アンファング国立騎士学校【終】
「総員、敬礼ッ!!」
――――ザッッ!!
場所は移り変わり、騎士学校の広いグラウンド。
ライアが選び、受け入れてくれた騎士達30人がシグレの号令と共に、ライアに向かって地面に膝を付きながら敬礼をしている。
ちなみにライアの少し後ろの方ではアイゼルやウィリアム達教員が控えており、些か緊張感のある雰囲気を醸し出している。
……今ライア達が行っているのは、言うなればこの【アンファング国立騎士学校】の卒業式…もっと詳しく言うのであれば、騎士学校の所属から、ライアの騎士団に入るよと宣言する会である。
「アイン・マルコス」
「はッ!!」
シグレの掛け声と共に、ガタイの良い一人の騎士がライアの正面へ出て来て、2歩ほど離れた位置に再び膝を落とす。
……ちなみにシグレが司会をしている事に関してだが、これは本来騎士達を引き取りに来た貴族に仕える騎士が進行を取ったりするものらしいのだが、ライアには未だ専属の騎士がいないので、珍しいは珍しいが、騎士学校の教師人に司会をお願いしようとした所でシグレに『ならばワッチがお引き受けいたしましょうッ!!』と強く推されて、何故か許可がおりてしまったからだ。
ライア自身別に司会は教師だったり、他の人でもいいのでは?と思ったのだが、なんでも騎士団に受け入れる為の宣言式なのだから、騎士団所属の者で取り仕切った方が良いだろうという習慣らしい。
(……なら、なんでまだ騎士団所属じゃないシグレの司会を許可するんだよ……)
今更になり、自慢気のドヤ顔で司会をしているシグレを見ると何ともいい加減な決まり事に呆れてしまう。
(っとと……そんな事より……)
「アイン・マルクス。貴方の活躍を期待し、我が騎士団への入団を認めます」
「ははッッ!!ありがたき幸せ!」
アインと呼ばれた男は、ライアの格式張ったセリフを聞き、噛み締めるように深く頭を下げてから、元の場所へと戻る。
……これで終わりである。
もちろん、これと同じことを残りの29人(シグレも含む)にも行うのだが、それにしても簡単である。
アインの名が呼ばれ、ライアと決まりきった文言を交わすだけの行為に約1分も掛からない。
つまり、30人分の宣言は30分未満で終わるほど簡単な物という事だ。
(とはいえ、セリフを教えられてのぶっつけ本番だし、嚙んじゃったりしないように気を付けなきゃ…)
ちなみに呼ばれる人の順番は騎士としての成績順、つまりはこの30人の中で一番優秀な騎士はアインという訳らしい。
「次ッ!!―――」
――――――――――
――――――――
――――――
「以上ッ!騎士30名ッ!!」
(……ふぅ、何気に疲れた…)
シグレの言葉と共に、緊張で身体に知らず知らず入っていた力を抜き、誰にもバレないように息を漏らす。
「……皆さん、先程講堂でも色々と話はしましたが、やってもらう事は恐らく他の貴族の下でする事とそれ程違いは無いと思います……町を守り、私の大切なものを守ってもらう為に動き、訓練をしてもらいます」
ライアは式の最後として、締めの言葉を騎士達に送ろうと騎士達の方へ身体を向け、まっすぐな目で皆を見つめる。
「訓練は厳しい物になると思いますし、ヒンメルの町はダンジョンがある町なので必然的に魔物との戦闘も増えると思います……ですが、皆さんの安全には配慮しますし、必ず強くさせる事をお約束します。……なので、どうか安心してヒンメルの町に来てください!」
「流石主君ッッ!!言う事が普通の貴族とは明らかに違いますぞッ!!!」
ライアの言葉に反応したのは主にシグレのみ、他の騎士達は何やら苦笑いの様な愛想笑いの様な顔を浮かべ、微妙に気まずい空気が辺りをめぐる。
…いや、宣言式でいの一番に出てきたアインは、シグレの興奮した様子に気を取られているのか、何やら横目でチラチラとシグレの方に目線を送っていたので、シグレとアイン以外の騎士達だったが。
「……ライア君、普通は君が守られる側であり、騎士達の力量をあげるような発言はしない物だよ?……聞き方によっては“今の君達の力では力不足だ”と言っているような物だしね」
「え、あっ!?違いますよ!?そんなつもりで言った訳では無いですし、貴方方の力を過小評価しているつもりも無いですよ!?」
ライアの焦った表情に騎士達は和やかな物を見る目で見てきたが、あらぬ誤解を与えた訳では無いようなので、一安心する。
「……はぁ……変にカッコつけようとしたらダメですね……」
「カッコつけようとしてたのかい?」
「そりゃあ初めての騎士達ですし、ある意味ちゃんとした経由で部下になってくれる訳ですから、多少は……」
心の胸に抱いていた微かなプライドの様な物を打ち明ければ、アイゼルはとても可笑しそうに「そうかそうか」と笑みを浮かべる。
(……締まらないなぁ……ん?)
