異世界ブラック?









運輸業とは簡単な話、人や荷物を、賃金を貰って運ぶ事。



前世では飛行機や新幹線が主に運輸業として知られていると思うが、この世界の運輸業と言えば、精々大きな街と街を行き来する乗合馬車ぐらいしか存在せず、馬車に乗れるのも精々10人と少なく、荷物もそれほど積載できるものではない。



そんな中、1000人もの人を乗せることが出来、荷物に関してはもっと積載できるであろう飛行船が運輸業を始めれば、成功は間違いなしは絶対だろう。



現に、元々ライア達は飛行船の扱いを、ヒンメルの町やリールトンの街、そして王都を定期的に行き来する旅客機兼空を飛ぶ豪華客船として、空飛ぶリゾートとして運行していくつもりであったので、意味合い的には運輸業としての一面も持っていた。



なので、ダンジョンの行き来に飛行船を使うという案はダンジョンの入り口周辺をほんの少し開拓すれば、問題なく実行可能だろう。




……だが、一つだけ問題がある。




(……仮に冒険者を対象とするなら、飛行船の料金設定が高すぎるかな……冒険者は貴族でもないし、ダンジョンに行って魔物を狩ったとしても利益が出ないんじゃ誰も行きたがらない)




冒険者の殆どは平民で、それほど財力に余裕がある訳では無いので、仮に飛行船の料金が1人銀貨一枚だとしたら、そのお金を払うよりも近場のリールトンの街にあるダンジョンか、ヒンメルの町のダンジョン、もしくはライアがまだ行ったことのない、国内にもう一つあるというダンジョンに行った方が冒険者にとってお得だろう。



そして、肝心の飛行船の料金設定なのだが…。



(銀貨5枚……これじゃ誰もダンジョンへの定期便に乗る訳がない…)



この値段設定は、テナントの貸し出し料金や飛行船の中でサービスする予定の飲食店やカジノといった物の利用料金も含めての値段設定なので、これ以上安くするのはリネットに禁止されている。



「……すみません……現状飛行船を一般に開放する際の料金を銀貨5枚になると考えておりますので、さすがに冒険者達は利用しないのでは……」



「ふむ?…それは移動だけの飛行船だとしてもその値段になるのか?」



「移動だけ……あ!」



国王のひょとんとした顔で告げられた言葉に、ライアは自分の浅慮さを痛感し、羞恥の感情が溢れて来る。


(そうじゃん…別に今出来てる飛行船以外にも作るって話で進めてるんだ……テナント業やカジノなんかのサービス業務がない、ただ移動に使うだけの飛行船を作れば、値段設定を低くしてもいいはずじゃん……)



もちろん格安にして、慈善事業のようにする訳では無いが、ただ人や荷物を運ぶ用の飛行船を作れば、銀貨1枚以下の薄利多売にする事も可能だ。



乗員も50~100人くらいの大きさであれば、今の飛行船よりも早く移動できるだろうし、ダンジョンへ移動以外にも街と街への定期便を作れば、利益は簡単に出せそうだ。



(……まぁ規模の小さい飛行船と言っても作るのに時間が掛かるから、どの道飛行船業が安定するのは何年も先になりそうだけど…)




ぶっちゃけライアにとってこの飛行船開発は、国の為とか人の為とかではなく、自分達の娯楽の為に作った部分があるので、ここまで大事業になったのは計算外だが、それを飛行船業に期待を向けている国王に言う気にはなれないし、言ったら絶対にダメだとわかっているのでいう事は無いが。




「どうやら問題は解決できたか?」



「……はい、移動だけに使う簡易的な飛行船であれば、ダンジョンへの移動……それに街と街を行き来する定期便としても運行させる事が出来ると思います」





「「「おぉぉぉ…!」」」




ライアの言葉に国王は笑みを深め、周りにいた貴族達は新たな空の時代の幕開けを思い浮かべ、溢れる歓喜の声が謁見の間に木霊こだまする。






「うむ、よく言い切ってくれた!……では新たなダンジョンの発見の功も合わせてインクリース男爵に褒美を送ろう」




――――パチパチパチ!




(あ、そっか……元々褒美をどうするかって話だった……褒美が増えるって事だよね…?もしかしてまた開拓…?)



国王の宣言に貴族達が拍手を送り、ライアはあっけにとられつつも国王の言葉を聞き逃さないように、精神を落ち着かせる。




「インクリース男爵には子爵の位に陞爵しょうしゃく、そして新たなダンジョンの経営権やその土地の裁量権を与える」



―――ざわ…ざわ…



国王の言葉に周りの貴族達が騒めき出す。


(その土地の裁量権…?つまりその土地は完全に俺の物……って元々ダンジョンのある所って王国の土地じゃないから、これってもしかして“俺自身が国を興す事を許可された”って事じゃ…??)



実際にはヒンメルの町を手放すつもりはないので、独立する訳では無いし、何なら独立したとしても未到達地域であるあの土地に国が出来ようと、経営していく事など土台無理な事ではあるが、国王直々に国を作る権利を許可された事実はさすがに大きい。




「静まれ……あの土地は王国の物ではないのだ。裁量権自体元々インクリース子爵の物と言って過言ではない……我が国土ではない土地に税をかける事も出来ないのだから、大々的に褒美として渡した方が面倒がない」



言われてみれば、国の所有していない土地に税を課すというのも変な話だし、仮に税を敷いて国民に「この国じゃない土地に税?インクリース子爵可哀想」とでも悪評が立ってしまうより、一貴族であるライアに国にとって扱いづらい土地を全て譲渡し、「この国は太っ腹だな!」と言われるほうが利益につながると考えたようだ。



他の貴族達も冷静になって事を理解したのか、ざわめきが落ち着いて行く。



「うむ……そして褒美がもう一つ」



(え、もう結構お腹いっぱいなんですけど…)



陞爵しょうしゃくの件と土地の裁量権を貰っただけでライアの心は一杯一杯であった為、若干もういらないと考えてしまうが、国王はライアの心情に気が付くことなく言葉を紡ぐ。




「インクリース子爵に王都の騎士学校から騎士団を設立する為の人員を補給させる事を許可しよう」




「………」




(それって戦争を見越しての戦力増強の一環では…?)




ライアは褒美と称して、殆ど名誉しか手に入っていない現実に嘆き、表情筋が軽く死んだかのような無表情を晒していた。










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