~閑話、ルーの初めてな出会い~











――――ルーside





私には2人の姉がいる。



1人は責任感が強くて、私達姉妹の事を大事に思ってくれている長女のラーねぇ。



もう1人は少し能天気な性格で、天気の良い日なんかは岩場で日向ぼっこをしてたり、意味もなくお外を飛び回ったりする次女のリーねぇ。




そして、その2人を姉に持つのが私で、自分で言うのもアレだけど故郷の大陸で知り合ったハルピュイア達の中だとかなり美人な3姉妹だと思ってる。




私達の住む大陸には、基本的に人間達が大勢住んでいて、私たちみたいな亜人種はあまり好かれてはいなくて、厄介な人間に見つかれば魔物として討伐される事もあるらしい。



でも基本はお互い無干渉が基本の生活をしてたから、私が生まれてからは殆ど人間と関わった事は無く、食料不足は深刻だったけど、問題なく家族みんなで幸せに暮らしていた。







―――――――――

―――――――

―――――






――――ビュゥゥ……


「……うぅ~ん…今日はなんか空気が湿気っぽい…雨でも降るのかな?」



大空で両腕の翼を広げ、空気に含まれる湿度を感じ取りながら森の遥か上空を飛んでいるのは、今年で6歳になった私ことルー。



今日は家族の元でする事も無かったので、暇つぶしがてら広大な森を見渡そうと、お空のお散歩をしに来ていた。



……これは補足だが、本来、ハルピュイアは親の付き添いで飛行訓練を施してもらい2.3年程訓練を経て、1人飛行の許可を貰うのだが、ルーは5歳から飛行訓練を初めて、たったの1年で許可をもぎ取った天才型だったりする。




そんな訳で、若干6歳という小柄な見た目であるにもかかわらず、ルーは付き添いも付けずに1人で散歩に興じている訳である。





「それにしても、何処を見渡してもオークもいないし、食料になりやすい果物もないなぁ……」



最近は、魔物自体殆ど見かけないし、見かけたとしても基本食料にならないゴブリンとか虫の魔物とかばかりだから意味がない。



最後にオークやラフォールディアの肉を食べたのなんて、2週間前にたまたま姉のラーが見つけて来たオークが最後で、丸々2週間お肉を食べてない事になる。



「お肉ぅ~……」



ルーは空を飛びながら、2週間前のお肉の味を思い出して、涎を空中にぼたぼたと落としながら飛んでいく。



「じゅるる……て、ん?アレは……?」



涎を何とか口内に押し留めると、下に広がる森へ目線が下がり、樹と樹の間に見える隙間から何やら反射光の様な物が光った。




「……泉…?いや、あそこには特にそんなのは無かったと思うけど……ちょっと見に行ってみよ!」



鳥の習性なのか、ルーの自信の好奇心旺盛の性格故なのか、危険な物があるという考えには至らなかったのか、特に警戒などをする事無く、その光の元へと急降下していく。





――――バサッ!!



