錬金術師としての目標












「別に錬金術師の大目標を決めなければならない決まりも無いのですし、自分なりの答えを出すまで無くてもいいのですよ?」



「はい……でも、出来れば俺も、リネットさんとモンドさんみたく、自分の目標を持ちたいなってどうしても思っちゃって……あはは、少し幼稚かも知れないですけど、リネットさん達と同じ目線に行きたいんですよね」



「ライア……」




今でこそライアとリネットは婚約者で恋人関係ではあるが、元々は師弟の関係だった故にライアにとってリネットはどうしても自分よりも上の存在として思えてしまう。



ライアはそれを恋人として近づきたいのか、錬金術師として成長した故に同じ立場で物事を見たいのかは定かではないが、リネットもライアの気持ちを何となく理解し、優しい顔でほほ笑む。





「……ボクは大事な人…当時はお父様やアイリス達家族と同じ時を過ごせなくなるのは嫌だと思ったのです」



「え?」



「錬金術師になって、知る事や学ぶ事の楽しさを知って、遠い未来の事象を観測できる不老不死の夢はそれは魅力的に感じたのです」




リネットはライアの思いに応えるべく、自身の昔感じていた心の内を語り始める。




「ボクの思いはどちらかを選べばどちらかを捨てる選択になるのです……夢を取れば家族達との時間が…家族の時間を優先すれば不老不死の夢が。……まぁ不老不死をそんな簡単に叶えられるものでもないのですが」




リネットはおどける様にそう言うと、ライアの目をしっかり見て来る。



「だからボクは自分自身の不老不死ではなく、不老不死の存在に近い魔道人間マギドールを造る事にしたのですよ!」




リネットの話は言うなれば、自分は家族との時間を大事にし、一緒に寿命で死ぬが、自分が造り出した不老不死の存在が未来の行く末を観測し続ける……それはリネットの相反する思いをどちらも捨てないようにするある意味暴論にも近い解決策。



だがリネットは錬金術に妥協する人ではない。それはわかっている故に、この魔道人間マギドールの夢がリネットにとって、全てを手に入れる為に考え抜かれた物だとライアは理解した。





「……なるほど……リネットさんはが欲しいんですね」



「もちろんなのです!…だからライアも自分の欲しい物をきちんと考えてみるのですよ」




リネットはライアの“同じ目線に立ちたい”という幼稚な思いを笑う事も無く、自身の夢の根源を教えてくれた。



であるならば、ライアはただの打算や惰性で目標を決めるのではなく、自分の思い……自分が欲する夢を叶える為の目標をきちんとたてるべきだと心に刻む。





「―――リネットさん、ありがとうございます」



「決まったのです?」




ライアの晴れやかな表情を見て、リネットは笑顔のままそう質問を投げかける。





「俺が掲げるのは……“皆が不老不死”!これですね!」




―――ガクッ…



ライアの皆が不老不死…それは人の意思を無視した自分勝手な考え故に、リネットは思わずコントばりに椅子の上から落ちそうになる。



「えぇ…ライア、それは色々と…」



「あははは!すいません…さすがに言い過ぎました…正確に言うのなら【自分の手の届く範囲の人達の健康状態をよくして、出来るだけ長生きしてもらう】って事ですかね?」




「……それって」




そう、ライアの語った内容は、言ってしまえばリネットの夢の補助の様な考え。



リネットは家族と同じ時を生きつつ、家族も自分もほんの少し長生きすれば部分的にはリネットの夢を叶えたと言っても過言ではない。



「すみません、俺自身、リネットさんの夢の話を聞いて、めちゃくちゃいいなって思っちゃいまして…俺もリネットさんや他の大事な人達と出来るだけ長い時間を一緒に居たいなって思いました」



「……それは……ちょっとずるいのです……」



「えへへ…」



ライアがおどける様に笑みを溢しつつ、リネットの方へ視線を向ければ、照れたようにそっぽを向かれる。



「でも、健康状態って題目で錬金術の指標を決めれるのです?ある意味医療の分野だと思うのですけど?」



「ん~まぁそこら辺は色々と考えますし、何となくですけど実験内容とかは考えれているので大丈夫だと思います」




ライアの脳裏に、前世での記憶がめぐり、健康食品や消毒、病気に対しての対処法やサプリなどと言った如何にかすれば、この世界でも錬金術を使って再現できそうな物を思い浮かべる。




「何か考えがあるのなら構わないのです……なんだかライアにはボク達の考えの及ばない発想が出て来る事があるので、簡単にその目標を叶えられそうなのですよ」



「え!?いやいや、そんな事は~……あはは…ゴク…」



一瞬、リネットの言葉に、飛行船の時やワイバーンの【重力】の特殊属性の知識の事が怪しまれている!?と焦るが、リネットにどうやらその意識はなさそうだ。



ライアは怪しまれていない事にホッとしながら返事を返しつつ、テーブルに残った冷めた紅茶を飲みきってしまう。




「……どうするです?まだモンドは戻って来てないですけど、実験室に戻って実験の続きをするです?」



「あ~…そうですね……もしリネットさんが良かったら、もう少しお茶してませんか?」



モンドが戻っていない時に実験を進めれば、後程モンドに怒られるかもしれないし、リネットのティーカップにはまだ紅茶が残っていて、ライアが紅茶を飲みきった事による気遣いでそう提案してくれたのが理解できたので、あえてリネットにお茶会の続行を提案してみる。



「ふふ……ならもう少しゆったりするのですよ。ユイ」



「はい…ライア様、紅茶のおかわりをどうぞ」





どうやらライアの考えは合っていたようで、リネットが嬉しそうに笑みを溢しながらユイにライアのお茶の催促をしてくれて、お茶会はもうしばらく続いたのであった。









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