迷子の洞窟












「くッ……まずいですね…」



「やばいのですよ……このままでは…王都に辿り着けないのですよ!」



「はわわわわ…」



場所は飛行船の最上部に存在する操縦室。そこで現在、ライアとリネット、それにお世話としてメイドのアルの3人が頭を抱えてとある問題に直面していた。




飛行船での空の旅をする中で気を付けなければいけない事は空を飛ぶ強力な魔物の襲撃やこの国ではあまり存在を確認されていない台風などの強い風の影響などに注意するぐらいしか、危険と呼べる物は存在していない。



これが前に話した通り、一般の人達が乗船するようになった際にテロリスト行為や人為的ハプニングなどが起こるようになれば話は変わるが、今回の乗員にそんな事を起こす者はいないので、そこは省く。





だが、現在ライア達を困らせている問題は魔物でも台風などの強い風の影響でもない。






「……なぜまっすぐ進んでいたのにこんな見た事も無い山脈が眼下に広がっているのです!?」



「リ、リネット様が操縦されてる間……その…結構左右に舵がズレてましたよ…?」



「まさかのリネットさんが方向音痴の人だったとは……」






何を隠そう、リネットの操縦のおかげ?で全く見覚えのない場所で迷子になっているのだ。




「ヒンメルの町から出た時はモンドさんと俺が交代している内にリールトンの街に着いてたからわからなかったけど……まさかこんな問題点があるとは……」




此処で説明しておくと、飛行船の運行方法は基本【重力】の魔石を使用した上下左右と前後に進む簡単設計である。



前にも言ったと思うが、やろうと思えばライア達錬金術師組は斜めや船体をひっくり返す様な旋回も出来るが、そこはいいだろう。



で、飛行船の運行に関する情報で進路の目安…というか前世で言う航路決めに関してなのだが、これは基本地図や地表を見て方向を決めるかなり原始的な方法を採用している。



もちろん時が進むにつれ、地表に何か目印的な物を建造したり、魔道具でレーダーの代わりとなる物を発明するつもりだが、現状は手探り運転で進行している。




ライアも飛行船開発の際にどうしようかと考えていたのだが、前にライアが一人でリールトンの街に【重力】の魔石を使って飛んでいった時にある事に気が付いた。



前世では空路を使用していたのは基本飛行機という飛行船よりもさらに高い高高度を飛ぶので、地表の目印などは役に立たないが、飛行船が飛ぶのは精々高度1000メートルとかそれ以下なので、地上の道や遠くの町などを目視で確認しやすい。



更に言えば、この世界には町と町の間は基本街道や平原ばかりなので、人工物が見えさえすれば、飛行船がどのあたりにいるのかはきちんとわかるようになっていたのだ。




ライアがリールトンの街に飛んでいった時も、ヒンメルの町から上空数百メートル程浮上しただけで、遠くに神樹の森の大きな神樹が僅かに見えていたので、特に迷う事も無くリールトンの街まで行く事が出来た。




なので、飛行船の運行は余程辺境にまで行かないのであれば問題ないと思っていたのだが……まさかのリネット自身が方向音痴だとは思わなかった。





「むぅ……申し訳ないのです…ボクにまさかこんな苦手分野があるとは思っていなかったのですよ…」



「考えてみればリネットさんって基本リールトンの街の工房と領主邸以外には出かけませんし、部屋の片付けとかも苦手ですもんね」



「か、片付けは関係ないのではないのです!?」



「ど、何処に物を置くのか忘れちゃう……から…どっちに進んでるのかも…忘れちゃう、とかですかね…?」



「ふぐッ!?」




アルの一言に結構なダメージを負ったのか、リネットは崩れ落ちるように膝を付き、身体全体で悲しみを表現する。




実際には、リネットが運転する際に落ち着きがなく、まっすぐ進むだけという単純作業中に新しい錬金術の実験方法などを考えてしまう為、結構な頻度で操縦中に上の空になっているのが原因ではあるのだが、幸いにも誰にもバレる事は無かった。





「ひとまず、運転は俺が変わりますから、モンドさんとアイゼル様……はここに呼ぶのは可哀想ですね……ではアイリス様とルル達を呼んできてもらえますか?ここら辺の地理に見覚えがあれば、王都への道もわかると思いますから」




「「はい(なのですぅ…)」」





2人にお使いを頼み、ライアはライアで出来る事をしようと現在動かせる分身体を船内にいる人達の所に向かわせ、ここらへんに身に覚えが無いか聞いて回る。




「……人工物は…見える感じ見当たらないけど……ん?」




船内の事は分身体とリネット達に任せるとして、ライアは地表部分に何か目印になりそうな物は無いか≪鷹の目≫を使って目を凝らしていると、何やら少し大きめの洞窟が渓谷の中に存在するのが目に入る。




「……あそこ……微妙になにかある…?洞窟の入り口付近に木の小屋…見たいのがあるように見えるけど……」



洞窟の周りには、人の痕跡らしき木で出来た何かが見えるのだが、さすがに≪鷹の目≫を使っても距離が足りず、渓谷の谷間にあるので若干ほの暗く、正確に何があるのかは不明である。




「人が居れば、王都の方向がわかるかも知れない……よし、≪分体≫」



ライアは急遽その洞窟のある場所へ飛行船を移動させ、予備として出していなかった分身体を1人生み出し、飛行船の外に繋がる上部ハッチに向かわせる。




(今回は何があるか分かんないし、分身体は回収できないと思って魔道具は無しだね)



今ライアがしようとしているのは、ダルダバの町の時と同じく分身体を単騎で洞窟付近に先行させ、そこら周辺の調査に赴かせようという考えだ。




だが、今回はダルダバの町の時と違い、敵対生物の存在が不明の為、万が一を考慮して分身体の回収は行わず、情報だけ手に入ったら分身体を消滅させるつもりで送り出す。



なので、【重力】の魔道具が無駄にならないように、ステータスのごり押しと泥魔法にて地面を柔らかくして、無理矢理降りる紐無しバンジーを決行するのだ。





「せめて何かあってくれると良いけどね……」




飛行船を洞窟の真上に付けると、ライアは分身体を地表に向けスカイダイビングさせるのであった。











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