ライアが恥ずかし気に顔をほんのり赤らめていたら、騎士学校の校舎の方からライア達の居るグラウンドへ歩いてくる人影が目に入る。
「って、げっ……」
「―――ライア・ニー・インクリース子爵ッッ!!!」
校舎からやって来たのは、頬の擦り傷に布を当てた状態で如何にも試合に負けた風貌のベルベットが、ライアの居る方向に名前を叫びながらダッシュで近づいてくる。
「―――貴様ッ!まだ主君に対し不貞を働くつもりなのかぁッッ!?」
「っくッ!?貴様らぁ!どけぇ!!私が用のあるのはそこにい――ぐあぁ!」
ベルベットがライアの元へ駆け寄るよりも先に、シグレが進路を塞ぎ、そこを押しのけようとした所を素早く移動をしていたアインに取り押さえられる。
「…動くな」
「クソッ!離せ!!」
(……判断が早く、シグレの行動を先読みしたかのような位置取り……やっぱ強いんだな)
ライアに忠誠心が溢れるシグレは未だしも、いきなりの事で満足に動けていなかった騎士達の中で、アインは素早く行動をしていた事にライアは舌を巻く。
「俺は…俺はッ!!」
「……まだ諦めがつかないのかな?もっと懲らしめておくべきだったかな?」
「――ッ!?」
取り押さえられ、身動きが出来なくなったベルベットの元へ、多少イラつきを含んだ威圧的な声色で言葉を吐きながら、ライアは歩み寄って行く。
「先ほどの決闘で己の力の無さを痛感したはずです……あれほどみっとも無く涙を浮かべたというのに、まだ私に挑んで来るのですか?」
「………」
ライアには珍しく、人を見下したような目を受けたベルベットは、歯を噛み締めながらゆっくりと顔を下に向ける。
「……もう今後、二度と私の目の前に顔を…「…さい…」…ん?」
ライアの言葉を遮るように、ベルベットは小さく何かを口ずさむ。
「私を……貴方の……貴方様の下僕にしてくださいませぇッッ!!!」
「へ?」
ガバッと顔をあげたベルベットは異様に顔を赤らめ、何かに陶酔するかのようにライアを見つめ、色々とヤバい発言を口にする。
「私は所詮、他の民衆と変わらぬただの下僕……それが貴方様の御力で気付く事が出来ましたッ!!」
「おぉ…おぉ?」
暴走気味に語られる言葉の内容を何とか嚙み砕こうとしてみるが、脳が言葉の内容を理解するのを全力で拒否している気がする。
「よってッ!!私は貴方様の盾となりッ!矛となりッ!椅子となる為ッ!ここにはせ参じた次第でございますッ!!」
「おぉぉ!!ベルベット殿も主君の素晴らしさにやっと気が付いたかッ!!」
「いやいやいや、椅子って言ったよ?思いっきり欲望ありきだよこの人?」
シグレの天然なのか何なのか、思わずツッコミの為に言葉を出してしまったが、そのせいで色々と脳がこの状況を理解し始めてしまう。
(……つまり、ベルベットは世間でいう使い物にならない
ライアは疲れた様子で、ちらりとベルベットの方へ目線を送れば「はぁ……そんな汚らしい物を見るような目で……うひぃ…うひぃぃ…」と変な声をあげながら悶え始める。
(……高慢ナルシストで、実家から見放された侯爵家の息子の本質は、人に見下されると喜ぶ被虐趣味のド変態……濃いってぇ……騎士って濃い人ばっかなのかぁーい)
あまりの情報量に頭を抱えそうになるライアは、アイゼルに助けを求めるように視線を送る。
「……頑張りなさい…」
「………」
どうやら今回は貴族としての問題でもなく、ライア自身の問題なだけなので、アイゼルのお助けはどうやら無いらしい。
「ベルベットよッ!!貴様は意外にも見る目が合ったようだなッッ!!ワッチと共に主君の為に尽くそうではないかッ!!!」
「シグレ……こいつはお前とは相容れぬ者だ。近づくんじゃない」
「ふんッ!私は所詮一度はご主人様に逆らった身……ご主人様の高潔なお尻が痛まぬように椅子に徹する事としようッ!!!」
何故か取り押さえられているベルベットを皮切りに、何やら大いに盛り上がっている3人を見て、疲れた様子で空を見上げるライア。
(……
ヒンメルの町にいる弟という癒しを求めて、若干現実逃避をするライアであった。
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