一般騎士達の憂鬱と遠征の終わり









―――――騎士団員side





第5層に入ってから、既に1週間程。



大分ワイバーンとの戦闘にも慣れだしてきた騎士団一行は、ライアの作り出したセーフゾーン(分身体を周りに配置した第5層の入り口)にて、ワイバーンの解体作業に取り掛かっている。




「……俺達って、なんだかんだワイバーンを何体も狩ってるんだよな?」



「……いきなりどうかしたの?手が止まってるわよ?」



解体作業を行う一人の男性騎士が、ふと真剣な表情でそんな事を言い出す。




「いや、インクリース様のおかげで安全に狩りが出来てるのはわかってるんだけどさ……一応騎士団としての実績としたら、もうすでにワイバーン討伐を数十回もこなしてる事になるだろ?」



「……そう言われればそうね」



「……そんな騎士団、この国に1つでもあるか?」



男性騎士の質問に女性騎士は言葉に詰まり、傍で同じく解体作業を行っていた複数の騎士達も話を聞いていたのか、若干不思議そうな顔をしつつも『恐らくそんな騎士団なんてこの国には居ない』と苦笑いが広がる。



「……でも、それって別に私達がすごいって事の証明にはならないでしょ?あんたもさっき、インクリース様のおかげだって言ってたじゃない?」



「あぁ、いやすまん…別に俺達がすごいって浮かれたい訳じゃなくてさ……インクリース様の義妹のプエリちゃんって、将来インクリース様に仕える為に騎士団入りするって話らしいんだろ?」




これは確定情報とかではないが、恐らくプエリ本人は将来、ライアを守る剣として生きる為に、騎士団に入りたがっている。



元々リールトンの街で、人との戦闘訓練や人を守る事を目的とした訓練を騎士達としていた事もあったが、恐らくその訓練を通じて、騎士としてライアを守る立場になる事に憧れたらしいという訳だ。



「それは噂で聞いたけど、それがどうしたのよ?プエリちゃんはめちゃくちゃ強いし、さっきの話と何も関連が無さそうに感じるけど?」



プエリはこの第5層に来てからは騎士団とは別行動をとり、パテルとライア(分身体)数人に見守られながら、ソロでワイバーン討伐をこなしている。



流石は≪武王≫と呼ぶべきか、ライアの≪経験回収≫による超絶レベルアップ効果もあって、今の所は怪我1つする事無く戦闘を済ませている。




「プエリちゃん、1人でワイバーン狩れるじゃん?そんな子が騎士団に入ったら、結果的にその騎士団はワイバーンを独自で討伐できるって事にならないか?」



「………」



ようやく男性騎士の言っている意味が分かった女性騎士はふと、将来騎士団に入ってくる戦闘力お化けの女の子エルフことプエリが入団した時を考えてみる。



「……ワイバーン討伐…いや、最初に見たシグレさん達との共闘の場面でも、恐らく余力は余ってる感じだったし、これからも成長を続けるプエリちゃんが私達の後輩……?しかも、プエリちゃんはエルフだから、恐らく人間しかいない騎士学校には入らないから、団長職や副団長職にも就かない……」



「そして、そのプエリちゃんの上の立場にされる俺達には、当然ワイバーン討伐の功績やらなんやらの期待の目線が飛んで来る……」



騎士として、人を守る事にプライドや建前などは捨てているつもりではあるが、さすがに後輩の功績で目立つ所に立っているのに「自分は出来ません」などと言えるほどプライドを捨てる事など出来るはずはない。



よって、近い未来に己のプライドを守る為に行わなければいけない事は一つ。




「「「……もっと鍛えなきゃ…!」」」




……後に、解体場の横を通ったライアが目にしたのは、ワイバーンの解体が終わり、捨てる所である骨や解体ナイフでは断ち切りにくい皮を仮想ワイバーンに見立てて、凄まじく熱気の篭った剣戟を披露する騎士達が数十人規模居たが、ライアは「……遠征で長期間ダンジョンに篭らせたから、ストレスの発散…?」と見当違いの考えをしていた。










――――――ライアSide






「…っと!これで止めッ!!」



―――ザグンッ!!



「………」




ベルベットがコルドーの≪拘束≫の力によって、身動きが取れないワイバーンの息の根を止め、額に浮かぶ汗を拭う。




「…うん、かなりワイバーンとの戦闘も慣れて来たし、危険そうな場面も少なくなったよね」



「……さすがにこれだけ毎日ワイバーンと戦っていれば、レベルも上がりますし、戦闘も慣れます……まぁそれでも数回に1回はインクリース様に助けられているので、我々もまだまだですが」



ワイバーンの死体回収を他の騎士達に任せ、ライアは団長として周りに指示を出しているアインの横に姿を現し(幻魔法で隠れてた)、話しかける。



「助けるって言っても、殆ど私のお節介の部分でもあるし……私が助けに入らなくても、致命傷を避けて、傷薬で戦線復帰出来るようにきちんと動いてるでしょ?」



「その戦線復帰するまでの時間が、勝負を分ける可能性もあります。それに……怪我を負った隙に、護衛対象者を危険に晒すのは騎士としての矜持が許しません」



アインの言い分は恐らく合っているだろうし、ライアが何かを言おうとアインの考えが変わる訳では無い。



ライアはその事を理解したので、それ以上言う訳にもいかなかったので「うん」と静かに肯定をする。




「では、私も周囲の警戒とワイバーンの捜索に」



「あぁー待って待って!実は、話があってアインに話しかけに来たんだ」



「…?」



「ひとまず、騎士団の皆も暫くダンジョンに篭りっぱなしになってるし、ワイバーンとの戦闘も大分良くなってきてキリもいいし、一旦地上に戻ろうと思うんだ」



元々、ダンジョンの遠征自体は2か月くらいを目途にしていたので、期間的には丁度いいし、地上でやりたい事もあるので、ダンジョン遠征を終了させる事にした。



……もちろん、騎士団員達がストレスで、ワイバーンの要らない素材に暴力をぶつけるような事態を懸念しての決定でもあるのだが、それは言わなくていいだろう。




「では、私は団員の皆を集めればよろしいですか?」



「お願いします。私は、プエリちゃん達の方のワイバーンも回収して来ちゃうから、セーフゾーンで落ち合いましょう」



「かしこまりました」




アインはそう言ってワイバーンの死体の元に集まっている騎士達の所を向かって行く。



地上へ戻るという話が伝わったのか、すぐさま「「「おぉぉぉ!!」」」と雄たけびに歓声が聞こえてきたので、ライアは少々可笑しく思いながら、プエリとパテルのいる場所へと向かうのだった。










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