進軍?の知らせ











「といってもまだきちんと情報が出揃っていない段階での話だ……早計に帝国の者と決めつける訳では無い…念の為に聞いておくが、ライア君の方で何か情報は無いかい?」



「すみません、特にこれと言った話は聞いてないですね」



アイゼルの話ではほぼほぼ帝国の仕業だと思っているみたいだが、証拠が無い。



アイゼルにはライアの分身体が帝国にスパイしに行っているのは通達済みなので、あわよくば何か情報があればと念の為に確認してきたようだ。



(…スパイと言っても一人で国を相手に情報集めしてるからなぁ……それに最近は開戦のタイミングを逃さないように帝国本土に駐在してるから情報漏れだな)



ライアが帝国との戦争を見越して、帝国本土の首都ヴァハーリヒを拠点にして、主に魔道具開発や軍事施設の監視を行っているのはアイゼルも知っているので、ライアに確認を入れたのも念の為に知っている可能性を考えた為であったようだ。




「まっ、そういう訳でアイゼル様のとこの騎士とオレ達でダルダバの町に救援と調査の依頼って訳だ」



「……ギルド長が…自らですか?」




今回ライアを呼び出したのがダルダバの町へ救援に行く為というのはわかったが、よくよく考えればそれではここにシェリアが要る意味が解らない。



それにシェリアの口ぶりから察すれば、どうやらライアと騎士達と一緒にダルダバの町まで付いてくるような言い草である。



「……もしかしてギルド長ってものすごく強いんですか?」



今までシェリアには戦闘用スキルを軽く教えてもらった事はあるが、シェリアがどの程度戦えるのかはよくは知らなかった。



異世界ファンタジー物の定番では冒険者上がりの凄腕冒険者がギルドマスターに就く事はあるが、この世界はどちらかというとギルドマスターとしての権力を持つという事で、きちんと責任を取る立場として貴族の後ろ盾などがある人が着任しているイメージが強い。




(そっか……別に貴族だからって鍛えてない人ばかりじゃないし、そりゃ戦いが出来る人もいるよね)



なのでライアはてっきりシェリアは戦闘などしないタイプだと思い込んでいた。




「あ?オレが戦える訳ないだろ?」



―――コケッ


「いてッ!……え?それなのにダルダバの町に付いてくるんですか!?」



シェリアの言葉に思わず足の力が抜けてしまうライア。



なんとか転んだりはしなかったが、余計にシェリアの考えがよくわからないと困惑の表情を浮かべる。




「アホ……ダルダバの町に救援しに行くだけじゃなくて、調にも行くって言ってんだろ?オレは向こうのダルダバ子爵への連絡要員兼、調査隊の指揮を取りに向かうんだよ。戦闘関係はお前の管轄だよインクリース男爵」



「あ、なるほど……」



(そう言えば最初にギルド長が“救援と調査”って言ってたっけ…)



ライアは自分の勘違いが分かり少しだけ恥ずかしくなっていると、ライア達の様子を見ていたアイゼルが声をかけて来る。




「ひとまず話の概要は伝わったかな?ライア君にはダルダバの町を襲う賊共の制圧と住民の保護。アンデルセン嬢にはダルダバ子爵へ正式に救援に来たと顔合わせ役、それと襲ってきた賊共の身辺調査が主な仕事だ」



「ダルダバの町ってこのリールトンの街からどれほどの距離なんですか?現在も街が襲われているとなれば急いだほうがいいんですよね」




「その通り、ダルダバの町は今現在も敵の攻撃を受けている……今すぐにでも騎士達を派遣したい所なのだが少し厄介な事があってな」



「厄介?」



アイゼルは少し溜を作るようにそう発言すると、如何にも面倒そうな表情を浮かべながら話を続ける。




「ダルダバの町への道は主に2つ……そのうちの一つである通行用の橋が敵に落とされているらしく、馬車や馬が通れない」



アイゼルの頭の中では、そこら辺の山賊や盗賊風情がこれほど用意周到に準備を済ませる頭脳を持ち合わせていないと思っているので、9割9分帝国の人間だとは思っているのだが、それは今言う必要は無い。



