~閑話、未来で必要なる小話~











モーゼスの呼び出しから3日、王都で挨拶回りやアーノルド王子とのお茶会(飛行船試乗会)などをして過ごしていたライアだったが、騎士学校の騎士達の準備が完了したと連絡が来たので、早速明日にリールトンの街へ出発する事になった。




もちろん飛行船には騎士達も乗らせる予定だし、明日には王城の方で引継ぎを終わらせたコルドーも来る予定なので、行きよりも帰りの方がかなり人数が増えるのは確かである。



ちなみに、バンボ達大工組やカルデル達は王都に着いてから全くの別行動をしていたので、どうなったかはわからないが、少なくとも片付ける仕事とやらは終わったらしく、明日一緒に帰路につけるとの事だ。




あまり長い滞在にはならなかったが、ライア的にはヒンメルの町で好き勝手錬金術にのめりこんだり、ワイバーン狩りをしている方が気持ち的に楽だし、何より未だ飛行船の中で待機してもらっているハルピュイア3姉妹にも早くヒンメルの町に連れて行ってあげたいので、早めの帰還は望ましい事だ。






「ライアはどのような物が必要になると思うのです?」



「あれ?そういう情報を男の人は殆ど知らないはずだってミオンが教えてくれたし、ライアさんもそう言った事情に関しては知らないんじゃない?」



「こらスロン!ライア様と他の一般男性と同じに考えるなんてダメですよ?ライア様だってもしかしたら知っているかもしれないんだから!」




「あははは……」




で、出発を明日に控えたライアが何をしているかというと、セラとスロン同伴でのリネットとお買い物デートをしていた。



……いや、同伴者が2人も居てデートは色々と違う気がするが、これには訳がある。



というのも、今ライアが立たされている場所に答えはある。



「こっちの手触りの方が赤ちゃんにとって気持ちが良さそうには思えるのですよ?」



「確かにシルクなどは触り心地が良いですが、通気性があまり良い物じゃないんです。オムツにお漏らしした際は通気性のある生地の方が良いらしいです」



「昔、メイドから聞いたけど、通気性のいいのは綿の生地って聞いたぞ?」




ベビー用品店。



そう、なぜメイド2人も同伴での買い物なのかと言えば、ライアとリネットの将来の子供の為に、知識をつける為と、早いとは感じるが必要必需品を買い揃える為だったりする。



なぜ、まだ子供が出来ていないにも関わらずこんなことになっているかと言えば、もちろんアイゼルのお節介が関係していたりする。




数時間前、屋敷の朝食後での出来事……。




―――――――――

―――――――

―――――






『……ライア君、リネット、少しいいかい?』



『どうされました?アイゼル様』




出発を明日に控えたライアとリネットは、朝の朝食を摂った後に軽い雑談を話しながら部屋に歩いていると、後ろから追いかけて来たアイゼルに呼び止められる。




『明日には王都を出て、リールトンの街に向かう……そして、ライア君達はそのままヒンメルの町に帰るのであろう?』



『えっと、そうですね…?アイリス様とは飛行船での旅の道中で遊ぶ約束はしておりますが、リールトンの街に着いてからの約束はしていないので、アイゼル様方を降ろしたらそのまま戻る予定です』



ライアの言葉に『……帰りもアイリスが迷惑をかけてすまない…』と若干申し訳なさそうに返されるが、それが本題ではないようなので、話の続きに耳を傾ける。




『ご、ごほん……あぁ…声をかけた理由だが……ヒンメルの町には子供用の衣服や必需品……オムツや食器を取り扱う商店はまだないのだろう?』



『え?あ……は、はい……そうですね…?』




アイゼルの言葉を聞いて、何か嫌な予感が走ったライアは微妙に言葉を詰まらせながら肯定する。




『お父様?それがどうかしたのです?』



『うむ。単純な心配なのだが、2人の子供が出来た時にヒンメルの町で買い物が出来ないとなれば、リールトンの街まで買い物をしに来なくて困るのではないかと思ってな』



『『ぶふッ!!』』



アイゼルの【早く孫が見たい病】……からのデリカシーの無い気遣い。



『お、お父様!!そう言ったお話は実際に起こった時でもいいのではないのです!?』



ライアはリネットの言葉に、激しく同意するように首をブンブンと縦に振る。




『しかしリネットよ、実際に子供が出来、リールトンの街に買いに行くとなれば、身重なお前は1人寂しくライア君の帰りを待つだけになるだろうし、何より母親として自分の子の日用品選びに行けないのだぞ?……私の妻も、メイドにそう言った物を買わせに使いを出したら『私が選ぶの!』と大激怒された物だ……お前にそう言った感情は無いのか?』



『え…?そ、それは確かに……自分の子の服とかは自分で見てあげたい気持ちも……あるのですよ…?』



予想外にも、アイゼルの言葉に納得できる要素があったらしく、リネットは少しだけアイゼルの言葉を聞こうと冷静な表情に変わり始める。



『で、でもそれなら別に、子供が出来たとわかって安定期とやらにリールトンの街に買い出しに行けばいいのではないのです?』



『ふッ、甘いなリネットよ……今私達の居る場所は何処だ?』



『場所です?……そりゃ王都に決まっているのですよ?それが何なので……はッ!?』




ここが王都だとアイゼルに答えたリネットは、何かに気が付いた様子で目を見開く。




『理解できたか?』



『…ここは王都……つまり、この国で一番発展している街で、ベビー用品の質も種類も断然多いって事なのです!!』



『然り!!故に、ヒンメルの町に戻ってから子を身籠れば、王都での買い物も出来ない!』



2人は何か通じ合う思いがあったのか『お父様!』『リネット!』と熱い抱擁を交わした後、リネットは出掛ける準備をしてくるのです!とそそくさと自室に走り去って行ってしまった。




『……えぇぇ……』



なんという寸劇を見せられているのかとライアは呆然としていると、アイゼルが今度はライアの方へ目線を向けて来る。



『ライア君』



『え?あ、はい』






『子供の服とかを買えば、自ずとそう言った意識になりやすいはずだ……期待しているよ』



(…か、確信犯ッ!?)




良い顔でそう言い放ったアイゼルは、まるで一仕事を終えたかのようにライアに背を向けて、去って行くのであった。






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――――――――

――――――





という事があって、現在ライアとリネットはベビー用品の買い物兼、デートに来ているという訳である。



そして、セラとスロンがいる理由に関しては単純で、2人きりで子供用品の買い物をするなど、ライアの羞恥心が耐えられなかったという話である。



もちろん、建前としては『未来の子供を育てる際に、メイド達には沢山手伝って貰うので、メイド視点の意見も聞きたいから』という理由でついて来てもらっている。



意外にも、スロンもセラも子育てに関する知識はきちんとあるようなので、ライアが口を挟まなくても女性三人でワイワイと話合ってくれるのはいい誤算ではあったが。




「ライアー!こっちに大人用の服も置いてあるのですよ!一緒に見るのですー?」



「あ、リネット様!それは乳児にお乳をあげる為の服です!ライア様が着ても実用は出来ない物ですよ?」



「あれ?でもライアさんって確か≪体液操作≫ってスキル持ってるから、実用も出来るのでは?」




「やめてー!実用出来てもさすがにしないから―!」




そうこうしながら数時間、ベビー用品店を出る頃には、色々と吹っ切れた様子のライアとリネット達4人が満足げな顔をしており、買い物は順調に終わったのだと理解できた。













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