全力











「―――キィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!」



「うわッ!?」




瞬間、花の魔物から想像も出来ないような甲高い叫び声が発せられて、その声量といきなりの事で驚き、思わず声をあげて、耳を覆ってしまう。




「こ、こっちの耳を潰す為の攻撃…?って、逃げた!?」



つい、驚きに声をあげてしまったばかりに≪潜伏≫の効果が切れてしまったのか、花の魔物がライアの事を認識した瞬間に、攻撃を仕掛けて来る事無く、ライアから離れようとヒョコヒョコと逃げていく。



「逃がさないッッ」


―――ブンッ!



「キッ―――」



流石にそのまま逃がす訳にはいかないと、すぐさま魔物を追いかけ、≪格闘技≫で蹴り飛ばし、近くの岩に叩きつける。



「……ってあれ…?」



岩に叩きつけられた花の魔物は、ぶつかった場所からずるずると地面にずり落ちて来ると、そのまま動き出してくることはなく、既に死亡しているのが確認出来る。




「えぇ……?何か拍子抜け感が……」




いきなりの大声には驚きはしたものの、ライアの≪潜伏≫を見破っての先制とライアの存在を感知すると同時に逃亡を選んだ事を考えると、この魔物は比較的力の弱い魔物だったのかも知れない。



もしかすれば、ラットルやスライムのように、こちらから攻撃しなければ無害の魔物だったかもしれないが、それはひとまずおいて置こう。




「……解体をして、魔石の属性を調べよう……って、え!?」



無害の魔物だとしても、魔石の属性が有益であれば、また狩りに来るのだし、魔石の属性を調べるのを優先しようと花の魔物の死骸に近寄って行くと、ライアが驚愕の表情を浮かべる。




「え、え?そんなことある!?……なんでここにが向かって来てるの!?」



花の魔物の絶叫で驚いてしまい≪索敵≫を一旦切ってしまっていたが、落ち着いて再び使用してみれば、索敵範囲の外から来るわ来るわとミノタウロスの大群が、ライアのいる場所に向けて、360度全方位から向ってくるのを感知する。



「……100…?いや、今も覚知範囲外からどんどん集まって来てるから、多分100匹所の話じゃないね……でもなんでこんないきなり……って、まさかさっきの“叫び”か!」



叫びの詳細な効果はわからないが、ミノタウロスがここに集まってくる理由は先程の叫びによる物なのは確定。



とすれば、あの叫びはライアの耳を狙った攻撃などではなく、自身の危機を周囲の魔物に伝え、護ってもらう為の絶叫S・O・S




「さっきの叫びは俗に言う“仲間を呼ぶ”って事か……仲間を呼ぶにしても数がどう考えても可笑しいけどね」




既に、ミノタウロス達はライアの≪索敵≫で感知できるエリアのかなり近い場所まで来ている。このままでは大体1分程でミノタウロス達は此処に押し詰め寄せて来るだろう。




「……いいね」



先程の驚愕の顔から一転、ライアの表情にはまるで決死やら絶望とは全く別の“喜び”の感情があふれ出す。




「このダンジョンだと、ワイバーンほど経験値を稼げない上に、魔石自体もミノタウロスは無属性だからうま味は無いかと思ってたけど……こんな大勢のミノタウロスが一気に狩れるのなら話は別だよッ!!」




ライアはこのダンジョンの広大な広さから、ミノタウロスを1体1体探し出して、チマチマ狩らなければいけない所にかなりの不満を抱いていた。



普通の冒険者であれば、ミノタウロスもオークやオーガ以上の強敵なので、1体1体群れる事のない状態で討伐できる状態に喜ぶべき環境なのだが、既に桁違いのレベル50越えのライアにとっては非効率的だった。



なので、数百もの魔物を。しかもワイバーンには劣るとはいえ、かなりの強敵を一気に狩れる状況に、年甲斐もなく子供の様に興奮してしまう。



「フェンベルト子爵事件で、巨人の相手をしてから、碌に本気を出せてないんだ……思う存分狩らせて暴れさせてもらうよッッ!!」




己の中にある魔力を高ぶらせながら、既に目視できるほど近くまで向かって来ているミノタウロス達に魔法を発動させる。




「―――“ウォーターブレイザ”ァァァッ!!!」









―――――――――――――

―――――――――――

―――――――――







「ブ……モォォ……」



――――ドシャッ……




「うぅぅぅん……はぁぁッ!!……うわぁめっちゃ戦ったぁ……」



最後のミノタウロスが、ライアの土魔法に貫かれ、お腹に大穴を空けながら地面に崩れると、ライアは背伸びをするかのように両手を頭上に押し上げ、まるで朝日の光を浴びて「やりきった!」とでも言いたげなほど晴れ晴れとした表情を浮かべる。



しかし、その表情の周りには、ミノタウロスの成れの果てともいえる死骸が千にギリ届かないまでの数が存在しており、どう見てもライアの反応と辺りの画が嚙み合わない。




「……さすがにこれだけの数をバンボさん達に食べてもらえる気はしないし、干し肉にするしかないよね……いや、干し肉でも消費仕切る前に8割がたダメにするだろうけど」




先程の戦闘では「吹きとべぇッッ!!」やら「アハハハハッ!!」と上機嫌にミノタウロスを細切れにしていたが、解体の事や消費する場合の事などを考えていなかったライア。



(分身体達を呼んで、一気に片付けないと日が暮れるね……シグレ達とのバーベキューに間に合うかな?)




ふと、ダンジョンの外の拠点の中で仮眠を取ってもらっている皆の事を考えつつ、目の前に広がるミノタウロスの大量の死体の解体作業に動き出すライアだった。









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