「……もう一つの道は?」



「そちらの道は山と森を突っ切る少数用の近道…つまり今回の様な援軍進行には適さない道だ」



「ならどうしたら……」



ライアは万事休すの状況にあわあわと落ち着かない様子。



「そこでライア君に少しだけ頼みたい事があるのだ」



「頼みたい事…?…あ」



アイゼルとシェリアはライアが慌てている中、とても落ち着いている印象であったが、それは現状を打破できる案がすでにあったからなのだと気が付き、ライアはある一つの選択肢を思い出す。




飛行船空路ですか!」



「だね」



本来飛行船とは戦いには不向きな物である。


前世の飛行船は無駄にデカく、地上からの砲撃一つ受ければ簡単に大破してしまうほど脆く。何より飛行船が戦争で活躍できたのは超高高度からの爆撃と戦況把握の為の調査機としての役割以外は殆ど無かった。



今回に限れば、飛行船から落とす爆薬も無いし、戦況を把握する必要もないので戦いには全く役には立たない存在ではあるが、移動に関しては現在存在するどの乗り物よりも優れているのは確かである。



それに前世の飛行船のように脆い造りでもないので、万が一地上から攻撃されても殆ど損害は出さないだろう。





「ライア君の飛行船に我が騎士達と救援物資、それとアンデルセン嬢と数人の調査員達を連れて至急ダルダバの町へ急行してもらいたい……頼めるかな?」




「はい!かしこまりました!」





アイゼルから依頼を言い渡されたライアとシェリアは、一度物資や必要な物を取りに行く為に解散し、1時間後に飛行船に集合という事になった。












――――――――――

――――――――

――――――







1時間後…。



「全体ッ!インクリース総指揮官に敬礼ッ!!」



「「「「はッ!!」」」」



飛行船が鎮座する平原に50名ほどの騎士達とシェリアが連れて来た数人の冒険者達がライアに向かって敬礼のポーズをとる。



「(って、なんで俺が総指揮官って事になってるんですかギルド長!?)」



「(いやぁそんなこと言ってもなぁ……オレは正式にはもう貴族じゃないし、位の順位を付けるならライアが一番上の立場になるしな?)」



「(いやいや、騎士の人達の中に俺より上の貴族位の人いるでしょ…)」



「(騎士の職務は前線で戦う事だぞ?いい加減諦めとけ)」



ライアは目の前で敬礼をしてくる騎士達に何とかバレないようにシェリアへ愚痴を溢すが、どうやらライアがこの救援隊のリーダーになる事は決定事項のようで、どうしようもないと諭されてしまう。




「指揮官殿、この度はよろしくお願いします」



「うぇッ?……あ、貴方は火竜討伐の時のリーダーだった…」



ライアが騎士達の敬礼に戸惑っていると、隊の一番前に居た騎士達のリーダーに話しかけられる。



「えぇ、私はこの騎士団の団長をしているキルズ・ワーカーと申します……前回は自己紹介の一つも出来ず申し訳ない…あの戦いで我々一同は貴方様に命を助けられた身……今回はその後恩を少しでもお返しできるよう努めますので、どうぞご存分にご命令ください」



ライアはリーダーっぽいしそうなのかなとは思っていたが、このキルズさんがこの騎士団の団長だったようで、そう挨拶をしてくる。



……で、今更気が付いたのだが、キルズの後ろで敬礼をしている騎士達をよくよく見れば火竜討伐戦で共闘した人達が殆どだったようで、何となく見覚えのある人達が目に映る。




(……恐らくキルズさんに指揮官になった事への不満が聞こえちゃったのかな……ご命令ください。なんて気を遣われてるようだし、少しだけ恥ずかしいな…)




ライアはキルズの気遣いに弱音を吐いていた自分を恥じ、気合を入れ直す。




「ふぅ……ありがとうございますキルズ団長……。騎士達の準備は完了してますか?」



「はい!物資や装備などの用意は終わらせております!」




確認など先程しているし、確認が終えた状態になったから今現在ライアの前で整列しているのはわかっているが、念の為の確認と自分の気持ちを引き締める為にあえてもう一度確認を入れる。




「了解しました……これよりッ!ダルダバの町に侵攻する所属不明軍の討伐、調査を行う為に騎士団と調査隊、計60名は飛行船に乗り込み、空路にてダルダバ子爵の領地へと出発いたしますッッ!」




「「「「はッ!」」」」





平原にライアと騎士達の大きな敬礼の声が鳴り響き、命令通り60名は飛行船に乗船していくのであった。
















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