第二ダンジョン開拓










「そう言えば、ケドル山脈の奥地で見つけたダンジョンはまだ手を付けないのです?」




騎士団のダンジョン遠征が終わり、帝国からの侵攻に備えつつ、リグ達の生み出した新しい他属性合成魔石の研究やら新しい飛行船の設計図やらの作成をしながら過ごす事数週間。



屋敷の執務室で、珍しくライアとリネットが書類仕事を片付けていると、リネットからそんな問いかけを掛けられる。



「……あぁ……思いっきり忘れてましたね…」



「いいのです?一応、国王陛下からはそのダンジョンの活用方法として飛行船の使用を命じられたのですよね?」



最近はやれ戦争だ、やれダンジョン遠征だなどと、色々考える事が多かった為、ライアの頭の中から新たに見つけた未到達地域の新ダンジョンの存在を忘れ去っていた。



「一応、アイゼル様からは飛行船事業は暫く急ぐ必要は無いとは言われてるんで、大丈夫は大丈夫だとは思いますけど……さすがにダンジョンの周りの整備くらいはしておかないと、後々面倒そうではあるなぁ……」



飛行船事業を休ませてもらう理由などはあえて伏せるが、休ませてもらうと言っても精々1,2年だけではあるし、国王陛下自身は飛行船事業にかなり期待をしてくれている。



恐らく1年半も時間を掛ければ『そろそろ出来そうか?』と遠まわしアーノルド経由に催促される可能性がある。



であるならば、基本的にダンジョン周りの安全を確保する為の場所やその骨組みなんかをバンボ達大工鍛冶に依頼しておいた方が、後々面倒が少なくて済む。




「……よし、ちょうど騎士団の遠征も終わらせた所だし、護衛騎士数名だけ連れてダンジョン周りを開拓しに行ってくるかな」



「……ライア自身が行くのです?」



「いや、俺はここに残りますよ?行くのは分身体を数名ですかね……騎士達には基本的にバンボ達の護衛に回ってもらうつもりです」



「ほっ……ライアが行くと言ったらボクも付いて行かなければいけないので、安心したのですよ」




リネットはライアの身の安全でも気にしているのか、そんな事を言い出す。



「仮に俺自身が行く事になっても、護衛騎士もいるんですから、リネットさんが心配しなくても大丈夫ですよ?寧ろ、リネットさんの安全を考えると、俺の方が心配しちゃいますって」



ヒンメルの町に開拓しに来た時は、周りに危険な魔物など殆どいなかったし、何よりあの時は心強い仲間が沢山いた。



流石に護衛対象の多い中で、未到達地域という危険地帯にリネットを連れて行くという判断はさすがにしかねる。




「………」



「……?」



ライアの言葉に、何やら引っかかる事でもあったのか、リネットはライアの方に目を向け、ジィーっと見つめて来る。




「ど、どうかしました?」



「……ボクは子供……ちゃんと欲しいのですからね?」








「―――――ッッ!!」







どうやらリネットが危惧していたのは、新たなダンジョンの開拓に行くライアと離れ離れになってしまえば、そう言う事が出来なくなるという訳で……。



つまりは、アイゼルの言っていた『早く孫が見たい』というアレが、リネットの中ですでに決心がついているという事らしい。




「……ボク、早くライアときちんとしたになりたいのですからね?」




「……ハィ……」




暫くの間、ライアとリネットの間には何とも言えない沈黙が訪れ、休憩時間に執務室を訪れたセラが来るまで碌に書類仕事の一つも手に付かなかった。









――――――――――

――――――――

――――――









数日後、バンボ達にダンジョンの入り口周辺に簡易的な防壁を築く為の依頼をし、承諾を得てから新たなダンジョンへと飛行船を向かわせた。



ヒンメルの町からケドル山脈を越えたダンジョンの存在する渓谷までは大体2週間程掛かったが、普通の馬車であればその3倍以上は掛かるだろうし、何より陸路でケドル山脈を越える方法自体、かなり難しいので、この2週間という時間もかなり破格のものだろう。



「……ここが、人間種が今だ到達出来ない危険エリア……そのど真ん中に存在するダンジョンまで、ひとッ飛びとは……」



「ゴクッ……」



ダンジョンの入り口である大穴の少し離れた位置にある少し広めの大地に降り立った飛行船から、騎士達が警戒をしながら外に出て来る。



「ふはははッ!主君の御力を考えればこの程度造作もないッ!!未踏の地を踏み鳴らす栄誉をワッチらに与えてくれたことに歓喜の言葉しか出ませぬッ!!」



「シグレ?あんまり興奮し過ぎないでね?この後のバンボさん達の護衛任務があるんだから……他の皆も辺りの警戒を怠らないでください」



「「「はいッ!!」」」




騎士達は緊張の表情を浮かべながらも、己の役目を思い出したかのように辺りの警戒をする為、周囲20メートルほどに円の陣形を取る。



今回連れて来た護衛騎士はシグレを筆頭に、10人の騎士を連れて来ており、ベルベットやアイン達はお留守番であり、3人一組を3グループで行動してもらい、シグレは騎士団副団長として、指揮官をこなしてもらう。



ライアの分身体も辺りを≪索敵≫などで警戒はするが、基本騎士達の手に負えない事態になった時の予備戦力なので、ダンジョン遠征の時のようにあまりでしゃばる事はしないつもりだ。




(……シグレを連れて行くってなった時にアインの顔が悲壮感マシマシだったけど……さすがに騎士団から団長と副団長同時に動かすのはダメだと思うし……ごめんよアイン)




シグレの指揮をする姿を見ていると、ヒンメルの町を出発した時にお留守番を頼んだ時のアインの表情思い出されるが、ぶるぶると首を振って、今は忘れる事にしたライア。





「……よし、シグレ達はダンジョンの大穴までの道を大工達の護衛をしつつ、向かっておいて」



「承知いたしましたッッ!!主君はどうされますので?」



「飛行船をこのまま野ざらしにしておくのも嫌だし、魔物が攻撃してくるかもしれないから、ちょっと魔法で簡易の防壁で飛行船を囲ってからそっちに行くよ」




土属性の魔法は、一度固めてしまえば形自体は残ったままだ。



(自分達が篭る為の壁じゃないから、ある程度大きく作っても生き埋めになる人間が中に居ないからね。ちょっち気合を入れますか!)



ここらへんの魔物がどれほど強力かはわからないので、結構分厚い壁にしておけば問題は無いだろうと判断する。




「――――“アースウォール”ッ!!」




――――グゴゴゴゴゴ……




「おぉぉぉぉ!!流石主君ッッ!!これほどまでに巨大な物を一瞬でッ!!」



ライアとシグレの目の前に、明らかにこの未到達地域の渓谷に不釣り合いな巨大な防壁の存在が地面から盛り上がってきたことに、シグレはもちろん、船から降りて来ていたバンボ達や他の騎士達も大いに驚く。



「―――さぁ!早速ダンジョンの方に向かうよ!」









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