アンファング国立騎士学校【6】










「な……私の妃がインクリース子爵本人??それに男……だと!?」



「いや、貴方の妃では無いですし、私には婚約者がいるので」



結局、ウィリアム達に事情を説明していくと同時に、ベルベットがアイゼルとライアを勘違いして認識している事を話すと、案の定ベルベットはショックを受けた顔をする。



ライアに間違われていたアイゼルも、子爵になったばかりのライアを守ろうとライアに間違われている誤解を解こうとはしていなかったが、さすがにウィリアムがいる場で勘違いをそのままにしておく訳にもいかなかったので、渋々ベルベットの誤解を解く。



「はぁ……このような考えなしの大馬鹿が居てツィンガネ侯爵家には同情する思いだ…」



「アイゼル様はツィンガネ侯爵家の方と交流があるんですか?」



「交流というほどではないが、年に何度か開かれる貴族同士の交流の場でいくらか話はしたことがあるくらいか?……今のツィンガネ侯爵家当主は厳格な性格で、領地の街でも真面目な経営をしてくれるいい領主だとは聞いているが…」




「はッ!!あのようなチマチマ領民の機嫌取りばかりしている父上が厳格?あんなのは領主としても貴族としても最底辺の馬鹿領主だッ!貴族たるもの領民に舐められることなどあってはならん!!領民は貴族の下僕でなければならないのだッ!!」




(……下僕…?)



ショックを受け、地面を向いていたと思っていたベルベットが、アイゼルとライアの話を聞いて、何か癪にでも触ったのか、イラついた様子でそんなセリフを吐き出す。



「ベルベット君……その発言はさすがに許容できる範疇を超えているぞ?」



「ウィリアム校長も何を言っているのだ?事実を事実として話して何が悪い?」




ベルベットの言葉に眉をひそめたウィリアムが咎めるように言えば、まるで自分は間違っていないと確信しているかのように堂々と言い返してくる。



(……あぁ…こいつに何があったかは知らないし、どんな考えでそう言う思想を持ったかはわからないけど……こいつはなタイプだ…)



人の考え方というのはある程度の時間と経験で変わる。



だが、一度染まった考え方というのはその人物の本質的な部分に影響されているし、染まり具合では考え方が一生変わる事のない人間ももちろんいる。




人とは楽な方に、欲望の赴くままに思考する生き物だ。



『ここは通っちゃいけない場所だけど、〇〇の時間が迫っているし、今日くらいはいいよね』と一度楽な選択をした者は、その後にまた理由を付けて楽な道を行く。



『自分はこんだけ頑張って働いているのに、あいつよりも給料が安い?そんなの可笑しいだろ?』と自分を肯定する為に人の悪口を溢しストレスを発散し、時にはこれくらい別にいいだろ?と窃盗を働く。



そして『俺より下の立場が居て、気持ちがいい……何をしても俺は許される』と、一度上に立つという事に快楽を覚えてしまえば、下の立場の者に対し、自分の立場を脅かされるような隙を与えないように、より下の者を下に見る傾向になる。




恐らくベルベットは自分が上の立場に立たなければ納得しない高慢な性格なのだと思う……実際にどういった経緯で騎士学校に来たのかはわからないが、ツィンガネ侯爵家がまともな人達だとすれば、ベルベットの異常に一早く気が付き、この騎士学校へ隔離したのではないかとも思えるが、そこはただの想像である。





「……君に騎士になれる度量はない」




「当り前だッ!私はツィンガネ侯爵家の次期当s「次期当主としての度量も無ければ、君は貴族としても間違っているし、貴族を名乗るのも烏滸がましい」……なに?」




見れば、ウィリアムだけではない。アイゼルやシグレもベルベットへ向ける視線に軽蔑の色が見えており、周りで野次馬していた数人の生徒達も『あんなのが侯爵家の息子?』やら『最低だな』と非難の声が上がる。




「くっ!?貴様らッ!私を侮辱するのかッ!!!」




さすがに自分の味方が一人もいない事に気が付いたのか、ベルベットは忌々し気に周囲を見渡しながらそう叫ぶと、さすがにとばっちりは嫌なのか、野次馬をしていた生徒達はささっと目を背ける。




「……クソッ!もういい!決闘だッ!決闘で私の力を見せつけ、私が間違いではないと知らしめてやろう!!」



「そのような決闘を誰が受けるというのだ全く……決闘とは相互の承認が無ければ行えない物なのだぞ」



「そんな事はわかっているッ!おいインクリース子爵ッ!」




「……ん?私ですか?」




さすがにもうアイゼルとライアを間違えている訳では無いようで、ライアに指を指しながら話しかけて来る。



「お前、私と決闘をしろ!」



「へ?……いや、面倒なのでお断りしますが…?」



「拒否権などは無いッ!!」



(いや、相互の承認が無いとダメって話だったじゃん…拒否権普通にあるでしょ…)



あまりに横暴な物言いに、さすがのライアが呆れていると、何やらウィリアムが考え込むようなしぐさをする。



「うむ…?インクリース子爵が決闘……」



「ウィリアム様?」




今の話しの流れで考え込むような事は無かったと思っていたライアは、何かを考え込むウィリアムに何か嫌な予感的な物を感じ取る。




「インクリース子爵……良ければこの決闘受けてみないかい?」



「はい?」




ウィリアムの提案は、まさかのベルベットの要求を受けるという衝撃的な提案であった。











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