迷子の洞窟3
―――ダンジョンから鳴り響く女性の様な悲鳴を耳にし、ライアは飛行船からの追加の分身体を待つ事無く、急ぎダンジョンの奥へと進んで行く。
「入り口がめちゃくちゃ大きかったから不思議はないけど、めっちゃ広いなこのダンジョン……渓谷の殆どが空洞なんじゃないか…?」
ライアは薄暗いダンジョンの中で≪鷹の目≫を利用し、ダンジョンの地形やあたりを見渡しながら走っているが、ダンジョンの中はほぼ大空洞と言っていいほどの大きな空間が広がっており、ダンジョンの最奥の方は≪鷹の目≫を使用しても見通せない程広い。
一応≪索敵≫も使いながら、悲鳴をあげた女性を見逃さないようにはしているが、女性が気を失って物音一つ上げなかった場合は見逃す可能性が高そうだ。
「……それにここの魔物…何匹か結構おっきい反応はあるけど、俺の知ってる魔物じゃないな……人間の2,3倍はありそうだけど…」
≪索敵≫を使って魔物の存在は確認できても、ライア自身が初見の魔物であれば実際にこの目で見なければ、どんな魔物かはわからない。
故に本来であれば魔物の種類や強さなどを確かめる意味合いも込めて、近くにいる魔物を観察しに行きたい所だが、人が襲われているかも知れない現状でその手は打てない。
(……せめて魔物の姿ぐらい確認出来れば嬉しいけど……人命大優先!……ッ!あそこかッ!!)
どうやら悲鳴をあげた人物は比較的ダンジョンの浅瀬部分に居たらしく、ライアの≪索敵≫に人型の反応が検知される。
「……って3人??……しかも、これ…ホントに人…か?」
≪索敵≫の反応では、ダンジョンの魔物と恐らく逃走を計っている3人がライアの居る所から≪索敵≫で察知できる約1キロ先にて確認できた。
しかし、逃げている3人がどうにも人間よりも腕?が長いように≪索敵≫で感じられる為、微妙に違和感を感じてしまう。
「……悲鳴自体は人間の物と遜色はなかったし…わかんないまま手遅れになるよりはいいねッ!!」
―――ダッッ!!
ライアは未だ疑問が残るまま、魔物から逃亡している3人組の元へと急ぐ為に、ステータスのゴリ押しの如く、瞬く間にその場から走り去っていく。
――――――――――
――――――――
――――――
―――ドォォンッッ!!
『きゃぁッ!?……う!ほん………つこいヨ!!』
『……!!……から……を動かしなさ……』
『もぉ………れたぁ…!!』
広大なダンジョンの中を、魔物達と遭遇しないように駆け抜けていくと、ものの1分もかからず≪索敵≫で察知した地点に到着すると、魔物が立てた大きな音とともに、魔物から逃走しているであろう3人組の声が聞こえ始める。
「……ッ!あそこか…!」
ライアは走りながら目を凝らすと、前方の方に松明か何かの光に照らされた牛の半獣半人の化け物とその傍で逃げ惑う3人の人影を見つける。
(あれは…ミノタウロスか!)
どうやらここに来るまでの間に≪索敵≫で感知していたのは、普通の人間の大体3倍は大きい巨体を持ち、牛が2足歩行している姿が特徴のミノタウロスという魔物だった。
ミノタウロスは基本、この国ではあまり見かけない魔物らしいが、一応王都の図書館では記載される程有名な魔物らしく、ミノタウロスから取れる牛乳や牛肉?がとても美味らしく、欲しがる美食家などに売ればかなりの高値で取引される程の高級食材らしいとの事。
「ブモォォォォォッッ!!!」
「わぁッ!!」
そんなミノタウロスについての豆知識を頭の中で反芻していると、ミノタウロスの雄たけびに気を取られたのか、逃げている3人の内一番小柄そうな子が足を地面に取られ、ミノタウロスの眼前の前に無防備な状態になってしまう。
「ブモォォッ!!」
「ッてヤバッ!!間に合え……“ウォーターブレイザー”ッ!!」
その隙をミノタウロスは見逃すつもりが無いらしく、右手を大きく振りかぶるのを見て、ライアは急いで魔法を発動させ、ミノタウロスの振り上げた右腕に狙いを定める。
――――ズバンッ!!
「ブモォォ!?」
「ひゃぁ!?……えッ!?」
ライアが放った水魔法は、ミノタウロスの振り下ろされる右腕の肘部分に見事に命中し、振りかぶった勢いもあって、目の前で倒れている女の子の背後へと右手が飛んでいく。
ミノタウロス自身も右腕が切断された事に一瞬気が付かなかったのか、振りかぶってバランスを崩しそうになりながら、無くなった右腕を見て驚愕の顔を浮かべる。
倒れている女の子は魔物の右腕から噴き出た血が飛んできた事でパニックになっていたが、ミノタウロスの右腕が無くなった事に気が付き、訳が分からないと言った表情を浮かべる。
「い、いきなり魔物の腕が飛んだんだヨ!?」
「一体何が……ってルー!!早くこっちに!!」
「あ、待ってラーねぇ!」
ミノタウロスが無くなった腕に気を取られている内に、一足先に正気に戻った3人組がすぐさま転んだ女の子を起き上がらせる。
「ブモォォッッ……ブモォォォォォッッッ!!!!」
右腕を失い、目の前の獲物を仕留めるチャンスを不意にされたミノタウロスは、怒り心頭と言った様子で叫び声をあげる――
「―――怒る前に自分の腕を飛ばした原因を見つけないとダメだよ?」
―――ゴキッ…
――が、魔法を放ってからミノタウロスが正気になるまでの数秒の間にすぐそばまで忍び寄っていたライアにミノタウロスが気が付かず、背後から伸ばされたライアの手により力づくで首の骨をへし折られる。
―――ドッ……ドスン…
「わっとと……おぉ、結構あっさり出来るもんだね。ステータスと≪格闘技≫の合わせ技ぽくしたけど、ぶっちゃけ暗殺術だよね」
首をへし折られ、膝から崩れ落ちたミノタウロスの死骸を見て、しみじみと些かどうでも良さげな独り言をつぶやく。
「は、はわわわわわ」
「首をひとひねり……怖いヨ!?」
「に、人間がこうもあっさりあの魔物を……」
ミノタウロスの倒し方に一考していたライアは、少し離れた場所から聞こえて来る話し声に、本来の目的を思い出す。
「あ、そうだった……すいません!そちらに怪我とか無いです…か?」
此処でやっと、助け出した3人の姿をはっきり見る事になって、ライアが≪索敵≫で疑問に思っていた事の答えがわかった。
「あ、あぁ…助太刀感謝する……私達は特に怪我とかは大丈夫だ…」
ライアの言葉に返事を返す女性の両腕には、明らかに普通の人間にはあり得ない、大きな翼が生えていた。
(……
ライアは昔、旅商人のラルフに聞いたハルピュイアの話を思い出しながら、今後の対応を決めようと思考を回すのであった。
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