「――ま、魔物!?」



「リックさん!私達の後ろ…に…?」




「よっ…と………?」



ルーがその場に降り立つと、何やら3人くらいの人間と荷馬車が鎮座しており、3人の人間の内2人がこちらを警戒しつつ、困惑の目でルーを見て来る。




「………えっと……あれ?翼が無い?……」



「……君はハルピュイアだろ?しかも、恐らくかなりの幼体じゃないか?」



「ここらへんって、ハルピュイア達がいるなんて話聞いた事あったかしら…?」




ルーは、初めて見る人間の姿に、未だ人間の正体を見抜けず、翼の無いハルピュイアなのだと不思議そうな目で見つめる。



「貴方達はどうして翼がないの?カミナリで焼け落ちちゃったの?」



「……ん~…さすがにこの子に敵対の意識は無さそうだし、討伐は無しでいいよな?」



「あ、当たり前でしょ!?こんな小さい子供を討伐なんて、私には無理よ!」




ルーの問いかけに、前に出てきている2人は返事を返すことなく、ルーの処分に対しての話合いを進める。



「敵対…?討伐って……あ」



ここでルーの脳裏に、小さい頃から両親や長女のラーから教えられていた注意事を思い出す。





『良いかルー、人間というのは私達ハルピュイア……亜人種の事を討伐しに来たり、私達の住処である森や山を奪って行く存在なんだ』



『たべられちゃうの…?』



『ん?ん~……もしかしたら色んな意味で食べられる事も』



『お父さん?子供に何を教え込んでいるのかしら?』



『あ、いや母さん違う!これはルーの危機感を持ってほしくてだな!?』




――――――10分後




ひ、ひほまずひ、ひとまずひんへんはあふなひん人間は危ないん



『……おかあさんとどっちがこわい?』



『…………』



『お父さん?』



顔を腫らした父親に恐らく聞いてはいけない質問をしたことにより、再び母親の怒りに触れたのか、今度は子供達の目の無い部屋に連れて行かれたのは言うまでもない。



部屋に残ったのは、ルーよりも5歳年上のラーと3歳年上のリーだけ。



『…ルー?人間にあったら、必ず逃げるんだよ?』



『にげる……でもわたし、にんげん?ってどんなものかしらない…』



両親の痴態に呆れつつも、自分の妹に危険な目にあって欲しくなかったラーは、父親の代わりにルーへと注意を投げかける。




『良いかいルー?人間というのはね?―――』







「―――私達ハルピュイアと殆ど同じ姿で、腕に翼が無い生き物の事……」



ルーは、今の状況が、人間達3人と対面しているのだとすぐさま理解して、このままでは討伐されると一気に恐怖の感情が心を浸食してくる。




「ひ、ひぃぃ…食べられる…!」



――――パタッ



「ん?」




小さい時に教えられた記憶というのは、かなりいい加減な物で、父親の言った『食べられる事もある』というワードと『怒った時の母親よりも怖い』というイメージが根強く残っていた為、逃走をするよりも、怯えて腰を抜かし、地面に座り込んでしまう。



「大丈夫かい?ハルピュイアの嬢ちゃん?」



「ひぃぃ!食べられるッ!?」



「いや食べないよ!?」



気が動転しているルーは、こちらを心配して声をかけてきた男に対し、悲鳴をあげてしまう。




「ん~…どういった事を教わって来たのか分からないが、人間の事は怖い存在として教えられているのは確かっぽいな」



「それはそうでしょうね。私も大人のハルピュイアは普通に警戒するし、仮に戦闘になれば討伐しなきゃって思っちゃってるから……この子はそんな血なまぐさい所には来ては欲しくないけれどね」



頭を翼で覆いながら、一生懸命これから来るであろう痛みに目をつむるルーは、視覚が閉ざされた事によって、2人の会話がうっすらと耳に入ってくる。



(……あれ?…もしかして……私、食べられない?)



ルーはそんな思いを馳せ、少しだけ頭をあげようとした瞬間、馬車の方に行っていたもう一人の人間が何かを手に持ってこちらに近づいてくるのがわかった。



「ほ、ほら!この炎にビビッて、どっか行け!」



―――ボォォォォ!




「あ、ちょ!?」



「リックさん!?」




ハルピュイアにとって炎とは、山火事や家である巣を燃やす厄介な物で、ハルピュイアの翼をいとも簡単に燃やし尽くしてしまいかねない恐ろしい存在。



「ピィィィッ!?」



ルー自身もハルピュイアの本能として、火を恐れる部分があったのか、大き目の炎が目の前で踊った事で、強張った身体に力が入り、すぐさまその場から飛び立つ。




「あぁ……行っちまったか……いや、変に懐かれても困ったしな」



「もぉリックさん!?あんな小さい子を脅かして恥ずかしくないんですか!?」



「う”……いや、だが」




無我夢中で逃げる際中に聞こえて来た声に、一瞬耳を傾けながら、ルーは自分の家族が待つ住処に急いで戻るのだった。













――――――――――

――――――――

――――――









「とまぁ、それが私の初めて見た魔道具だよ!」



今は飛行船の中で、ライアさんの分身体?に私が初めて魔道具を見た時、魔道具が好きになった時の思い出話をしている最中だ。



「いや、思いっきり攻撃対象というか、追い払われるように使われてるじゃない?…なのにその経験で魔道具が好きになったの?」



「うん!だって、私達の苦手な火も操れるって分かった時は、どれだけすごいんだ!!って興奮したよー!」



「……俺はてっきり、ルーがその2人の人間と仲良くなりたくなった話なのかもって話の途中までほっこりした気分になってたのに…」



「んー?でもあの2人が居たから、人間の中にもハルピュイアと仲良くしてくれる人が居るーって分かったんだよ?ちゃんと感謝してるんだよ!」



「……そっか」



ライアさんは何やら優しい顔で「ふふ」って笑顔になるけど、私としてはまだ魔道具の思い出を語りきって居ないので、もっと話を聞いて欲しい所なので、お話の続きを話し始める。



「んじゃ次は、その3人の商人さん達を追って、人間の街に侵入しに行った時の話ね!」



「いや、え?侵入?それどういう事!?」



ライアはこの日、ルーの話を聞くという行為に精神力がかなり削られたが、ルーの魔道具好きを改めて再確認出来たのであった。









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