アンファング国立騎士学校【8】
――――ダッ!!
開始の合図と共に動き出したのは、ベルベット。
手に持った刃を潰した剣を腰より下に構えながら、素早くライアに近づいて来る。
(……踏み込みもスピードも速い……剣の構えも隙が少ない低めの体勢……自分は騎士じゃないという割にはきちんと訓練はしてるみたい)
意外にも動きの悪くないベルベットにライアは舌を巻く。
(……でも)
「フンッ!!」
「よっと」
――――ブンッ…
ベルベットの下段からの切り上げを僅かに後ろに下がる事で紙一重に避けて見せるライア。
「ッ!」
ベルベットはライアが避けれる事に少しばかり驚いていたが、それでも戦いは終わっていないとすぐに顔を引き締め、上段に振り上げた剣をすぐさままたライアへと振り下ろす。
「ほっ」
……しかし、ベルベットの繰り出した攻撃はまたもや紙一重にかわされ、ライアがベルベットの攻撃を完全見切っているのだと嫌でも実感させられる。
「くっそッ!」
横に払っても、突きを放っても、足や手を狙っても全てがなぜ当たらないのか?そう思わせて来るほどギリギリで避けられ、ベルベットの心に苛立ちが募る。
「貴様ッ!避けてばかりで恥ずかしくないのかッ!?」
「ん?あぁ、さすがにすぐに終わらせてもどっちの為にもならないし……もう少ししたら反撃するよ」
「なッ!?」
余裕。
ベルベット自身は当たらない攻撃にストレスが溜まり、自分の武力ではなく相手への挑発をする事によって、自分の苛立ちを治めるとともに、相手の調子を崩せればいいなと思ったのに相手は余裕綽々の様子で返事を返され、その内容に憤怒する。
「『すぐに終わらせてもどっちの為にもならない』?……『もう少ししたら反撃』?…どうやら貴様には妃としての自覚が無いらしいなぁッ!!!」
「ないわッ!」
思わずライアは素で突っ込んでしまったが、ベルベットは特に気にした様子もない……いや、いつもの通り、ライアの言葉が聞こえていないように「ふふふ、決闘が終わった後は私が直々にその身体に妃としての教育を……」とうわごとの様にぼそぼそと喋っている。
(…出来れば、もう少し回避能力を見てもらおうかと思ったけど、こいつの相手をするのが嫌になって来たなぁ……)
ライアにとって、この決闘は自分の選んだ32人の騎士達への自己紹介みたいな物。
ベルベットの事は決闘相手というよりも野党や敵軍の兵と仮定した仮想敵に見立てて、その攻撃をどれほど避けれるかのデモンストレーションとして戦っている。
それに領民の事を完全に下に見ている高慢な態度でいるベルベットに対して、ライアはすでに優しさや敬意を払う相手だとは思っていない。
なので、戦闘中に挑発して来た内容にも特に心が動かなかったし、ただの事実として『君は俺の相手になりえない』と発言した。
それがベルベットのプライドを傷つけたのは理解したが、何故かそれでヤツの頭の中の『ベルベットに敗北したライア』が嫌らしい目にあっているようで、ライアを見つめるベルベットの視線が非常に不快になってしまう。
「まぁ回避能力は十分見せれたでしょ……なら攻撃も見せつつ、さっさと終わらせよ――」
「何をごちゃごちゃと言っている?貴様は私に頭を垂れて、懇願するしか無いのd…ッ!?」
―――ダァンッッ!!
「―――ちゃんと剣で受け止めてね?死ぬよ?」
――――ギャリリリリッ!!!
ライアとベルベットの間合いは4メートル……いや5メートルほどはあった。
だが、ライアがセリフを言い終わると同時に地面を思いっきり踏み切る事で、
両者の剣が当たった瞬間に闘技場内に大きな金切り音が鳴り響き、次の瞬間にベルベットが吹き飛ばされる。
―――ズザザザァー……
「―――ぐあぁッ!?」
土煙を立てながら地面を転がって行くベルベットの様子に、観客席に居た騎士や騎士見習いの生徒達が固唾をのんで、何が起きたのかと目を凝らす。
『……なんという速度……それに力……【竜騎士】は伊達ではないか』
『ライアの戦っている所を初めて見ましたが、あんな感じなのですか』
『よし、よし、いいぞライア君……そのままライア君が怪我をする前にあのバカ者をとっちめてやりなさい!』
一部、ライアの事を知っている者達がいる所ではのほほんとした空気が流れているようだったが、そちらは気にしなくていいだろう。
「グッ……くそ!なんだ…今の技はッ!?」
「技?いえ、今のは技と言える様な物ではないですね。ただ身体能力を使って、素早く移動して、力いっぱい攻撃しただけです」
「そんな訳あるかッ!あのスピードを人間が出せる訳がない!!」
「そうは言われても……現に出来てるし、それで納得してください」
ライアにとって、別に今の攻撃をベルベットに理解して欲しい訳でもないし、どちらかと言えば観客席に向けて見せているので説明する義理も無かったのだが、さすがに何もわからずやられるというのも可哀想と思って、事実をそのまま伝えはする。
「……言いたくないのであれば別に構わない……どちらにしろ、貴様が私の物になった暁には全てを教えてもらうからな」
「え、まだやるんですか?」
「私も貴様もまだ【降参】をしていないが?それとも貴様が負けを認めるのか?」
ベルベットはライアの攻撃を受けても尚、闘志に陰りは無いようで、若干刃が欠けた様子の剣を再度構えてこちらをまっすぐに見つめて来る。
「……ちょっとだけ……君の武に関する部分に対してだけは、少し見直す所があるのかも……」
「私に見直す所など無いはずだが?」
「……やっぱり気のせいだったかも……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます