職場不足










シグレ達を連れて、第二ダンジョンの開拓を進め始める中、ヒンメルの町にて領地経営をこなすライア(本体)は、ある問題に直面していた。




第二ダンジョンでは、魅了属性の魔石の発見や帝国との戦争問題が起きている中、ライアを悩ませる問題というのは……。



「―――仕事がない!」



「ライア様、こちらの農産物の報告書の確認などがまだですが…?」



「あ、ごめんごめん……俺の仕事が無くなったって意味じゃなくて、領地問題の方」



「あぁ……移住してきた領民の仕事が、ヒンメルの町で不足して来た問題ですか?」




そう、今ヒンメルの町が直面している問題というのは、圧倒的の職場不足である。



「今までは開拓が始まってそれほど時間が経って無かったし、領民の住居や町の中の道路や街灯の設置作業と言った仕事が沢山あったけど、町の状態が整ってきた今、大工作業やそれの手伝いなんかはどんどん減る一方。そうなってくれば、領民達の仕事も無くなって行くのが普通だしね」



今では町の殆どの道路が完成してきているし、住居関係の方もぶっちゃけ本職の大工達に任せるだけでもいい状態までになっている。



一応、カルデルと商人代表の3人の店や食事処、それに服屋や日用品の店などもあるにはあるが、そう言った店を経営出来ているのは一部の裕福な者達だけで、それ以外の領民達は領地の畑の手伝いをするか、数少ない大工仕事の手伝いなどを、日雇いでこなす毎日。



流石に、冒険者達の様にダンジョンへ潜れとも言えないので、早急にどうにかしなければいけない問題なのである。



「……どういたしますか?」



「う~ん……と言っても、そう簡単に仕事を作るなんて事出来る物じゃないし……田畑をもっと作る?」



「……今よりももっとですか?すでに町の20%程は畑になっていますが…」




ライアの発言に、これ以上畑を広げるんですか?と疑問を抱えながら質問してくるセラ。




「………ううん、ちょっと言ってみただけ……さすがにこれ以上畑を作っても、領内で消費仕切れないし、輸出するにも飛行船業がまだ始まってもいないしね……仮に始まっていても、ヒンメルの町としてのブランドも無いから、いきなり野菜を売りに行ってもまともに買い取ってもらえないだろうしね」




リールトンの街とかであれば、野菜なども買い取ってくれるかもしれないが、それをすれば周辺の町や村の農家達に迷惑をかける行為になりかねないので、結局その手は使いたくはない。




「ん~……何かないかなぁ?」



領内で出来る仕事などはそれ程多くはない、それでも何かを考えなければ領民達の生活が危ぶまれる状況に頭を悩ませるライア。



「……そう言えばですが、飛行船の中の施設などの仕事はどうするのですか?ライア様であれば、分身体で全てこなせるでしょうが、その仕事を領民に任せる事はできないのですか?」



「……あ」



セラの言葉を聞くと同時に、ライアはまるで『忘れてたッ!?』とでも言いたげに目を見開く。



「そうだったぁぁ……というか、飛行船の操縦やら整備やらに関しては、俺達錬金術師以外にも出来るように設計して、他の人に任せるって元々決めてたじゃん……なんか、飛行船の操縦やら乗組員なんかは分身体で済ませてたから、そこらへんの事は全部自分で済まそうって頭になってたよ……」



飛行船の操縦は上昇下降と左右の方向転換は一般人でも操作できるように敢えて操縦桿を作っていたのを忘れていた。



「ありがとうセラ……おかげで職場問題の解決に向かえそうだよ」



「頑張ってくださいライア様」




セラに、飛行船の仕事関係を思い出させてくれた事をお礼して、早速詳細を詰める為に動き出す事にした。






―――――――――

―――――――

―――――







飛行船の設計上、飛行船を動かす為に必要なのは飛行船の舵を取る【操縦士】、その操縦士に進行方向などの確認して伝える【航空士】、飛行船の離着陸の際に飛行船がバランスを崩さないようにアンカーなどを張り巡らせる【船員】が必要になる。



【操縦士】は大体2~3人で交代制になるだろうし、【航空士】に関しては、地上を観察しつつ、遠くの地形などの記憶もしないといけないので、交代要員を入れて少しだけ多めの10人程。



【船員】に関しては離着陸以外は、飛行船の整備員と兼業してもらうと考えれば、10~20人程いれば問題は無いだろう。



他にも、飛行船を動かす以外で必要になるとすれば、飛行船の中で飲食を調理するスタッフであったり、給仕や乗員の確認をする管理スタッフ。



今はまだ始動はしていないが、アミューズメント施設部分のスタッフの募集も必要だろうし、なぜセラに言われるまで忘れていたのかと自分に文句を言いたくなるほど、人では必要だ。





そんな訳で、早速領民に人員募集を掛けたのだが……。




――――ガヤガヤ……



「すみませーん!そこの列から抜け出さないようにお願いします!早い者勝ちという訳では無いので、落ち着いてくださいー!」



「オォ!?さすガに多すぎなのではないのデスか!!」




人員募集の話を聞きつけた者達が、我先に仕事が欲しいとライアの屋敷の前に押しかけ、屋敷の前に長蛇の列が生まれている。



「……皆飛行船の仕事を希望した面接希望者って訳か……」



「――ライア様、ミオンさんから集計をいただいてきました」



「あぁありがとう……何人集まったの?」



「約1000人ほどだそうです」



1000人……今このヒンメルの町の総人口は約7000人程なので、約7分の1の領民が集まった事になる。




「……そんなに仕事が無くて困ってる人が居るんだったら絶対この町を出て行ってるでしょ……仕事がある人も来てるんじゃないの?」



「……恐らくその通りかと……列に並ぶ人達の中に、冒険者の方もいましたから」




(仕事が無い人の為の募集なんだがッ!?)




ライアは、なぜにこれほどの人が集まったのかと謎に思いながら頭に手を当て、この後の面接地獄を憂鬱に思うのであった。









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