さらばダルダバ。











―――――リールトンの街(ライアSide)





「―――が帝国で使われているようで、今回の襲撃も戦争を見越しての上で行なわれたもののようです」



「ふむ……些か強引な手段に思えるが、ライア君の飛行船が出来ていなければ高確率でダルダバの町は占領されていた事を考えると、馬鹿には出来んな」



ダルダバの町の襲撃事件から一夜が明け、捕虜から聞き出した情報や小瓶の研究結果をアイゼルに報告しに来ていた。



「……しかし、人の身体に魔物の魔石や血を取りこむ事で驚異的な力を得る劇物……それを分身体とはいえ自分の身体で実験するなどやめて欲しいのだがね?」



「あははは……」




ライアは結局、あの小瓶の効果を確かめる為にダルダバの町から離れた森で色々と確認作業をしてたら、結構時間が取られてしまい、とっくにお昼を過ぎてしまってからの報告になってしまった。



詳細はすでにアイゼルにも伝えたのだが、見事分身体のライアは2年前に見た巨人の化け物になってしまったし、ある程度、巨人の化け物になった際の強化率や精神の変化などは観察出来たので、いい実験だったと言えるだろう。




ただ、分身体なので命に別状はないとはいえ、自分の身体が化け物になる経験をしているのは間違いない訳で、その事にアイゼルはいい顔をせず、ライアを責めるような目線を向けて来る。



「はぁ……君にはリネットと幸せになって欲しいと一人の父親として願っているんだ……頼むから娘を悲しませるような事態にはならないでくれ?」



「はい……」



ライアは心の中で、その娘さんも恐らく似たような条件であれば同じことをしていると思いますよ!と言った考えが浮かぶが、火に油を注ぐ意味も無いので素直に反省をする。




「うむ。それで?ダルダバの町の被害は少ないのだろ?こちらにはどれくらいで戻れそうかな」



「あ、はい。一応今日の夜には町を出発して、明日の朝にリールトンの街に着くようにしようかと」




飛行船での移動は片道10時間と考えれば、大体夜8時位に出発すれば朝方の6時頃にリールトンの街に到着する。



朝6時頃であれば町の人達も起き出している時間だし、飛行船に乗せた襲撃犯達の引き渡しにも丁度いいという考えだ。




「そうか、気を付けて帰って来なさい」



「はい!」









―――――――――――

――――――――

―――――









―――再びダルダバの町(ライアSide)





「夜中に出発をされるのですか?」



「えぇ、あまり捕虜達を飛行船の中で捕え続けるのも食料的問題で厳しいですし、向こうに待たせてある人達もおりますから」



アイゼルへの報告を済ませたライアは、今日の夜中にダルダバの町を出立する話をダルダバ子爵へ伝えに来ていた。



シェリアや捕虜達の監視をしてくれている騎士達にはすでに別の分身体が連絡しに行って、了承も取れているので、事後承諾になる事もない。




「そうですか……ではせめて今夜は町の皆で感謝の宴を開くので、そちらに参加はしてくださいますか?」



「え、それは大丈夫ですが……襲撃があったというのに私達の為に宴など開いてくれていいのですか?」



「はい。襲撃と言えど、実質的な被害は兵士達の怪我くらいですし、町の食料なんかは問題ありません……寧ろ、町を救ってくれた人達にその程度の事も出来なければ私が町の人達にドヤされてしまいます」



ライアの心配にダルダバ子爵はおどけるようにそう返事をする。


そんなダルダバ子爵の優しさにライアは笑みを溢しながら「ふふ…すいません、お世話になります」と返事を返せば「それでは皆さんにご満足いただけるご馳走を用意しておきます」とお互いに笑い合うのであった。
















「我らがダルダバの町を救ってくれた方々に…かんぱ~い!!」



「「「「乾杯~!」」」」




時刻は夕方、ダルダバ子爵の提案通りに町の人達総出で急遽宴の準備をしてくれたようで、ダルダバ子爵の屋敷の前にある広場にてライア含む救援隊の皆と街の住人の殆どが集まっていた。



さすがに怪我をして、安静にしなければいけない者達は不参加を言い渡されたようで、破壊された大橋まで無理に出歩いた隊長兵士さんや他の兵士達もここには居ない。



さすがにこの町を、救援隊が駆け付けるまで必死に守り抜いた彼らが可哀想とも思ったのだが、彼ら自身が『俺達はいいからあの方達をおもてなししてくれ』と言っているらしい。



(……まぁ宴の豪勢な食事は医療所に運ばれてるらしいし、あまり気にしないで俺も楽しもうかな)




「んぐ……んぐ……ぷはぁぁ!!うまいッ!」



「おぉ!イケる口だね!こっちの酒もどうだ?」



「はっはっは!どんどん酒を持ってこぉい!」



宴という事で、出店の様な物も沢山出ていて、お酒やリールトンの街ではあまり見た事のない野生動物を丸焼きにした様な食べ物まで色々とあり、シェリアはそれらをつまみに色んな種類のお酒を飲みながら、町の住人達と打ち解けていた。




「…ってギルド長?一応この後飛行船でリールトンの街に帰るんですから、あまり飲みすぎないようにした方がいいですよ?」



「あぁぁん?もう帰るだけなら飲み過ぎも何もねぇだろ?オレぁでろでろに酔うまで飲むのをやめねぇぞぉぉぉ!」



「「「「いえぇぇぇい!!!」」」」



町の酔っ払いたちと一緒に大騒ぎしているシェリアを横目に、ライアは呆れつつ、手に持ったジビエ料理に舌鼓を打つのであった。











宴が始まり、お腹いっぱいになるまでご馳走を堪能したライア達は、そろそろリールトンの街へ出立する為に、宴で余った少しばかりの食料を貰って飛行船に乗り込む。




「この度は本当に助かりました……またこの町に来られた際は目一杯歓迎させてもらいますよ」



「気にしないでください……って昨日から何度も言ってるじゃないですか。感謝に関してはもう宴を開いてもらったので十分です……十分すぎて約一名はこの世の楽園にいるかの如く幸せそうな顔をして寝てますし……」



飛行船の乗り込み口の手前で、見送りに来たダルダバ子爵にお別れを言いつつ、背中に背負った泥酔したシェリアに目線を送り、呆れたようなため息を漏らす。



「ぐがぁぁ……ぐがぁぁ……すピー…」



「あははは。アンデルセン殿にはお酒を用意して歓迎した方が良さそうですな」



「やめてください…本気で常駐するようになったら困ります…」




ライアの心底心配するような顔をみて、お酒もほどほどの方が良いかな?と考えを改めたダルダバ子爵だった。




「……また、何かあれば呼んでください。飛行船事業はこれからも進めて行きますし、何かあればリールトンの街から救援が必ず来ますから」



「それはありがたい……しかし、救援だけを期待しているのもこの地を任された貴族として情けないからね。出来るだけの事は自分達でどうにかして見せるよ。インクリース殿もリールトン伯爵殿によろしく伝えてくれると嬉しい」



「はい」




ダルダバ子爵との別れを済ませたライアは、背中にお酒臭い酔っ払いを背負いつつ、飛行船に乗り込んで、リールトンの街へと出発するのであった。






ちなみに、揺れは少ないとは言え、風の影響で僅かばかり揺れる船体に船酔いしたシェリアはリールトンの街に着くまでの間、自室のトイレから離れる事は出来なかったらしいが、ライアは一応お酒を飲む事を止めていたので、自業自得であろう。





「お”え”ぇぇぇ……ぁッ…揺れん…ナぁ……ウップ……オロロロロロロロロ……」








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