ダルダバの町










―――――ダルダバ子爵Side





事の始まりは、このダルダバの町の周辺警備を担当していた兵士の報告からだった。




―――ドンドンドンッ!



「領主様!領主様はおいでですか!?」




「…なんだこんな朝早くに……まだ日が昇りきってすらいないじゃないか…」




私の名前は“リンデルト・ニー・ダルダバ”というしがない田舎貴族だ。



身分は子爵なのだが、基本は領地に引っ込んでいるし、田舎町の特徴なのか民衆の者達も慕ってはくれるのだが如何せん貴族に接する態度では一切ない。



今だって領主の屋敷(少し大きい家)にいきなり訪ねて来て、玄関の扉を力いっぱい殴りつけ、無遠慮に私を呼び出すほどだ。



……いや、別に敬って欲しいとかではないし、いきなりよそよそしくされたら私が嫌われてる?と感じてしまうし、今のままでいいのだが…。





「……それで?こんな朝早くにどうしたんだ?」



「領主様!大変なんです!どうにかしないと!!」



「大変?」



私はつい先日あった家畜がゴブリンに襲われる事件が脳裏を掠めるが、あの件は町に駐在してくれてる冒険者が討伐してくれたので別の事かと首をひねる。




「街道の大橋が……山賊盗賊達に破壊されました…」




「……え?なんで?」




眠気で目をしょぼつかせていた私は一気に目を覚まし、予想外の事態に目を見開くのであった。








―――――――――

―――――――

―――――








「……盗賊団は確認できただけでも100人以上、根城はわからず何時略奪に来られても可笑しくはない…と」



「夜中に町の周辺を徘徊していた兵士が言うにはそのようです……」



朝、屋敷に直接情報を持ってきてくれた兵士に町でも代表的な兵士長や冒険者達を集めてもらうように指示を出してから数刻。領主の屋敷に多くの人が集まっていた。



なんでも情報をきちんと聞いてみると、夜中の見回りをしていた一兵士グループが街道の大橋を見下ろせる高台に行くと、たまたま100人規模の盗賊団がダルダバの町と他の町を繋ぐ大橋を破壊している場面を見つけたのだという。



「盗賊達の目的はなんだ?もしや我々の町に対して何かするつもりなのか?」



「……盗賊団が100人以上も徒党を組んでいる事すら異常事態ですし、この街はそれほど対人防衛に適した町ではないので、町を襲うというのは無くはない考えかと」




「ふむ……」




ここら辺の地域は周りが山岳地帯に囲まれている点とこの街の特産や魅力的な物が少ない所為で人の行き来はかなり少ない。



人の行き来が少ないという事は旅人や町を訪れる商人が少ない…つまりは盗賊達にとって襲える相手が少ないのでうま味が無いとここ数十年は盗賊被害など出た事は無かったので町の防衛設備として存在するのは大昔のご先祖様が作り上げた古ぼけた木の防壁のみだ。



そこに100人規模の盗賊がいきなり現れるとなれば考えられる理由は町を襲って、金目の物を根こそぎ奪い取るというのはありそうな考えだ。



「しかし、町を襲うのであれば大橋を破壊する意味はなんだ?我々の逃げ道を塞ぐとなれば、我々も逃げ場がないと決死の覚悟で立ち向かうという選択肢しかとれん……盗賊的な考えをするのなら町の住民にさっさと逃げ出してもらい、町に入り込めばいいはず……それに野蛮な盗賊達にしては大橋を事前に破壊するというのは些か違和感を感じるが…」




私の考えに疑問を呈したのはこの町で兵士長をしてくれている男だ。


確かに兵士長の考えはよくわかる……盗賊というのは基本的に辺境の小さい村や余程貧乏な暮らしを強いられ、人から物を奪う事を是としてしまった人間…いわば短絡的な思考をした学のない者達がなる物だ。



そんな者達が100人という多人数が連携を取って一軍団として動けている事も異常であるし、何かを成す前に事前準備の様な事をする事自体稀な話である。



「……仮に盗賊達の目的がこの街を襲う事だと断定した場合、大橋を破壊したのは……援軍の排除?」



「ッ!……なるほど…それであれば一応の説明はつきます。小さいとはいえ標的は“町”そのもの…仮に盗賊達と戦いになればどれだけ早くても1~2日は攻略にかかると踏んで先に援軍の芽をつぶした……やはりどう考えても盗賊の考えにしては出来過ぎだとは思いますが…」



「そんな事を言った所で現状その案が一番あり得るのだ、その方向で話を進めるしかあるまい……ひとまず私は一番近くのリールトン領のリールトン伯爵様に報告と何かお知恵を貰えないか連絡を取ってみるとしよう…皆は盗賊達の襲撃に備え、町の住人に避難勧告と防壁周りの警戒を指揮してくれ!」




「「はい!」」










―――――――――

―――――――

―――――











――――兵士長Side




緊急会議から1時間……我々の考えがどうやら当たっていたのか、町の入り口方面から数百人規模の盗賊団達が姿を現す。




「ハッハァー!街の住人は皆殺しだぁ!!」


―――――ビュンッ!ビュビュンッ!!



「ッッ!?総員!頭上からの矢に気を付けよ!」





盗賊達が姿を現せたと思った瞬間に遠くから山なりに飛んで来る弓矢が目に入り、兵士達を束ねる兵士長が注意喚起を飛ばす。




「グッ!?」



「クソッ!盗賊の野郎!」



「俺達もやり返しましょう!!」




弓矢に反応できなかった数名は軽く怪我を負うが、特に体を動かすのに支障はないようで、簡単な応急処置だけ済ませ気を奮い立たせる。




「待て!我々の練度ではあちらまで正確に弓矢を飛ばす事は難しい…相手も当たれば儲けものと言った様子で撃ってきているにすぎん……証拠に矢の殆どは防壁かその手前に落ちている……冷静に見極めろ!」



「は、はい!!」




盗賊達は距離を詰めながら、時折思い出したかのように弓をつがえ矢を放ってくるが、こちらは基本的に防御の構えでやり過ごしているので被害は出ていない。



盗賊達がどれほど物資に余裕があるかはわからないが、さすがに一盗賊団が丸一日以上も矢を放てるほどの準備があるとは思えない。



つまりこのまま向こう側の矢を消費させつつ、近づいて来た所をこちらの弓兵に正確に撃ち抜かせればこちらが優位に立てると考えていた。




「ッッ!次の矢が来るぞ!木の板や屋根を利用して上手く躱せよ!!」




――――ダダダダダッ!!




「よしッ!やられた者はいないな!!……弓兵!今度は我々の攻撃の番だ!!」



相手の矢がだいぶ正確に当たるようになってきたタイミングで、じっと我慢をさせていた弓兵たちに攻撃の合図を出す。




「―――てぇッ!!!」




――――ビュビュンビュビュンッ!!




『ガッ!?』『あぁ!』『ぎゃぁぁ!?』




弓兵の放った矢は全弾命中とは行かなかったが、半数以上は当てる事に成功している。




「よしッ!このまま町に寄せ付けずに盗賊達を一掃するぞッ!!」



「「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」」











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