錬金術師のプライド









――――――ライアSide







「おかえりーライアねぇちゃん!怪我とかしなかった?」



「ただいまぁプエリちゃん。大丈夫だよ?基本は分身体達に任せてるし、問題は無かったよ」




ダルダバの町から飛行船にて出発して早10時間程、リールトンの街に到着する頃にはすでに日は登っていた。



飛行船をリールトンの街の傍にある平地に着陸させた後、襲撃犯である帝国の者達を騎士達に詰所に引き渡しに行ってもらい、ライア自身はグロッキー状態のシェリアを連れて、先にリールトン伯爵の領主邸に戻って来た。




シェリアはライアの忠告を聞かずにダルダバの町でしこたまアルコール類を飲みまくり、泥酔状態で飛行船という乗り物に10時間も乗っている事が出来なかったようで、飛行船に乗り始めてほんの1時間くらい経ってからずっと、客室のトイレとお友達になっていたのだ。



おかげでシェリアはライアの背中でうわごとのように「揺れ…揺れ……いやぁぁぁ…」と珍しく女性らしい口調で弱音を吐いている。



とまぁそんな酔っ払いの自業自得は放っておくとして、領主邸に到着した際に一番にライア達を出迎えてくれたのは、朝の鍛錬をしていたらしいプエリちゃんとパテル親子だった。




「プエリちゃんは今日も訓練場?」



「うん!騎士さん達にいつでも使っていいよって言われてるから、お父さんと一緒に訓練してるの!!」



実はプエリがここに来てから、スキルの訓練や剣術の修行の為に毎日騎士達が訓練に使っている訓練場なる場所に赴いてのだ。



騎士達の訓練の邪魔になるのではないか?と最初は心配もしたのだが、アイゼルの厚意で騎士達と一緒に訓練を受けさせてもらっている。




前にライアが分身体で同行させてもらった時は、数人の新人騎士達相手に大立ち回りを繰り広げていたので、少なくとも訓練の邪魔?にはなってはいないようだ。




「……ライアが戻って来たという事は、騎士達も訓練場に戻ってくるのか…?」



「あぁ…訓練場に戻るとかはわからないですけど、恐らく昼前くらいにはこっちに戻ってくると思いますよ?」




ライアは、襲撃犯達の受け渡し作業をしているであろう騎士達が、お昼頃までに仕事を終わらせてから帰ってくるよと2人に伝える。




「おぉ!なら早く訓練場に行って、わたしの訓練の成果を見せつけなきゃ!!」



「……ふ、そうだな…」




「それじゃライアねぇちゃん!また後でね!」とプエリとパテルは手を振りながら訓練場へ向かって行く。



(……自分の努力を見せたいって思えるほど、騎士の人達と仲良くなったのかな?……もしかして、騎士達の中に特に仲のいい人でもできた……?いやいや、さすがに……ないない…)



ふと、元気に訓練場へと去って行くプエリの表情を見て、何か脳裏に変な考えがよぎるが、さすがに早すぎると自分の思考を振り払うように首を振る。




「……プエリちゃんに余計な虫なんて、パテルが付いてるんだから出来る訳ないし……プエリちゃんはまだ7歳だぞ?考えすぎ考えすぎ…」




ライアは何か、身体の周りに黒いもやの様なもの漂わせているような雰囲気を醸し出しながら、ブツブツと独り言を溢しつつ、領主邸の中に入って行く。















領主邸に到着したライアは、ダウン中のシェリアをひとまず客間で休憩させておき、アイゼルやセラ達へ帰還した事を伝えた後、リネットとモンドに小瓶の件を話し合う為、2人をライアの使っている客室へ呼び出す。




