盗賊達の痕跡










「いやぁ本当に助かりました!一時期はもう駄目かと…」



「我々も無事に救援が間に合ってよかったです」




敵の捕縛作業を完了させた後、近くに着陸させた飛行船から騎士達に捕虜たちの事を任せ、ライアとシェリアはダルダバ子爵の屋敷へ挨拶に来ていた。



ちなみに、ライアが1人で盗賊団を殲滅した事に関してはキルズ達騎士一同から文句などは無かったが『仮に分身体とはいえ、1人で無理などはしないでください』と心配の声をかけられたくらいで、本格的に叱られたりなどはしなかった。



恐らくだが、リールトンの街にて子供達やリネット達の護衛の名目として残してきたパテルがこの場に居れば、この程度の注意だけでは終わらなかっただろうが、結果的に皆無事に済んだので良しとしよう。






「……しかし、大橋が壊されている状況でまさか空を飛ぶ船で救援に来られるとは…」



ダルダバ子爵は屋敷に備え付けられている窓から町の外に停泊している巨大な飛行船を見て感心するように声を漏らす。



「あれは通称で飛行船と呼ばれる物で、私の領地であるヒンメルの町にて開発された物なんです」



「飛行船……」



「リールトンの街からこのダルダバの町まで約10時間……世の中の常識が覆るしろもんをよくもまぁ作り上げたもんだよ」




シェリアの言葉に思わずライアが「えへへ…そんな事ないですよ」と照れながら謙遜する。




「まぁそっちの話はおいて置いて……後処理についての話し合いに移るとしようか」




「あ、はい」



「後処理…ですか?」




つい、戦闘に勝った高揚感と飛行船の話題で和やかな雰囲気になっていたが、ライア達の仕事はまだ終わっていない。



正確に言えばライアと騎士達のメインでの依頼である町の救援自体は完了しているのだが、まだやらなきゃいけない事がある。




「ダルダバ子爵……今回この町を襲撃して来た者達は恐らく、帝国の者達である可能性が高い」



「て、帝国ですと!?」




ダルダバ子爵はまるで予想外と言わんばかりのリアクションを取り、シェリアに向けていた視線を一旦ライアに向けて“それは事実なのか?”と疑問の目を向けて来る。



ライアはその視線に静かに頷いて肯定をする。




「……盗賊団が帝国の手の者だった?…確かに盗賊にしては可笑しい所がいくつもありはしたが……だが仮に帝国の者なのだとしたら、なぜこのような辺鄙な町を襲撃して来たのですかな?」




「これはあくまで仮定の話だが…」




シェリアとライアは、今回の襲撃による帝国のメリットや2年前に帝国がすでに王国に対してちょっかいを出していた事などを細かく説明していく。




「……なので、今回の件は帝国がこのアンファング王国を攻め入る時の為の布石で襲撃を仕掛けた可能性がとても高いんです」



「それをオレが今から捕虜にした敵さん達に尋問をかけて情報を抜き出す為に来たって訳だな」



「……なるほど……噂程度に一部の貴族が反乱を企てていた程度の話は聞いておりましたが、そのような事が起きてるとは……、わかりました。捕虜の扱いはそちらに一任します!……と言っても我が町では100名以上の捕虜をどうにか出来るほど地力は無いので、インクリース殿とアンデルセン殿に頼り切りではありますが…」



「気にしないでください!私達は元々その為に来ていますし、襲撃されたのはダルダバ子爵の領地にも関わらず捕虜の扱いを一任してくれるだけでもありがたいです」



「そう言ってくれるとこちらもありがたい」




話が終わると、早速シェリアが捕虜の所へ尋問に向かうらしいので、ライアも町の様子見を兼ねて、何か帝国に繋がる証拠品でもないかと町の外へと分身体達を捜索させに行くのだった。











―――――――――――

―――――――――

―――――――












「ん~……特に何もないかなぁ?」



ダルダバの町を出て、周辺の森や破壊された大橋などに何か手がかり的な物が無いかを探しに来てみたが、そう簡単に何かが見つかるという事は無かった。




「てっきり町を制圧した後に使う物資なんかを保管する隠れ家的な物があるのかと思ってたけど……見当たらないなぁ…」



ダルダバの町周辺の森や山岳地帯に分身体5人を散開させ、広範囲を索敵させている。



これだけ探しても敵の拠点を見つけられないとなると、どうやら相手側は本当に着の身着のままで襲撃を仕掛けて来たらしい。



「……食料は町で略奪…武器や矢なんかは自前で大量に持ってきて、帝国への連絡なんかは……ステータスカード?」



なんとも準備不足に思えるが、ライアの飛行船が存在しなければダルダバの町は恐らく制圧され、帝国の襲撃作戦は成功していた事を考えれば、あながち準備不足では無いのかな?と感じる。




「……ん?」



大橋の所で立ち止まっていると、ダルダバの町方面から誰かが近づいて来る気配を察知する。




「……隊長さん?」




「あ、インクリース男爵様……よかった」




破壊された大橋に近づいて来たのは、左肩に矢を受け、ガチガチに包帯を巻いた姿の隊長兵士であった。




「どうかしましたか?口ぶり的に私を探していたようですけど」



「はい、先程は怪我もあってすぐにお礼を言う事も出来ず申し訳ありません……どうしても直接、この町を守る隊長としてお礼を申し上げたかったので…」



「そんな、無理をしなくても良かったのに…」



隊長兵士は恐らく、責任感の強い人物のようで、兵士達を…そして町の人達を救ってくれたライアに対し、兵士達のトップである自分がお礼を言わねばいけないと思っていたらしい。



決して軽い怪我ではない状態で、今なお激痛が走っている肩を抑えながら、心底感謝の笑みを崩さない隊長兵士にライアは素直にすごいと感心する。




「何か帝国に関係しそうな物などは発見できましたか?」



「いえ……周辺を大体探し周りましたんですけど、何も発見は出来ませんでした……恐らくこれ以上探しても目新しいものは見つかる事はないでしょうね」



「そうですか…」



ライアの言葉に隊長兵士は気を落とすが、元々があればラッキーくらいの感覚で探索に来ていたので別に気にする事じゃないし、情報だけであればシェリアがきちんと捕虜達から色々と聞き出してくれるだろう事は間違いない。



その事を隊長兵士に告げれば「すいません、我々を襲ったのが帝国であるのであれば、少しでも情報があればと気が急いてしまって」と照れた様子で謝罪される。



「構いませんよ……それより、もうそろそろギルド長……シェリアさんの尋問も終わるでしょうし、町に戻りましょうか」



「あ、はい!」




そうしてライアと隊長兵士は壊れた大橋に背を向け、シェリア達の居るダルダバの町に帰るのであった。









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