怪しげな小瓶












「ん?ライアか、ちょうど良かった」



「ギルド長?尋問が終わったんですか?




ダルダバの町に帰ると、ちょうど尋問が終わったのか、ダルダバ子爵の屋敷に向かうシェリアと鉢合わせる。




「あぁ、きちんと帝国民である裏は取れたし、オレ達の予想通り、ダルダバの町を襲撃したのは戦争への布石ってのは合ってたみたいだ」



「なるほど……早速リールトンの街にいる分身体にアイゼル様へ報告させますね」



シェリアはたった今尋問を終わらせたばかりでまだ連絡は出来ていないだろうし、報告する際はライアの分身体を経由した方が状況をリアルに伝えれるからと元々の連絡係はライアに命名されている。



現に、ダルダバの町に到着した際と敵との戦闘が終わった際の報告はライアがすでに済ませている。



早速ライアは、アイゼルの元へ分身体を向かわせて帝国兵の情報を報告しに行こうとすると、シェリアからストップの声が掛かる。




「いや、報告をしちまう前にライアに少しだけ調べて欲しいもんがあんだよ」



「調べて欲しい物?」



「捕虜の中に1人だけ上官と言える立場の奴がいたんだが、そいつの持ち物検査の際にこの小瓶を飲もうとしたのを取り上げたんだ……最初は情報を吐きたくなくて毒による自殺をしようとしたのかと思ったが、どうやら違うっぽくてな。この小瓶の中身を調べて欲しいんだよ」



「小瓶ですか……うえ、なんとも毒々しい色合い…」




シェリアに手渡された小瓶を自分の目線の高さまで持ち上げ、内容物を目視で確認するライア。



小瓶の中身は基本的にどす黒いとも言える血の様な色の液体の中に、僅かながら固形物が沈んでいるのか、外見的には経口摂取していい物には決して見えない。



「どうもこれを持っていた上官はこれを“人知を超える錬金術の秘宝”だか何だかと訳の分からん解釈で考えてるみたいでよ?それ以上の情報はよく知らないらしいんだよ」



「えぇ…その人もしかして何か可笑しい団体に所属でもしてるんですか…?」



「さぁ?……だが、錬金術の秘宝って言う位だから錬金術に関係したもんなのは確かだろう?これを飲んで何が起こるかは知らねぇが、これを持っていた奴は一か八かでこれを飲もうと必死になってた……つまり、捕虜になっている現状を打破できる要素がその小瓶には隠されてるって事だからな。それをライアには調べて欲しいんだよ」




言われてみれば、情報を話さないように自殺する為ではないのであれば、この小瓶を飲むことで助かる見込みがあったという事になりそうだし、アイゼルに報告するのはこの小瓶の中身の詳細が分かった後でも良いかとライアも納得する。



ライアはシェリアと別れ、この小瓶の中身を調べる為に一旦町の外に着陸させている飛行船の方へ足を運ばせる。




シェリアの話では、他にこの小瓶を持っている者がいれば厄介になりそうだと思い、念の為に捕虜になっている敵全員の持ち物検査を実施したらしいのだが、他の誰も持ってはいなかったそうだ。




(う~ん…毒でも未知の物体でも成分分析をする際はサンプル自体が多い方が良いけど……)



ライアは小瓶を持ちながら、この貴重な一個のサンプルをどのように調べようと頭を悩ませる。



(中身を小分けにして動物や魔物、植物に与えての実験はサンプル不足で出来ない……分身体に飲ませて確認するのが一番確かかもだけど、さすがに一回きりの実験で最終手段を取るのは現実的じゃないしね……ひとまず、錬金術で作られた物みたいだし込められている魔力やイメージ、素材なんかを出来るだけ調べてみて、それでもわからなかったら分身体に飲ませてみようかな…)



ライアは時間が掛かりそうだなぁと苦笑いを浮かべながら飛行船の自室に急ぐのであった。






――――――――――

――――――――

――――――








「……これって……もしかしてそういう事か…?」




……ライアが飛行船の中で小瓶の中身を調べ始めてから半日が経ち、翌日のお昼を回った頃、やっと小瓶の中身についての調査が一段落する。




「内容物は主に魔物……主に恐らくの血液……他には恐らくギガント巨人の魔物の魔石やフドム毒の魔物の魔石、後は本でも乗ってないか俺が知らない魔物の魔石が数種類、粉末状にまで細かくされて混ぜられてる」



ギガントやフドムと言った魔物はこの王国でも存在が発見されている魔物で、2体とも特殊属性で【巨大化属性】と毒や薬の進行を早める【促進属性】と中々に珍しい属性持ちである。



まぁそのおかげでこの小瓶の中身にその2体の魔物の魔石が使われている事が分かったのだが、それ以外の魔石反応に関してはライアが知らない物ばかりで、魔物の見当もつかなかった。



恐らくだが、この魔石は帝国側でしか発見されていない魔物の魔石を使った物だと予想すれば、ライアの知識の大元である王国の図書館の魔物図鑑に載っていないのも納得できる。




そして一番重要なのが、この小瓶の中身が殆ど竜種の血液だという事。



竜種と言えばライアにとって思い出深い物であるし、帝国が所持している竜種の血液の出所にも些か心当たりがある。




「……火竜討伐作戦……あの時の火竜は恐らく、巣から消えた自分の子供を探して暴れていた。てっきりダンジョンの中に入ってしまって小さい小竜が餓死か何かで死んだのかと思ってたけど………帝国が一枚嚙んでいたって事か」





ここに来て、些か色々と謎が残っていたあの火竜事件の真相が見えてきた。



3年前の火竜討伐戦……いや、正確に記載をするのであれば、その数か月前に帝国の者達が火竜の巣へ赴き、親である火竜の目を盗んで子供を連れ去ってしまい、火竜の怒りがこちら側に飛び火して来たのであろう。




元火竜の山であるヒンメルの町から帝国へはかなりの距離があり、仮に火竜が怒り狂っても自国にまでは影響はないと計算しての犯行だったのかも知れない。



まぁその計算の中に、もしかすればリールトンの街を襲わせる考えもあったのかも知れないが、タラればの話は現状無駄だろう。






そして火竜の子供を手に入れた帝国は、竜種の血液を採取し、この小瓶を作り上げたのであろう。






「何とも胸糞悪くなる話だね……火竜を討伐したのが悪い事をした気になっちゃうよ」





そして、この小瓶の効果だが、結局半日調べてみても完全に理解は出来ず、やはり自分の分身体を使って調べる方法しか正確にわかる方法は無いのだと結論付けた。





「……まぁギガントの魔石がある時点で、何となく予想は出来てるけど……」





ライアの考えでは、恐らく2年前に起きたフェンベルト子爵事件王国への反逆の時に現れた黒い肌の巨人の正体が、この小瓶を摂取した人間なのだろうと予想を立てていた。




「……町からだいぶ離れた所で調べよ…あと分身体を消す事になるから経験値を一切蓄えてない新品の分身体にやらせないとね!!」




黒い肌の巨人の化け物になるというのに、お気楽にそう言って実験に向かおうとするライアは、やはり実験中毒である錬金術師の道を順調に進んでいるであろう事は誰の目に見られても間違いないだろう。












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