「ほほぉ……竜種の血液と複数種類の魔物の魔石……それであの巨人の化け物になる為の薬が出来ると…」



「ギガントとフドム以外の魔物は不明……ライアがわからないというのなら十中八九、帝国でしか見られない魔物の魔石なのですよ」



「少なくとも、巨人の化け物には恐ろしいほどの自己回復能力があった点から、再生か治癒に関係した魔物の魔石が使われている事は確かですね」




部屋に呼び出した2人は、ライアの調べた小瓶の詳細を聞いて、その代物がどのように作られたのかを考察し始める。



「内容物は効果を調べる際に分身体に飲ませたのでもう無いですけど、これがその小瓶です」



分身体が巨人になった際に、カラになった小瓶を回収していたので、それも一緒にリネットとモンドに見せておく。



「これは、想像以上に小さい……内容物自体も精々30ml……いや、20mlくらいしか入らないか?」



「……この小瓶の内壁部分に液が残ってたりしないのです?」



「さすがに残っていても、調べるには分量が足りませんし、目に残っているように見えない物を調べるのは不可能かと……ってリネットさん?小瓶に指をツッコもうとしないでくださいね?素手で触って害が無いとは限らないんですから」




恐らく、少量だけであれば指についても問題は無いだろうと、知識欲が暴走したリネットが小瓶に指を近づけさせていたが、さすがに安全性が確認出来ない行動は止めざるを得ない。




「どの道、こんな飲めば人として終わる劇物を作成する訳にもいかないんですから、どのような技術が使われているかだけ調べて、我々の糧にしてやりましょう!」



ライアは、リネットの手に取られていた小瓶を急いで回収しつつ、2人を説得するかのように真剣な顔でそう話す。



「ふむ?確かにこの国では再現できない理由は多いし、私も自分が化け物になるような代物を好き好んで作ろうとは思わないが……ライア君には珍しく、熱くなっているね?」



「そうなのです…ライアが錬金術で研究熱心になってくれるのは個人的に嬉しい事ですけど、何かあったのです?」



リネット達から見たライアは、錬金術の実験や研究に真面目に取り組むし、楽しんでやっている印象はあるのだが、どこかリネット達と違い、一歩下がった場所からリネット達の実験などに参加する。と言った印象が強かった。



それというのも、元々のライア自身が【リネットの弟子兼助手】という形から、何となくで錬金術師の世界に入った所もあったので、錬金術師として成熟して来た今でも、無意識化で実験の助手的な思考になっているからだったりする。



そんなライアが、リネットとモンドに対し、帝国で作られた小瓶の技術を調べ上げてしまおう!と熱く語りかけているのだ。何かあったのかと気になるのもしょうがない。





「あぁ……実は…この小瓶を持っていた捕虜が言ってたらしいんですけど、この劇物が『人知を超える錬金術の秘宝』とか言われてるらしいんですよ」



「「あ”?」」




ライアの目にハイライトが消え、声に感情が乗っていない状態になったかと思えば、ライアの口から伝えられた言葉にリネットとモンドの表情にも暗い影が落ちる。




「“人知を超える”?たかが竜種の血液という入手が困難な物と魔物の魔石を混ぜた程度の作品を?」



「“錬金術の秘宝”???この人間をダメにして、ただ暴れる失敗作を生み出すゴミを…錬金術の秘宝と言うのです???」




「「舐め腐ってる(のですよ)」」




実はライアがこの小瓶をシェリアから受け取った時、捕虜からそう伝えられて『この小瓶が秘宝…?それはいったい!?』とかなり興奮気味に期待していたのだが、蓋を開けてみればただの化け物製造薬。



小瓶の中身を調べるのに半日以上かかったと言ったが、アレも実は『錬金術の秘宝と言うだけの物なんだから、2年前のあの巨人とは関係ないよな…?無いと言ってくれよ?』と執拗に何度も確認作業を繰り返した為だったりする。




そんな訳で、ライアはこの小瓶が“人知を超える錬金術の秘宝”と称されている事に錬金術師として無性に腹が立ち、これに使われている技術を会得し、それ以上の作品を生み出す事によって『錬金術の秘宝?…あぁあの程度の低い粗悪品?あれよりこっちの方がまだまともだと思うけど?』と言ってやりたい衝動に駆られている訳なのだ。




もちろん、ライアのその苛立ちはリネットとモンドにも正しく伝わったようで、3人で目を合わせて「うん」と頷く。




「「「帝国の度肝を抜かす物を作る(のです)!!」」」




3人は【飛行船】という、すでに帝国の度肝を抜かせる存在を忘れて、自分達に気合を入れるのだった。










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