早速仕事だ!と皆にお礼を伝えて、試作品のトランプを持って部屋を出て行こうとする。
「ライア、ちょっと待つのです」
「…?どうしました?」
部屋を出て行こうとするライアを引き留めるリネット。そしてその後ろで、セラ達がそわそわとした様子でこちらを伺っている。
「……ちょ……け………す」
「…?今なんて言いました?」
リネットの真剣な表情が下を向いたとたん、何かが呟かれたような声量でライアの耳に入ってくる。
「も、もうちょっとだけ……やりたいのです……」
「え?…あぁトランプですか?別にいいですけど」
そこまでハマっていると思わなかったライアは、普通にトランプを回収しようとしていたが、どうやらリネットや後ろのセラ達は、まだまだ遊び足りなかったらしい。
ライアの許可が出ると同時に、リネットとセラにトランプを持って行かれると同時に、第2回トランプ大会が開催される事となった。
「そ、そんなに楽しかったのかな?」
「楽しかったって皆言っていただろう?私も研究の合間にまたやりたいくらいだよ」
「モンドさんは参加しないんですか?」
「まだ他属性合成魔石の確認が終わっていないし、研究室にリグ君とクスト君だけを残して遊んでいるのが心苦しくてね……私は研究に戻る事にするよ」
モンドは「また今度誘ってね?私もやりたいから」と言って、そのまま部屋を出て行ってしまう。
「さぁやるのですよ!!今度こそ21ピッタリにしてみせるのです!!」
「「「勝負ー!」」」
(……ここまで楽しんでくれるとは思わなかったな……やっぱり、この世界には娯楽ってものが少ない所為だったりするのかな)
将来、飛行船のカジノスペースに色んな人達が集まる事を予想しながら、ブラックジャックに興じる女の子達を微笑まし気に見つめるのであった。
(……あれ?もしかして、これをきっかけに皆がギャンブル依存症になったり……しないよね…?)
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