アンファング国立騎士学校【7】












―――――ワァァ!!




『火竜を討伐して、貴族位を得た英雄があのベルベットと決闘をするんだってよ!』



『アレで本当に男…?どう見ても男性には見えないんだけど?』



『てゆーか観戦に来てる奴多すぎないか?ちゃんと訓練して来いよ』



『ならお前はどうなるんだよ……』





はい。ベルベットの決闘を受ける事になったライアが今居るのは、騎士学校の中でも模擬試合などを行ったり、集団演習を行う闘技場のような場所に来ております。



闘技場と名を打つだけあって、広さは申し分ないし、観客席部分は1000人以上はキャパがありそうなほど大きい施設だ。



…で、周りから聞こえる歓声の内容である程度分かっているかもしれないが、今闘技場の中央ではこの決闘の発起人であるベルベットとライアの2人が向かい合っており、観客席にはこの騎士学校の殆どの生徒が集まってきているのではないのか?と思えるほど人が埋まっている。




(……はぁ…いくら見世物になるのを了承したとはいえ、こんなに集まる物かな?)








――――――

―――――

――――








ほんの数十分前……。




『インクリース子爵……良ければこの決闘受けてみないかい?』



『はい?』




ウィリアムの言葉に驚きを隠せなかったライアは、なぜそんな事を?目で訴えかける。




『別にベルベット君の為などでは無いぞ?この提案はインクリース子爵自身の為になる事だ』



『私の為…ですか?』




イマイチ要領を得ない説明に、訝しみながらウィリアムの説明に耳を傾ける。




『実はなのだが、君が選んだ32人の騎士達の半分ほどが騎士団入りを悩んでいてな。今のままでも恐らく大半の者達は君の元へ行くのは間違いないだろう』



『……悩むというのは自分の未来を考えての事だと思いますので、私としては悩んだ末に来てくれるというなら歓迎いたしますが?』



『うむ。だが、悩むという事は現状インクリース子爵の騎士団入りに対し、決定打になるような印象や情報が無いとも言えるだろう?』



『それは……そうでしょうね。今回の面接でも、私の考えや騎士団の仕事内容くらいしか伝えていませんし、それ以外で伝えれるような情報も持っていません』




騎士達にとってみれば、子爵という低い爵位だけでマイナス印象なのに、聞ける情報自体は仕事内容と雇い主の本当かどうかもわからない思想だけだ。



シグレのようにライアの何かに琴線に触れて、惚れこんでくれる例外もいるが、まともな神経の人間はかなり悩む内容であろう。




『ならば、そこに付け加える情報を増やせば、騎士達も喜んで騎士団入りに同意してくれるのではないか?』



『それが……決闘を受ける事の理由……つまり、私自身の力を見てもらうという訳ですか』




ライアの言葉にウィリアムは肯定をするかのようにニコリと口元に笑みを浮かべる。



これは推測に近いが、普通は騎士にとって守るべき対象である主人が強いと判れば色々とメリットが存在する。



第一に何かしらの危機が迫った時に、自分で状況判断して己の身を守れる事。



身が守れずとも、致命傷を負わなければ護衛対象を死なせたという悪評などは立たないので、騎士としての名誉が傷つく可能性が低い。



それに、戦う力があるという事は力を手に入れる事に寛容……つまり、騎士達の訓練に対して『費用の無駄だ』やら『そんな事をするくらいなら町の警備をしていろ』などと、訓練の大事さを知らない高慢貴族のように言われにくいはずだ。



そう言った馬鹿貴族はあまりいないとは思うが、ベルベットの様な奴がいる時点で、少なくとも居ないという事は無いはずだ。




であれば、ライアが戦える力を見せるのは有効だし、元々ライアの元に来ようとしてくれている騎士達にも安心させてあげられる可能性もあるので、決闘を受けるのも手かとライアは思考する。



『……それに、火竜を討伐した【竜騎士】がどれほど強いのかも見て見たくはあるしな……飾りの称号ではないだろう?』



……どうやらウィリアム自身も元は武の出らしく、ライア自身の強さに興味を持っていたようだ。



『……あまりご期待はしないでくださいね?』






―――――――――

―――――――

―――――








そして、現在……選んだ32人の騎士達だけが集まると思っていたライアは、想定していた状況よりも見世物感が強い現状にため息を漏らすのであった。




「よそ見とは余程の自信があるようだな?この私を前にしてその余裕は少々私の事を舐めていると考えていいのかな?」




「え、いや別にそn「まぁ今更貴方はこの勝負を降りる事など出来ないのだ。存分に己の無力さを味合わせてやるッ!」…いや聞けよ…」




一応の対戦相手であるベルベットも人の話を聞かない系の様子なので、余計に何とも言えない気持ちになる。





「……それと言い忘れていたが、お前が負けた時はきちんと私の妃として可愛がってやるから安心しろ」



「キモイ……って男だって言ってんでしょが!」



「ふん…すぐにその照れ隠しを無くさせてやろう」




まさか男と聞き、脳内キャパに収まりきらず、ライアが男という事実を認めれなくなっているのでは?と少しだけ心配になってしまう。




(……まぁいいか。どの道、俺に負ける気は無いしね)






『静粛に!……これより、ベルベット・ツィンガネとライア・ニー・インクリースとの決闘を行う……決闘に定められたルールは【相手を殺める事の禁止】と【降参、または審判の判断で戦闘不能と判断された場合は負け】の二つのみ……両者問題はないな?』




「はい」「あぁ」




観客席の一部に審判用の区画が用意されており、そこにいる審判員の先生がマイクの魔道具を使って決闘のルールなどを説明していく。



ちなみに、アイゼルとリネットに関しては審判用の区画……実況室?にウィリアム達と一緒に居て、ライアの実力を知る2人は呑気にこちらに手を振ってきている。





『では、両者とも正々堂々…騎士道精神に則った良き決闘を期待する……始めぇッ!!!』










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