~閑話、王都出立の朝での小話2 アインの恋~









「……つまり、騎士としての先輩であるコルドーさんに挨拶をしに来たら、『ツインテ―ルは大好きか?』と出合い頭にいきなり聞かれて、ついポニーテールの方が好きだと言ってしまい、言い争いに発展したと?」



「……はい」



なんとくだらない……と少し呆れながら、意外にもアインはポニーテールが好きな事が判明しつつ、十中八九、コルドーが原因だろうと思っていたライアは、機嫌が良さそうにこちらを見ているコルドーへと視線を向ける。




「コルドーさん…さすがに、ツインテ―ル好きを強制的に布教するのはダメだと思いますよ?」



「ん?私は別に、ツインテ―ル好きを増やそうと思って話していた訳ではないよ?寧ろ私は言い争っているつもりは無かったし、個人的には未来の仲間となるアイン君と恋バナをしていたつもりだ!」



「…(女子かッ!)………なんで、髪型の話が恋バナになるんですか?しかもなんで恋バナで、周りの騎士達がオロオロするような事になるんですか?」



コルドーは以前会った時の印象で言えば、恋愛よりも自分の欲望に忠実な人だと思っていたので、そのような繊細な話をするイメージは無かった。(男性で恋バナをするイメージ自体結構稀ではあると思うが)



しかも、朝早いとはいえ、人通りの多い広場で周りの騎士達が動揺してしまうような状況になるのは変だとライアはコルドーに詰め寄る。




「待って待ってライアちゃん!……確かにちょっと熱く語ってしまった自覚はあるが、周りの騎士達に関して私もわからないよ?寧ろ、アイン君がポニーテール好きで頑張り屋のちょっと変な女の子がタイプと言ってから可笑しな空気になったんだから、恐らくそっちが原因じゃないか?」



「ん?ちょっと変な女の子?」



コルドーの言葉に、周りの騎士達が再びオロオロし始め、何やらアインとライアの後ろの方に目を行ったり来たりとやっている雰囲気が見受けられる。





「―――ご説明いたしましょうご主人様ッ!」



「きゃぁッ!?」



ライアの後ろで事の成り行きを見守るシグレに目を向けると、いきなりライアの真下から声が聞こえて来て、思わず飛び上がる。



「ってベルベット!?いつの間に……というかなんで地面に転がってるの?」



「ご主人様とアインがお話し始めた頃にいつでもご主人様がお転びになってもお怪我をなさらないように、クッションとして待機しておりました」



「……あ、そう……それで?説明って事は、この状況を貴方はわかっているんですよね?」



ライアは、転ぶ可能性よりもベルベット自身に躓く可能性の方が高いと説き伏せ、渋々ベルベットに地面でクッションになる事を辞めさせつつ、今回の詳細を説明してもらう。



「はい、言ってしまえば、周りの騎士達はアインの恋路を心配しつつ、本人にバレるのではないかと一喜一憂しているのです」



「……は?って…え、……えぇぇ!?…もしかして、ポニーテール女子って…」



「シグレの事ですね」





ライアはバッと後ろを振り向き、何もわかって居なさそうなシグレへと目線を向ける。



言われてみれば、シグレは白いロングをポニーテールにした髪型で、頑張り屋……なのかはわからないが、騎士としての力量は高いとは聞いた。



そして、ちょっと変な女の子……ちょっと?ま、まぁ大体当てはまる人物像としてはシグレはピッタリかもしれない。



「……え?アインってシグレの事が好きなの?」



「らしいですね?私はそう言った情報には疎かったですが、騎士学校の中では結構噂になっていたらしく、真面目なアインを応援する人も多かったらしいですね」



「えぇぇ!えぇぇ!何それもうちょっと詳しく!」



ライアは他人の恋路に何やら胸に湧きあがる興奮を自覚しつつ、興味津々と言った様子で続きを所望する。




「私もそれほど詳しくは無いのですけど……アインがご主人様の騎士団に入られる事を決めた理由に、シグレが入団を決めていたからだと言われてましたね……まぁ私はご主人様の下僕なのでそのような色恋はありませんがッ!!!」



(はっ!?そう言えば、この間の入団式?というか宣言式の時も、アインってばずっとシグレの方を見てたし……ベルベットに仲間意識を燃やすシグレに注意を投げかけてたけど…あれってもしかして、そう言う事!!)




