アンファング国立騎士学校【1】










―――――ワァァ!!




響く歓声、男女比で言えば男性の声が多く聞こえるが、僅かに女性の甲高い歓声もちらほらとライアの耳に聞こえて来る。



上を見れば優に高さ100メートル位はありそうな天井が見え、歓声の上がる周囲を見渡せば、今ライアの居る闘技場の様な場所からほんの少し高い所に観客席が存在し、何処を見ても空席など見つからないほど超満員。




「よそ見とは余程の自信があるようだな?この私を前にしてその余裕は少々私の事を舐めていると考えていいのかな?」




周囲を見渡していたライアに、真正面に立ってこちらを睨みつけていた男性がイラつきを隠そうともせず、眉間に皺を寄せながら問いかけて来る。




「え、いや別にそn「まぁ今更貴方はこの勝負を降りる事など出来ないのだ。存分に己の無力さを味合わせてやるッ!」…いや聞けよ…」




男はさして邪魔でもなさそうな前髪を靡かせるように払いつつ、決め顔でライアにそう宣言してくる。



(……はぁ………)




広い闘技場の様な場所で、ライアと男が対面しているのはなぜか?その理由については少しばかり時間を遡って、今日の昼前にこの闘技場の主体である【騎士学校】を尋ねて来た時に遡る。










――――――――――

――――――――

――――――













「……ここがアンファング国立騎士育成学校だ」



「おぉぉ……ボクの通っていた学園よりも結構大き目なのですね…」



「一応、この国で一番の騎士学校ですからね。見栄えも色々と気にして週に一度は外壁や周辺の清掃が行われているらしいですよ」




国王との謁見があった日の翌日、ライアとリネット、それにアイゼルの3人は王都の中心地からほんの少しズレた所にある騎士学校の前に来ていた。



騎士学校の外観で特徴的なのは、何と言っても驚くほど白い大きなお城の様な校舎である。



高さ自体は200メートルは無いだろうが100メートルは優に超えていて、この建物が出来てからもうすでに数十年は経っているはずなのに、汚れなどが一切見当たらない綺麗な外壁。



敷地内にはグラウンドの様な場所も完備されていて、今も数十人の騎士の卵達が訓練に勤しんでいる。



「……こんな大きい建物の清掃を週一です?中々にヤバいのですよ…」



「まぁ国を守り、己自身が清廉潔白である事が絶対な騎士を育てる学校の外観が汚いでは、外聞が悪いのだろう。さぁ、あまりここで立ち話をしていてもしょうがないのだ。早く中に入ろうか」



アイゼルはライア達にそう言うと、目の前のお城に見える校舎の中に入るべく足を進め、ライア達はそれに続くように歩き出すのだった。




……ちなみにだが、ライア本人自体はここに来た事は無いが、王都に滞在させているウィスン達は何度か近くまで足を運んでいるので、特に驚きはなく、なんだったら数十年前にこの騎士学校が設立された事や、見栄えを気にして毎週清掃業者が入っている情報なんかもウィスン経由で【BARハイド】のマスター(なりきり情報屋)から色々と聞いているので、結構詳しい方と言っても過言ではなかったりする。













「お初にお目にかかる…私はこのアンファング国立騎士育成学校の校長を務めるウィリアム・アンデルセンという者です」



ライア達は校舎の中に入ると、どうやら迎えの人が待機してくれていたらしく、すぐさまこの学校の応接室のような場所に通されると、ものの数分でこの学校の責任者である校長が挨拶に来てくれた。





「私はこの度、国王陛下から子爵の位をいただきました。ライア・ニー・インクリースと申します……ん?アンデルセン?」



アイゼルとリネットも挨拶を交わす中、ライアは少しだけ聞き覚えのある名に疑問を持ち、目の前の初老を迎えたガタイの良い校長に疑問の目を向ける。



「ライア君、この方は君が考えている通り、シュリア・アンデルセン嬢の叔父に当たる方だよ」



「姪が何時も世話になっているそうだね?甥のドルトンからも2年前の事件では世話になったと聞いているよ」



「あ、は、はい!いつもギルド長にはお世話になってます!……ドルトンさんとはあれ以来お会いできてはいませんでしたが、あの事件の際は後始末とか色々とお世話になって…」




いきなり知り合いの親族に会ったという事に少なからず動揺したライアは、慌てて返事を返すが、ライアの慌てぶりにウィリアムは「よいよい」と優しい笑顔で落ち着かせようとしてくれる。



「シェリア本人から聞いたわけでは無いが、ドルトンには君の人となりなどは聞いている。あまり緊張などせずに気楽に話をしたまえ」



「は、はぁ……ありがとうございます」




ライアは妙に落ち着かない気持ちは変わらないが、あまり変に意識してしまっても相手に失礼になると心を落ち着かせ、今日の本題の話へと移ることにした。




「―――という事で、国王陛下から褒美の件は聞いていると思うのですが、私は陞爵したとはいえ子爵……騎士学校の生徒達には良い顔されないと思うのです」



「ふむ……それで比較的身分差を気にしない女性騎士を募りたい…と」



ライアは前日アイゼル達と話した内容をウィリアムに伝え、どのような騎士が欲しいのかを伝える。


何故、アイゼルではなくライア自身が話の主軸で話しているのかと言えば、単純に騎士団を設立する代表がライアなので、その代表が親(保護者)にすべてを決めてもらっていると思われるのは貴族としての外聞が悪く、幼稚な子供として見られてしまうので、出来るだけライア本人が話を進めているのである。




「我が学園には多くの生徒がおり、その約3割ほどは女性騎士を目指す女性だ。望めば女性騎士だけで設立した騎士団を作る事は可能だろう」



(いや、さすがに女性だけで作るのは居心地が悪いというか……出来れば気の合う男性騎士とか居てくれればうれしいんだけど……)



ウィリアムの言葉に、ライアは脳裏にハーレムの様な想像を描くが、今でさえヒンメルの町の屋敷の男女比は女性が圧倒的に多い状態なので、ライア的にはもう少し気軽に話せる男性がいて欲しいと心の隅で希望していた。



「……さすがに騎士団員全員を女性騎士で募集したりはしないですよ?ただ屋敷の警備やリネットさんの護衛についてもらう騎士は女性の方がいいですけど」



「ボクとしては騎士団全員女性でも構わないのですが、さすがに無理は言わないのですよ」



「では、目安としては男女比半々程で、男性に関しては子爵から下の身分の出の者達を集めた方がよいのかな?」




ライアはウィリアムの言葉に肯定の「はい」と頷きながら返事を返す。




「ならその条件で皆を集めておこう……少しばかり時間を貰うので、誰かにお茶を持って来させよう。暫く待っていてくれたまえ」



「あ、はい」



ウィリアムはそう言って応接室を出て行き、ライア達3人は応接室に取り残される。




「……うむ、ひとまずウィリアム殿が戻られるまでは私達も大人しく待っている事にしよう。少なくとも1時間ぐらいはかかるであろうからな」



「わかりました」



「ライア!分身体を1人出して欲しいのですよ!1時間もあるのでしたら少しばかり【改造人間ホムンクルス】の練習をするのです」




ライアはリネットの言葉に「ここで!?」と驚きはしたものの、どうせ見ているのはアイゼルだけだし、ウィリアムが戻ってくる頃には分身体も消しておこうと決め、そそくさとリネットの練習台を出すのであった。








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