ダルダバの町救援作戦










――――ライアSide






リールトンの街を出立したライア達は至急ダルダバの町へ急ぎ向う為、ダルダバの町がある北に進路を向けていた。




「――ダルダバの町は周囲が山岳地帯の山に囲まれた場所に在って、基本的にはさっき話した大橋を経由しなけりゃ他所の町と交流出来ねぇような立地の町だ」



「だから敵は俺達のような援軍を断つ為に、あらかじめ交易路である大橋を破壊したんですよね」




飛行船の中では、ダルダバの町に向かいながらシェリアと騎士団長のキルズ、そしてライアが情報のすり合わせと向こうに着いてからの作戦内容などの打ち合わせを行っていた。




「インクリース男爵……こちらがダルダバの町を含めた周辺の地図になります」



「ありがとうございます」



キルズはあらかじめアイゼルの所から預かっていたのか、かなり大きめの地図をライア達の前に広げてくれる。



「……町に出入りできる大橋は街から見て東側……そこ以外は人が通れそうにない大きな山か地形が分からない大森林って感じかな」



「はい、一応こちらの大森林を抜ける道も存在するようではありますが、大人数での進行は難しいようですね」




キルズの広げた地図は前世の地図のように山の高度や山と森の明確な境界線がわかる訳では無い簡素な造りの物ではあったが、大橋の位置や町のある場所などはきっちり理解できる。



森の部分や人が入れない未踏の地などは地図の中で黒塗りされている状態なので、この地図を作った人は自分の足で歩き回り、この地図を完成させたのだという事がわかる。




……その内この飛行船を使って地図の製図を行うのもいいかもなとライアは思考する。



(っとと…今はそれ所じゃないな……きちんとしなきゃ)



ライアは横に思考がそれていた自分に喝を入れる。





「大橋が壊された事によって援軍は来れず、ダルダバの町の住人も逃げ出せない状態にされてる……やっぱりただの盗賊の犯行にしてはお行儀が良すぎる…領主様が言ってた通り相手は帝国の手のもんだろうなぁ…」



「帝国……ん?」



シェリアがふと独り言のように呟いた内容を聞いたライアは、一つの疑問が頭に浮かぶ。




「どうかしましたかインクリース男爵?」



「周りは山岳地帯でそこにあるのは……言ったら悪いかもだけど特に何か名産になるような物が無い普通の町……相手がダルダバの町を攻める理由って何なんでしょう?」



「攻める理由…?そう言やぁよくよく考えりゃぁよくわからねぇな?」



ライアは何かこのダルダバの町襲撃事件は帝国の思惑が少なからず必ずあると仮定をして考えてみる。



(ダルダバの町その物に何か価値がある…?…事前にアイゼル様に聞いていた情報の中に価値がありそうな物は無かった……仮に帝国がこの王国の戦力低下を狙って攻めてきたのだとしたら、はっきり言って狙いが悪すぎる。ダルダバの町は基本的にその地の野菜や畜産で自給自足を主にしている町で、他との交流も少ないし、王国にとっての重要度は低いはずらしいし……)




ライアは色んな可能性を頭に巡らせるがこれと言った考えは浮かばず、眉間にしわを寄せる。




「……ッ!もしかしてだけどよ…ダルダバの町を“占領したって事実”だけが欲しいんじゃねぇか?」



「…?どういうことですか?」




シェリアが何かに気が付いたかのように顔を上げ、ライアとキルズに向かって気が付いたことを説明してくれる。




「見ろ…ダルダバの町は王都から見て南西に存在してて、周りにはリールトンの街以外に大きな街は存在してないだろ?って事は一度ダルダバの町を占領しちまえば基本防衛はしやすい場所なんだよ。ついでに言えば周りが山岳地帯でここを攻める際に選択肢は絞られる点も防衛戦には向いてるしな」




「……仮に今のダルダバの町を占領し、大橋の修繕をさせないように見張りをさせれば、ほぼ間違いなく我々がダルダバの町を奪還するのは不可能でしょう」



シェリアの発言に補足情報的にキルズが納得の反応を返す。



「…まぁ今はライアの飛行船っつぅ常識破りの乗り物があるから話は別だが、相手側の想定では完全に防衛出来る腹積もりだろう……で、次に考えるべきは帝国と王国の位置関係だな」



「位置関係?……あっ!ダルダバの町のの位置ですね!」




今ある地図には帝国の位置などは記載はされていないが、王都の図書館などやスパイを担当している分身体もいるライアにとって帝国の存在している方角はすぐに検討が付く。




「そう、帝国は王国から見て北東側…まぁはっきり言えば東寄りで帝国とダルダバの町の位置関係的に王都はその中心地点に存在している」



「……つまり、ダルダバの町を占領されれば…帝国側とダルダバの町からの攻撃に備えて、戦力を分散しなければならなくなる?」



未だ開戦の様子などは無いが、この考えが当たりなのだとしたら、このダルダバの町襲撃を境に帝国と王国との戦争の火ぶたが開くきっかけになるかも知れない。



「実際には占領されてもこの飛行船があるから取り返す当てはいくらでもある……が、帝国の奴らに良い気をされるのも癪に障るし、なによりダルダバの町の連中を見捨てるのもちげぇしな」



「……はい」



ライア達の考えはダルダバの町が落とされた“後”の可能性。つまりはダルダバが落とされる前に救援に駆け付け、1人でも多くの人達を救えば何も問題は無いのだと結論付ける。




そして話が一旦落ち着いたタイミングでシェリアは広げていた地図から目を離し、操縦室に備え付けられている窓に向かって足を進める。



「……見えたぞ!」



シェリアの目線の先には恐らく帝国の連中と戦闘を行っているダルダバの町が僅かに見えた。




「…≪鷹の目≫…ッ!」



ライアはシェリアの言葉を聞き、すぐさま町の現状を知る為にスキルを発動させる。




「……あ!矢がッ!」



そこには丁度、兵士達の隊長的な人が何やら大きな声を上げている様子のタイミングで、後ろから迫ってくる敵の弓矢に気が付かず、背中に被弾する様子がライアの目に映し出された。




「……ちょっと分身体を先行させます!」



「……先行!?まだ飛行船は遥か上空だぞ!?」



「飛び降りる気ですかインクリース男爵!?」




ライアを心配する2人を尻目に、ライアは予備の分身体を生み出し、操縦席の傍に置かれていた先端に魔石が組み込まれた杖の様な物を分身体に持たせる。



「大丈夫ですよ……なんたって俺にはこのがありますから」




ライアはニッコリとした笑顔を2人に見せつけるようにして、分身体をすぐさまダルダバの町へ向かわせるのであった。













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