王都に向け出発








さて、そんな色恋話があってから何日かが経ち、王都アンファングへと向かう日が来た。




「わぁ!!この日を楽しみにしてましたが、これほど高い空の上から地上を見渡せるなんて……素敵ですわ…」



「お嬢様、街があんなに小さいですよ?……人間がゴミ屑のようですね…」



「おぉぉ……あまり下を見ていると腰の力が抜けそうになるな……」



搭乗者はヒンメルの町から来たライア達一行とバンボ達大工組とカルデル達の他に、アイゼルとアイリス、それとキルズ率いる護衛騎士達が数名と同じくリールトン伯爵家の使用人が数名多い状態になっている。



で、現在はリールトンの街のはるか上空まで浮かび上がっており、操縦席に来ていたアイゼルとアイリス、それにアイリス付きメイドのルルが興奮気味にはしゃいでいるのだ。



…まぁルルは興奮からか変な事を口走ってニヒルに笑みを浮かべ悦に浸っているし、アイゼルに至っては傍から見ても若干の及び腰になっているので、程度は違えどミオンと同じ高所恐怖症っぽいみたいで顔色を悪くさせているが。




「アイゼル様、一応客室だったら外の風景は見えないですし、揺れも少ないので読書なども出来ますよ?」



「あぁすまない……私は慣れるまで自室で休ませてもらうよ。その間のアイリスの相手は任せていいかい?」



「はい、飛行船の案内なんかしかできませんけど」



若干顔色の悪そうなアイゼルは「あはは、助かるよ」と出来るだけ外を見ないように操縦室から出て行き、アイリスとルルは操縦室に残される。



(……最初飛行船に乗る時は平気そうな顔をしてたけど、この高さを見たら一気にダメになったし、自分が高所恐怖症だって知らなかったんだろうなぁ……南無)



これからアイゼルは、約10日間この恐怖を味わわなければいけないし、何なら帰りの空路もあるので2週間以上はこの苦行が待っている事実にライアは涙を禁じ得なかった。







「ライア様!わたくし、この飛行船の中を見て回りたいですわ!」



「あ、はい。どこか見て見たい場所とかってありますか?」



「そうですわね~…何か洋服とかオシャレ関連の場所とかってあるのかしら?」



さすが可愛いに人生をかけるアイリス、飛行船という乗り物に対しても最初のアプローチがそっち関連だとは思わなかった。



「さすがにそう言った場所は無いですね……一応飛行船後方の最下部に地上を見渡せるテラスはありますけど、アイリス様が好きそうなオシャレ関連はないですね」



ライアの言葉にアイリスは「そうなのですか…残念ですわ」と心底残念そうに項垂れる。



「お嬢様お嬢様、聞いた話によればこの飛行船には“テナント”と呼ばれる貸出用のお店が用意されているらしく、将来的にはそこに色々なお店が出店されるらしいですよ?……それにそのテナントとやらは基本お金さえ払えばだれでも借りられるらしいと聞きましたが……」



「え?あ、そうですね…今は作ったばかりですし、一般の人を飛行船に乗せる予定も無かったのでまだテナントにお店は入って無いですけど、そのうち一般運用が始まればテナント貸出を始める予定ですよ?月に小金貨5枚とか高額になってしまいますけど…」



「買いましたわ!!!」



「え!?」



テナントが設けられている場所は広さこそあれど、未だ枠組みしかできておらず、見ごたえなど全くない状態なので案内の候補にも挙げる気が無かったライアに対し、何故かルルがテナントの存在を知っていたらしく、アイリスに対して何か含みを持たせるような言い方をする。



ライアも別に隠す事でもないし、話題に上がったテナントの貸し出し条件や料金の話を伝えれば、目を輝かせたアイリスがライアの目の前に迫って来て元気いっぱいに宣言する。




「わたくし、この飛行船でお洋服とお化粧関連のお店を出しますわ!そして飛行船に乗っている間ライア様のお洋服選びを充実させたいのですわ!!」



「さすがお嬢様!よっ!人に真似できない事を平然とやる脳足りん!!」



「おぉーほっほっほっほ!!!……ルル?脳足りんと言ったかしら?」



「はて?」





2人がコントを繰り広げている中、ライアは少しばかりに苦笑交じりにアイリスのテナント計画について思案する。




(う~ん…テナント事業の方は手付かずだし、参入してくる商会とかがどれくらいになるかわからなかったから月小金貨5枚前世で500万っていう高額設定にしたんだけど……このアイリス様の様子ならリネットさん達の言う通り、小金貨1枚とかにしなくてよかったのかな?)




実はこのテナント貸出料金に関してなのだが、当初ライアが考えていた値段設定は小金貨1枚で一か月貸出するつもりで考えていた。



普通考えれば月100万の物件など前世でも稀であったし、前世で実際に見た事は無いが六本木や銀座の一等地などを賃貸するとなればそれ位…もしくはそれ以上の値段かも知れない。



そう考えればこの世界で初の空の乗り物というブランド感で小金貨1枚でもいいかな?とライアは考えていたのだが、その事をリネットに伝えた際に『安すぎるのです!そんな安売りしたら貸出希望者が続出し過ぎて対応が面倒になるのですよ』とすぐさま却下された。



希望者が続出と言っても月で小金貨1枚と言われればそれほど集まらないだろうとライアは思って、モンドや商人代表のカルデルなどにも聞き込みを行ったのだが、全員が全員『安い、もっと値上げした方がいい』との返答であった。



で、リネットと色々相談をしつつ、どのくらいの値段設定が適切なのかと話合いをした結果、小金貨5枚という話で落ち着いたのだ。



まぁリネットは『金貨1枚でもいいと思うのですよ?』と言っていたが、さすがに賃貸であるテナント料金で1000万を貰うのはライアの心情的にきつかったので、小金貨5枚で落ち着いた形である。





「……貸出と言ってもまだ先の事になるとは思うので、その時に詳しい話をしましょうか」



「えぇ、お願いいたしますわ!」



「では今回はそのテナントとやらがどのような所なのかの見学をしに向かいましょう。お嬢様と私の未来の為に」



「未来の為に!ですわね!」




アイリスとルルは笑顔で拳を押し当て合い、まるで親友同士の「な?相棒!」みたいなシーンを見せつけられるライアは、2人の脳内でどのような服を着せ変えられているのか想像し、目から光が消えていくのだった。




(……テナント事業が始まったら、飛行船には出来るだけ乗らないようにしようかな……)










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