新種の魔物












「せいッ!!」



――――ボコッ!!



「ぶほぉぉっ!?」





≪潜伏≫のスキルで気配を消し、ミノタウロスの背後を取ったライアは、自身のステータスの高さと≪格闘技≫の技術を持って、ミノタウロスの首元に強力な一撃を加え、あっさりと倒す。




「……強さ的にはオークやオーガよりも強いけど、やっぱりワイバーンほどの強さは無いかな?」



シグレ達と別れてから、この広大なダンジョンに足を踏み入れたライアは、己の≪索敵≫を併用して、第1層の魔物であるミノタウロスの肉を回収する為に、ダンジョンの中を歩き回っていた。



前にラー達と会った時も思ったが、このダンジョンは“とにかく広い”、上にも横にも広く、ライアの≪索敵≫の覚知範囲では全く足りない。



リールトンの街にあるダンジョンも、かなり巨大なダンジョンではあるのだが、あそこはどちらかというと“長い”ダンジョンである。



横幅はそれ程広くはないが、ダンジョンの第1層から第2層に行くまでの距離もかなりの距離だし、第4層まで行くのに、1ヵ月以上は掛かる奥行きの長いダンジョンである。




しかし、このダンジョンは奥行きも横の幅も恐ろしく広い。



まだ第1層の一部分しか見てはいないから、第2層以降がどうなっているのかはわからないが、少なくとも第1層と同程度、もしくはそれ以上の広大さを持っているのだとすれば、第5層までたどり着くのに、半年ぐらいは掛かるのでは?と思ってしまう。



(……これだけ広い空間だからか、ミノタウロスも群れでいる事も無いし、1体1体が離れて動いてるから、数を稼ぎたい俺にはすごい不便……まぁ、ミノタウロスの肉はこれから定期的に取れるだろうし、ダンジョン攻略は他の人に任せよう)



ライアはミノタウロスの死体を≪解体≫しながら、このダンジョンの攻略は将来、このダンジョンに挑みに来る冒険者達に任せようと、他人任せな考えを浮かべる。








―――――――――――

―――――――――

―――――――








「――ふぅ……さすがに5匹もいれば、大丈夫かな?バンボ達も沢山食べるだろうし、3日分くらいにはなるかな?……まぁ余ったら干し肉にでもして、保存しようか」




このダンジョンに入ったライアの分身体は3人で、他2人はすでに2匹ずつミノタウロスを狩っている。



今しがた、ミノタウロスを討伐したライアは、このダンジョンの広さを確かめにダンジョンの奥へと足を運んでからミノタウロスを討伐していたので、成果は1匹という訳だ。



最初は第2層への入り口などを調べようと思ったのだが、さすがにライアのステータスをもってしても、数時間でこの広大な第1層を調べるのは不可能と判断して、ダンジョン探索を断念した形だ。




「……さて、外に戻るかな……ん?」




ミノタウロスの肉や皮、それに魔石を持ってダンジョンの外で待つみんなの元へ足を向けると同時に、ライアの≪索敵≫に未確認の生体反応が検知される。



「なんだろう?…もしかして、人……な訳ないな。反応の大きさ的に、人間サイズじゃないし、恐らく魔物……。この階層にはミノタウロス1種類しかいないと思ってたけど、もう一種類いたのか?」




ライアは、余り動きの速くないその反応を確かめるべく、万が一に備えて≪潜伏≫を発動しながら素早く移動していく。




(大きさ的には、恐らく人の頭と同じくらいの小ささ……移動スピードも遅いし、スライムかもと思ったけど、スライムだったら≪索敵≫できちんと判別できるから、別種の魔物……ミノタウロスよりは危険度は少ないと勝手に思うけど、確認は大事だし、さっさと見に行こう)




ヒンメルの町のダンジョンは第5層までの魔物の種類がきちんとわかっているし、リールトンの街のダンジョンも、同様だ。



未知が危険だという事は、冒険者達の殆どが知っている事だし、事前情報の大事さは前世現世どちらの世界でも変わる物ではないだろう。



現に、ライア達がヒンメルの町を開拓している際に、ダンジョンの調査隊がダンジョンに入っていたが、アレも言わばダンジョンの魔物や構造を調べる為の物なので、調べれる物は事前に調べた方が良いに決まっている。








「アレは……花?」



≪索敵≫に反応があった場所に到着し、ライアの目に入ったのは、頭と思わしき部分が大きなピンク色のお花を咲かせており、足は根で手は葉っぱの全体で30センチほどの大きさの植物系の魔物がヒョコヒョコと呑気にダンジョンの地を歩いていた。



(花の頭の魔物…?前世の知識で植物系の魔物と言えば、ドライアドやトレント、アルラウネとかがいるけど、多分全部違うっぽい……?……リネットさーん!)




自分の知識に無い魔物がいた時に頼るべきは、己よりも知識を持つ先人に聞くべき。そう判断したライアは、珍しい魔物の事を魔石絡みで知っている可能性のあるリネットに聞くべく、ヒンメルの町にいるリネットへライア本人経由で質問を投げかける。





『……頭がピンクのお花の魔物です?……頭を植物で覆い隠す【フォルブプラント】という魔物は聞いた事があるのですが……お花自体が頭になっている魔物は聞いた事が無いのです』



『覆い隠す……そんな感じでは無いので、確かに違いますね……という事はつまり』



『『アンファング王国ではまだ発見されていない新種の魔物!(です)』』




リネットとライアの研究者としての血が、ほんのり高まった所で、実験室にいるライア(本人)達は暫く研究談義に入るので、思考を切り離し、目の前の魔物の観察に切り替えるライア(分身体)。




(新種……という事は、どんな属性を持った攻撃をしてくるかわからないって事だね……出来れば、何か研究のし甲斐のある属性を持っていて欲しい気持ちもあるけど)




そんな研究目的な感情が沸いてくるが、ひとまず討伐してみてからの話だと、考えを切り替え、魔物を倒す為に≪潜伏≫を切らずに背後から近づいて行く。






――――ジリッ……





――――ビクッ!



「キッ……?」




(!?……≪潜伏≫中なのに、気配を感じ取られた…?)




いや、完全に気配を気取られた訳では無いようで、魔物がライアの方に顔?を振り返しはしたものの、誰もいないと思い込んでいるのか、辺りを見渡しながら、警戒をしている様子。



(……感知系の魔法……いや、単純に気配に敏感なだけか?……どのみち、このままじゃいずれバレるだろうし、一気に倒して…ッッ!?)



恐らく、ライアの存在には気が付いてはいなかったのだと思う。



だが、野生の勘か何かで、自分の身に危険が迫っていると瞬間的に判断をしたのか、辺りを見渡していた顔(花の部分)を頭上にバッと向けると、花弁の一部が裂けていき、口の様な物を露出させる。




「―――キィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!」










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