錬金術びより









ヒンメルの町からリールトンの街に来てから約1ヵ月、ダルダバの町への救援などと言った事件があったが、基本的にはリネットの工房で錬金術の研究をしたり、街の知り合い達に挨拶しに行ったり、アイリス達にお着替え人形にされたりと、平凡な日々を過ごしていた。



今日も、アイリスの誘いを華麗にさばきつつ、リネットの工房にやってきている。




「……どうです?」



「おぉ?おぉぉぉ……おお?」



「ん~何度見ても非人道過ぎる見た目をしてるね」





工房の実験室で、ライアの背中に両手を押し当て、何やら感触を確かめながら実験を行っているリネット。



その様子を横から実験の様子をメモしているモンドがチャチャを入れる。




「あ、あぁぁぁ……ダメそうかm―――」



「おぉっと!?……あぁ…また失敗したのです…」




リネットが何かしたのか、ライアの姿が一瞬ブレるように身体の形が歪むと、分身体が消失する時と同じように、空気に溶け込んでいくようにライアが消えていく。



今行っている実験は、飛行船開発であまり時間を取れていなかった【改造人間ホムンクルス】の実験を行っていた。



開拓が始まる前と開拓が始まってすぐの頃に色々と調べれることなどを調べたりしていたのだが、如何せん、飛行船開発というビッグイベントがあった所為?であまり時間を取って研究が出来ていなかった。



なので、十分な研究施設であるリネットの工房に来ていて、他に急いでやらなければいけない事も無いという事で、今日は改造人間ホムンクルスについて実験しようという事になった。



ちなみに、今行っている実験はライア以外の錬金術師が分身体にどれくらいの改変が起こせるかの耐久実験である。



「ふむぅ……さすがに小腸、大腸、すい臓、腎臓、胃、肺を全て一つの内臓で併用させるのは不可能だったのです」



「俺の身体でなんちゅう事を……どうりで、じわじわと身体の動きが悪くなっていく感覚があったと思いましたよ……」



「それを『おぉぉ…おぉぉ?』と不思議そうな唸り声をあげるだけで済ますライア君にも脱帽だけれどね」




モンドのツッコミに「まぁもう慣れましたし…自分でも似たような実験をしましたから」と事も無げにそう言う。




「というか、この実験の趣旨わかってます?≪錬金術≫での肉体改変による耐久実験ですよ?内臓を無くせば人間誰だって死にますって」



「それはわかっているのですけど、つい人間の内臓関連を錬金術で再現出来たりしないかなぁ?と考えてしまうのですよ…もし人体の殆どを魔道具で置換する事が出来れば、魔道具……いえ、魔道人間マギドールとも言えるボクの長年の夢が叶うのです!!」



「錬金術で生み出す造り者の命……だね」




魔道人間マギドール……前世の知識から言うなれば、アンドロイド。それも自立思考の機械仕掛けの機械人間。



前にモンドに錬金術師の目標は“不老不死”だと教わったが、実はリネットのこの魔道人間マギドールを作るという夢も大元は不老不死が起源であったりする。




モンドの夢は不老不死に届かないまでも、毒や薬を用いた人体改変で長寿の身体を手に入れる事。



そして、リネットの魔道人間マギドールは言うなれば、事。



簡単な話、リネットは自分が寿命で死んだ後も長い時を生き続ける存在を作るのが研究目標らしい。



この目標を知ったのは、モンドに錬金術師達の目標を教えてもらい、ヒンメルの町に開拓しに行く前には聞いていたのでライアには驚きはない。




「だとしても今は耐久実験の方を優先してください?別に分身体はいつでも貸せるんですから」



「ごめんですよ!今度はきちんとやるのですよ!」




リネットはふんす!とやる気溢れる返事を返し、ライアは軽くため息を漏らしながら新たな分身体を作り出すのであった。











――――――――――

――――――――

――――――









「う~ん……俺も何か目標とか作った方がいいかな?」



「はい?さっきのボクが言ってた魔道人間マギドールとかの話なのです?」




数刻後、ライアの分身体での耐久実験が終わった後、休憩がてらいつものお茶会を開いていた。



モンドは少し買い物をしたいと冒険者ギルドへ向かって此処には居ないので、リネットとライア、それからメイドのユイが工房内の休憩スペースにて談笑をしていた。



「錬金術師達は基本不老不死に関連した目標を掲げてるんですよね?だとしたら俺も何か考えた方がいいのかなぁと思って」



ライアにとって錬金術とは数あるスキルの一つで、当初は覚えるスキルを増やす一環で何となく学び始めた物。



錬金術師とは本来、貴族が主に学院で学業を学び、知識を蓄えたうえでなる物……もしくは、スキルを授かり、錬金術師に師事を仰いで自分から錬金術師への道を歩むのが普通。



なので、言ってしまえば普通の錬金術師達が【錬金術師というプロの世界に進んだ職人】であるのに対し、前までのライアは【出来ちゃうからやってる程度のアマ】みたいなもの。



実際にはそんな舐め腐った気持ちで錬金術に取り組んでいる訳では無いが、少なくとも意識の高さに関しては他所の錬金術師達には負けるとライアは思っている。



だが、それも先日の小瓶の件で、ライアも自分は立派な錬金術師なのだと吹っ切れていた。



【自分は程度の低い他所の錬金物を見て、正常に評価を下し、怒れるくらいには錬金術師になっている】



ライアはもう自分が“軽い気持ちで錬金術をしてるんじゃないんだ”と確信を持てたのだ。




そんな気持ちもあり、「ならば錬金術師として大事な目標とやらもきちんと考えてみたいな」と思ったのがこの話題の肝である。




「ん~確かに、ライアも大きな目標とかがあった方が実験の指標とか目的がはっきりするのでお勧めなのですけど……ライアはどんな目標を掲げたいとかあるのです?」



「特にこれと言った物は無いんですよね。強いて言うなら帝国に『自分達の錬金術は幼稚でした』と土下座させる事でしょうか?」



「それはボクも同じなのですけど、それを己の大目標に掲げるのは小さすぎるのですよ」




2人で「そうですよね~」と頷き合っている後ろでユイが「えぇ…」と驚愕の表情を浮かべていた気もするが、ライア達は気が付く事はなかった。












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