ダルダバの町での攻防











―――――ダルダバ子爵Side





「戦闘が始まってからすでに半日……こちらの被害は軽微とはいえ、さすがに兵士達の疲労が心配か……」



現在このダルダバの町の正門では、盗賊団約200人と我が領地を守護する兵士達70人弱が決死の思いで戦ってくれている。


死者こそまだ出てはいないが、相手側から飛んできた弓矢を躱しきれずに怪我をした兵士も結構いる為、兵士達の士気はそれほど高くはない。




それに比べ、盗賊団の方は報告だけでも大体20~30人ほどは倒し、その他に50人以上はかなりの負傷を負わせる事は出来たらしいのだが、盗賊団達は未だ撤退の色を一切出してはいないらしい。




本来戦いという物は、自軍の兵士が1割も死傷者を出せば撤退をすべき負け戦と捉えられる。



そのうえ相手側には怪我人も大勢出ているし、応急処置をしたとしても戦える戦力は精々140人程度であろう。



(……戦いにおいて自軍の損耗率が3割も超えれば、軍事的解釈で【全滅】と解釈されると学生時代に習ったものだが……どう見ても相手側にそんな事を考えている様子はない……クソッ!大橋を破壊する知恵があるのなら撤退を選択すること位出来るはずだろう…!)




私は自分にとって都合の良い考えを巡らせるが、心の冷静な部分では敵が撤退を選んでくれることは無いだろうと理解をしていた。




「……リールトン伯爵には救援を送ると連絡が来たが……大橋が破壊された状態で援軍に期待をしてよいものか……」




私は静かに絶望という感情を僅かに胸に抱きながら、小さくため息を漏らすのであった。












――――――――――――

――――――――――

――――――――











―――――兵士長Side





「クソッ!腕に矢が掠めやがった!」



「いい加減諦めて何処かに行けよ…」



「てかあいつら、死ぬのが怖くないのか?どんな思考回路してんだよ…」





戦闘が始まってすでに日は暮れ始めているが、未だ戦闘は終わらず、両軍お互いに被害を出しながらの膠着状態こうちゃくじょうたいになっていた。



相手側もさすがに被害が出過ぎたからなのか、戦闘不能者がおよそ60人程出したぐらいで町の正門に近づいてくるような戦い方をやめ、遠距離から弓矢で攻撃してくる戦法を取り始めた。



その頃には我々にも戦闘不能者がチラホラと十数名と出してしまっていたが、何とか未だ持ちこたえている。



戦果的にはこちらの方が勝ってはいるが、どれだけやられてもこちらに攻めてくる敵に、兵士達はかなり辟易へきえきしていた。





「ここが正念場だッ!日が暮れ、夜が来れば弓矢の正確性も落ちるだろうし、相手側も無暗にせめては来れない!!そうなればリールトンの街からの援軍を待てるだけの時間も捻出できるッッ!!」



私の鼓舞ははっきり言ってただの希望的考えだ。敵の約半数以上を負傷させ、3割強も敵を屠っているのにも関わらず撤退を選ばない連中が夜戦だからと手を休めるとは思っていないし、リールトンの街からの援軍が大橋も無い状況にたったの1日で到着する訳がない。




そんな思いを抱えながらもここで兵士達の心を折るようなミスをすれば今すぐにでもこの街は終わる……それがわかっているから自分に嘘を吐く。



「「「……はいッ!!」」」



(すまんな……)



恐らく私の考えなどは皆わかっている…それでも自分の生まれ故郷であるダルダバの町を守る為に、生きる為に皆が自分自身を騙し、心を奮い立たせる。






――――ビュビュンッ!!



「グぁッ!?」



「「「兵士長!?」」」



非情かな…たまたま敵が放った弓矢が皆を鼓舞する為に背を向けていた所に突き刺さる。



「くッ……私の事はいいッ!!敵の接近させないように監視を続行しろ!!」



「しかし…兵士長の手当てをしなければ…」



「構わない……急所は外れている…自分で応急処置程度はして見せよう……だからお前達は持ち場から離れるな!」




「「「は、はい!!」」」




幸いにも急所が外れているのは事実であり、剣を振うのにもあまりしようがない左肩部分に被弾した。



その事を部下達にわからせ、自分で処置をすると差し伸べられる手を振り払い、持ち場に戻らせる。



「ん、ぐっ!?」



右手を左肩に這わせ、深く突き刺さる矢を力いっぱい引き抜き、血が流れる怪我の部分に布を押し当てながら防壁に背を持たれかけ、空を見上げる。




(さすがに……潮時だったか…?)



敵戦力は未だ100以上存在しており、自軍の兵士達は戦える者こそ50人程残っているが、皆が体も心もボロボロ状態。


敵側に撤退の意思は無く、恐らく夜戦も頻繁に攻めて来るし、救援隊の到着も絶望的。




「……せめて…町の皆だけでも無事でいて欲しかったがな………ん?」





日はすでに暮れ始め、空は夜を告げる黒と夕焼けの残り日である赤の色で彩られている。



その2色の色に混ざって、何やら大きく、白と赤の巨大な飛翔物が目に入る。





「あれはいったい…?」




兵士長達は知らなかった。この世に陸路以外にも移動手段がある事を。



そして…自分達の町に待ち望んでいた援軍が到着した事を…。







『アース…クエイクッッ!!』





―――ドゴ……ガガガガガガッ!!




「な、なんだ!?」




痛む左肩を抑えつつ、急いで正門の方へ目を向ければ、盗賊団達が居座っていた場所が地割れを起こし、盗賊団達の大半が戦闘不能状態にされており、その上空に1人の女性(?)が浮かんでいた。





「お待たせしました!リールトンの街から救援に来たライア・ソン・インクリースです!」




夕日に照らされた紅いロングヘアを腰まで伸ばし、研究者が羽織るような白いマントをなびかせ、10人に聞けば10人が美少女と答えるような子がそう自己紹介をするのであった。










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