新事業に向けて










「いやぁ仕事も落ち着いて来たし、領主様の作った飛行船だっけ?あんなすげぇ物の中で働けるなら応募してみようかなって」



「募集の話を聞いて、女の人でも仕事があるって話だったから来てみたんです。夫だけの収入じゃ足りない部分もあるし、ライア様の所なら安心して働けると思って」



「え?ダンジョンの探索?……まぁそれでも生計は立てれるけど、命を賭けた仕事だからねぇ……出来れば安定した職に就けるなら付きたいって考えかな?それに冒険者業を辞める訳じゃないけど、空飛ぶ乗り物って早々お目に掛かれるものでもないじゃないっすか?そこにロマンを感じたというか…」





ただただ仕事を求めて来た者もいれば、安定を求めて冒険者から転職を希望する者も大勢集まっているようで、ライアは朝から約1000人もの人達と面談を交わしていた。




「はぁ……終わったあぁぁ…」



―――ガチャ


「お疲れ様ですライア様」



あまりの面接希望者の多さに辟易としたライアは、応接室に置かれた机の上に上体を倒すと、セラがキリのいいタイミングを計らっていたのか、最後の面接者が応接室を出て行くと同時に休憩用の紅茶を持って部屋にやってくる。



「ありがとうセラ……ん…良い香り…」



朝から予想外の面接の嵐に、喉がカラカラになっていたライアは、セラの持ってきた紅茶で口を潤わしながら、リラックスの気分に浸る。




「いい人材はいましたでしょうか?」



「……んっ……そうだね、一応良さげな人達はいたから、後程その人達に採用の連絡はするつもり……申し訳ないけど、既に仕事を持ってる人やあまりに変な人なんかははぶかせてもらったけど、それでも1、200人くらいは採用させてもらうつもりだよ」



一応面接の時に、希望する職種(操縦士や航空士、食事スタッフやアミューズメント施設の方の人材)を聞いたりしているので、いやな仕事はさせはしない様に気を付けてはいる。



「かしこまりました。後程、私達が手配いたしますね」



「お願いね」




さてと、早速リストをまとめて、仕事を片付けますか。と飲み終わったティーカップをセラに返し、書類仕事を再開するべく、机に向き合う。



「あ、それと、ウルトに作って欲しい物があるから後で俺の執務室に来るように伝えておいてくれる?」



「ウルトさんですか?わかりました……恐らくツェーン様のグッズを作る為に工房に篭っているでしょうし、すぐに伝えて来ます」



「……うん」




ウルトは働きアリハウスマンの元社員でありながら、ライア……というより、ツェーンの追っかけファンである為、職場に辞表を出し、ライアの元に就職して来た変人だ。



普段は、ライアにとって必要な建物や道具を作ってもらったりして給金を渡しているが、暇な時は自分で建築した工房兼作業場にて、ツェーンのグッズなどを作って生活していたりする。











――――――――――

――――――――

――――――







―――コンコン


「どうぞ」




―――ガチャ



「失礼しますぜ!社長、何の用ですかい?」




「こんにちわウルト……ちょっと飛行船業の方で動きがあって、急遽作って欲しい物が結構あるんだ」




執務室で書類を片付けていたライア(応接室で面接をしていたライアとは別の分身体)は、部屋に入って来たウルトに呼び出した用件をすぐに伝える。




「社長の言う事であれば、俺ぁなんでも作りあげて見せますぜ!……で、一体どんなもんを?」



「ウルトは賭博場とかって行った事はある?」



「賭博場ですかい?…そりゃ何度かありますが、どちらかと言えば大工仲間との付き合いで行っていた感じですんで、社長の下に就いてからは行ってませんぜ?」



そう発言するウルトの顔には『そんなのに金を使うぐらいなら、ツェーンちゃんに金を使うからなッ!』と言葉にしなくてもわかる程はっきりと表情に出ている。



「なら、賭博場にはどんな遊びがあるのか知ってる?生憎、俺はそこらへんの情報は全く知らないし、俺の身内にも詳しい人は居なくてね」



リネットは言わずもがな、セラやミオン達メイドの9人も元貴族女性の出であったり、幼さ故に賭博自体をした事が無い人ばかり。



両親もそう言った賭け事はあまり好きではなかったらしく、そう言う場所があるというぐらいの知識しか持っていなかった。



一応モンドは貴族社会の賭博は知っているようだったが、モンド本人はやった事はないらしく、飛行船に賭博場(アミューズメント施設、カジノ)があれば、貴族の利用者も増えるという提案も、ただ貴族がそう言う賭け事を好んでいるという知識を持っているだけだったらしい。




「だからウルトが知ってる賭博場がどんなのか教えて欲しいんだ」



「まぁ教えてくれと言われれば別に構いやしませんが……賭博場には――」




ウルトから聞き出した賭博場の実態は基本的に2つ。



何かの状況を予想した場合の賭け事。(つまりは競馬の様に、ものの順位や成功だったり失敗を予想をして、その考えにお金を賭ける行為)


例を出すのであれば、新人冒険者がダンジョンに潜る際に何日で戻ってくるかを賭けたりする場合だったり、突発的に起きた喧嘩の野次馬をする際に、どっちが勝つかの賭けをしたりする方法が1つ目。



そして、もう一つの賭博は前世でもお馴染みの、勝負で賭博をする方法。



簡単に言えば、お金を賭けてじゃんけんに勝てばお金が倍になって返って来て、負ければゼロ。



例を出すのであれば、この世界ではサイコロの目が奇数偶数の丁半博打が主流らしく、この町でも賭博場として開催されている食事処の大半がサイコロを振って、賭け事をしているらしい。




「サイコロ自体は木さえありゃ誰でも作れるからぁなぁ……基本は何処の街でもこの賭博方法が殆どじゃないですかね?」



「……なるほど……カード……数字の掛かれた札を使った賭け事やそれ以外の複雑なルールがある勝負とかは無いの?」



「俺ぁそれ以外の賭博は聞いた事ぁ無いですぜ?貴族の間ではそんなんがあるんですかい?」




ウルトの話的に、少なくとも一般市民にトランプやチェスや将棋、リバーシなどと言ったボードゲームの類は存在していないみたいだ。



貴族の方であれば、もしかすればチェスの様な物は存在しているかもしれないが、今はその話をおいて置こう。



(……なら、いきなりトランプを作った所でルールとかが難しい物をやらせても、楽しんでもらえるかわからないな……サイコロの数字を使った丁半博打は出来るんだから、数字系のゲームは問題は無さそうかな?)



流石にトランプ文化の無い人達にいきなり“大富豪”などをやらせても『8切り…?イレブンバ…はい?』状態だろう。



賭博として有名なブラックジャックなどであればルールは簡単だし、ライア自身もルールは覚えている。



それに、この世界の紙は比較的に文字を書く為の物しかないので硬い厚紙などはそれ程需要が無い為、仮にトランプを作るとなれば、木を薄く削った木札のトランプになるだろうし、ブラックジャックであれば、木札の配り方さえ気を付ければゲームに支障はないだろう。




「よし、なら飛行船の賭博場…カジノスペースに使う道具として、ウルトにはトランプとサイコロ、そしてそれら用のテーブルなんかの製作をお願いさせてもらうね」









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