結婚ばなし
唐突なのだが、ライアとリネットの婚約に関係した話をしてみよう。
今現在、ライアとリネットの関係性を言い表すのであれば“婚約者で恋人関係”が恐らく一番当てはまると思う。
婚約者として国王に認められ、ライアとリネット両人が納得しており、お互いに少なからず好意を持ち合わせている。
ヒンメルの町では同じ屋敷で暮らし、同じ寝室で寝起きを共にしているし、何だったら恋人らしい行為もほんの少しだけだが行ったりしている。
恐らくそこで疑問に思われるのは同じ屋敷に住み、同衾までしていて、未だ
実はそれには一応理由があったりする。
別にお互いが正式に夫婦になりたくないと思っている訳では無いし、領地関連で結婚をする事が出来ないとかではない。
単純な話、この世界に
不思議だろう?きちんとこの世界には“結婚”という言葉は存在しているし、現にライア達が交わしている婚約者という契りは言ってしまえば【結“婚”を“約”束する】という意味なのだから、なぜこの世界に結婚式が無いのかと疑問が出る事だろう。
だがコレは理由がある。
前に、この世界に宗教的な物は殆ど存在しておらず、王都から離れた一部地域で僅かに存在するだけだと話したとは思う。
という事はこの国の大多数の人達に宗教の存在はマイナーな物であり、言ってしまえば神を奉る儀式などが存在しないのだ。
……そう、つまりは前世では神に誓いを立てる行事である結婚式はこの世界では存在自体無く、恋人達両人が夫婦に勝手になれば、その二人は結婚したことになる。
この話を聞いた時は『前世でも別に信心深かった訳じゃないけど、結婚式って宗教が無かったら存在しなかったんだ…』と驚いてしまった。
で、肝心の婚約者や恋人という関係から夫婦になる結婚をしたというタイミングなのだが……。
(……子供かぁ……)
ずばり、2人の間に
(前世の記憶がある俺からしたら、何とも言えない違和感はあるんだよね……言ってしまえばこの世界では“デキ婚夫婦”しかいないという事になるな……なにその爛れた世界…)
そうは言うが、実の所この世界の住人は比較的そこ等へんの認識はきちんとしているのか、本当の意味でのデキ婚……つまりは望まぬ妊娠や浮気、不倫と言った痴情のもつれ的な問題は殆ど存在しないらしい。
まぁこの世界は一応、一夫多妻も多夫多妻もなんでもOKの世界なので、浮気や不倫問題とかはあまり問題にはならないのかも知れないが……。
っと、少しばかり話がそれてしまったが、伝えたかったのはこの世界でいう結婚は子供が出来るかどうかという話なのだ。
なぜ、今になってこんなことを説明しているかと言えば…。
「何時頃2人の子供が見れるんだい?私としても急かすつもりはないが、飛行船のお披露目やその後の飛行船事業が進んで行けば今よりもっと忙しくなってしまう……そうなれば娘の負担も増えるからね。出来ればお披露目が終わって、次の飛行船事業が始まる前には孫を見たいのだが…」
「………はい…」
現在ライアは領主邸にて、プエリ達の訓練を見学しにでも行こうかなと廊下を歩いていたタイミングで、たまたま居合わせたアイゼルと談笑する事になって『そろそろ孫の顔が見て見たい』という話題になってしまった故だった。
「私としてはリネットには幸せになって欲しいと思っていたし、何なら結婚自体出来ずに錬金術一筋で暮らして行くのではと不安になった事もあったが、結果としてライア君といういい旦那様を得ることが出来て、私はそれだけで感無量な気持ちではあるのだ……だが、婚約をしてすでに2年以上も経って子供が出来ないとなると私も不安でね……リネットとうまく行っているのだろう?出来れば2人に似た可愛らしい子供が出来れば嬉しいのだが……あぁいや、別に容姿が優れているとか優れていないとかで愛情を変える気などさらさらないが、出来れば孫にも良い人と出会える人生を送って欲しいものだからね……ライア君はもし子供が生まれればどんな名前を――」
(なっがい……)
こう言った心配事なのか、孫を楽しみにする祖父的な期待感なのか、かれこれ廊下で30分程話されている。
こうも延々と子供の話をされれば、現実逃避としてこの世界の結婚話を説明しだすのもしょうがないと思って欲しい。
「えっと……アイゼル様?一応そう言った話はリネットさんともきちんと話してますし、時期をきちんと見ようとは話してるんですよ?……飛行船開発とかもあって忙しかったですし……」
「ふむ……やはり忙しいと考えづらい問題ではあるからな……」
アイゼルはライアの言葉に納得の表情を浮かべるが、何か考え事をしているのか、顎に手を当てて立ち尽くす。
「……よし!では今度のお披露目の後、国王陛下に献上予定だった飛行船を一旦保留にしてもらうように私から国王陛下に嘆願しておこう!そうすれば急いで飛行船をもう一船を造らなくても良くなるだろう!」
「え」
「うむ…国王陛下…というより、ライア君の忠誠心を示す為と余計な疑惑を持たれない為の献上話だったが、ライア君の帝国での情報収集やワイバーンの魔石の供給、それにダルダバの町への救援など功績はたんまり揃っているのだ。飛行船の献上を遅らせるくらい問題は無いであろう……幸いな事に飛行船を献上する話は国王陛下とその側近の一部の貴族にしか伝えてはいなかったし、反感を買う事もまず無いだろう」
「え、いや、国王陛下に反感買いませんそれ…?」
「よし、そうとなれば早速王城に連絡を出さねば!!」
どうやらライアの声はすでに聞こえない状態になっているらしく、アイゼルはまるでライアが見えなくなったかと錯覚するように、そそくさと何処かへと去って行く。
「……いやいやいや……子供が見たいから飛行船を渡すのを待ってくださいって、下手したら怒られない?大丈夫?」
ライアは何となく不安な気持ちになりながら、どうか国王がキレたりしないように願うばかりであった。
「……もし仮にOKが出たとしても……そんないきなり……子作りとか………」
――――こつん…
「ふえ…?」
ライアは未だ経験した事のない未知の領域に思いを馳せ、耳が真っ赤になるほど羞恥の感情に襲われていると、廊下の曲がり角から何やら物音が聞こえて、そちらを見れば、同じく耳まで真っ赤にして、こちらを見つめるリネットと目が合う。
「………」
「………あぁ……ボクはその……悪くはないと…?思うのですよ?」
「あ、ハイ……」
ライアにはそう返事を返す事しかできず、リネットの「そ、それではボクもアイリスとの約束があるので、行ってくるのです…」と立ち去る姿を見送る事しかできなかったのであった。
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