ベルベットの後半の言葉は、ライアの耳に殆ど入っていなかったが、アインが異様にシグレを見つめていた様子などを思い出して、うんうんとライアは納得したように頷く。




「……あれ?でもそれじゃ、どうして周りの騎士達はオロオロしているの?シグレはさすがにあれだけの視線やらアインの言葉やらで、好意を持たれているのは明白ですよね?」



「それは……そうですね?なぜでしょうか」



ライアはふと気になった事を口に出せば、ベルベットも不思議だったのか、首を傾げる。



「あの…」



「ん?」



だが、そんな会話と様子を見ていた近くの女性の騎士がライアにこっそりと近づき、耳打ちしてくる。



「(…シグレさん、あれだけ露骨に好意を見せられても気が付かない人なんです…)」



「あぁ……」



何となく、シグレの性格を思えば、恋愛関係の話に疎くても何ら不思議では無いのかもと納得する。



「(そしてですが、アインさんもアレでシグレさんへの好意を隠せていると信じ込んでるんで、私達が横から言うのもお節介かと思って、何も言えない状況が続いてるんです)」



「……なるほどね……」




ようやく、ライアは先程の騎士達がオロオロとしている様子に納得出来た。



つまりは、コルドーとの言い争いは本来それほど問題があった訳では無いが、話の流れでアインの好きな女性のタイプを話し始め、それを周りの騎士達が『シグレにバレるんじゃないか!?』と冷や冷やしていただけらしい。



その空気を感じ取ったシグレは、コルドーとアインの言い争いが原因と考え、ライアに『少しの問題が起きている』と変な感じに報告されたという訳らしい。




(……アインも出来る騎士って感じだったけど…キャラが濃い騎士の部類だったか…)



出発前に、こんなくだらない事で疲れるのも悲しいが、騒ぎになる前に一旦話を終わらせるべきだと判断し、ライアはコルドーとアインに目を向ける。




「コルドーさん?好きな髪型の話もいいですが、ここは外で第3者の目もあるんですから控えてください?」



「すまなかったね、気を付けるよ」




「アインは特にムキになったりした訳じゃないかもしれないけど、そう言った女性の趣味を公の場で言うのは控えてね?」



「はい…気を付けます」



「よし……それじゃ時間も時間だから、皆は馬車に荷物を素早く積み込み始めてください!シグレ、アインと一緒にきちんと進めてね」




「はいッ!了解です主君ッ!!」



シグレの返事と共に、騎士達の陣頭指揮をし始めたので、ライアはその場を後にする。



コルドーとアインには申し訳ないが、さすがにどちらが悪いかなども無い話に時間を割く訳にはいかなかったので、喧嘩両成敗ではないが、一旦話を終わらせる為に無理矢理このような形を取った。



騎士達の荷物の積み込みもあるし、バンボ達への挨拶も残っていたので、余り時間が無かったというアレもあるが、さすがに『恋バナで騒いだから』という理由でしかりつけるのが、何とも情けなかったという気持ちもある。




「……って言っても、コルドーさんはともかく、アインやシグレって前世の世界だったら、まだ高校生なんだよな……」



騎士達の所から離れていきながら、真っ青な青空を見上げて、この世界でも思春期は存在するのかな?と少しだけほっこりするライアだった。






ちなみに、今回の件で、自分以外の恋愛事には結構興味を持っている自分がいるのだと気が付き、ちょくちょくアインとシグレの様子を気にしだし始めるライアだった。









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