飛行船開発開始







街の開拓が進んでいない広い空き地……その広い土地では、ライア達の考案した飛行船を造船するべく、多くの大工や作業員が行き来していた。




『おーらぁい!おーらぁい!』



『そこの土台だが……』



『おぉらウルト!いつまでツェーンちゃんの姿絵見てサボってんだッ!さっさと働けぇ!』




空き地自体は直径400メートルほどはありそうな平らな場所で、全長約300メートルの飛行船製作にはうってつけの場所である。



「ついに動き出したのですね……」



「……ついにと言っても、まだ試作込みの製作ですから、飛行船が完成品として出来上がるのはまだまだ先だと思いますよ?」



「そうは言っても模型段階では上手く行ったし、試作機が出来たらそのまま完成…という事も十分あるとは思うけれど」



最近は常に一緒に行動しているリネットとモンド達錬金術師組は、飛行船の土台作りから進めている大工達を遠巻きから眺めつつ、そんな話をしている。






ライアとリネットが工房にて膝枕をしていたあの日から数えて丁度1ヵ月後。ライアの思い付きを模型やら自分達の身体で試してみて、それが飛行船のバランス問題を解決させるものだと確信を得てから、すぐにモンドとリネットは設計図を完成させたという訳だ。



そこからはノンストップで【働きアリハウスマン】を通してバンボ達に仕事を依頼したり、王都から足りなくなるであろう木材やら素材を送ってもらいつつ、飛行船に使う魔道具の材料も色々と発注した。



もちろん、それにかかるお金は国から援助金が出る訳では無いので、リールトン領主のアイゼル経由でワイバーンの魔石を幾つか売り払い、資金としててた。




「大工達に設計図の写しはすでに渡しているので、船体作りは専門家であるバンボとウルト達に任せましょう……俺達は客室や倉庫の空調管理、水道や火元、その他諸々の必要な魔道具製作に移りましょう!……ざっと1種類1000くらいは作らないといけないですしね…」




「「うっ……」」




そう、飛行船に人を乗せる目的で作るのであれば、当然客室の様な物が必要になる。



そして客室が必要となれば、トイレやキッチン、お風呂場などが無ければ飛行船の中は汚れまみれの匂いまみれになってしまうので、そう言った設備は必ず必要になる。



……だが、地上の街の安宿などと違って、飛行船の活動場所は“空”である。



人の排泄物や汚れた水、食料の食べ残しを処分しなければ下手をすれば汚いや臭い所の話ではなく、病気などの問題も出てきてしまう。



その為、今回の飛行船開発では、客室には水道関係の魔道具一式と魔道コンロ、それに排泄物を分解させる魔道具なんかも必要になる為、それらすべて一室一室に完備させなければならないので、恐ろしい量の魔道具が必要になるという訳だ。




一応、排泄物や水道に関しては前世の知識で、貯水タンク的な所から全室に配管を通して送る案もライアの中には存在したのだが、水汲み一つとっても井戸や魔道具を頼る世界でいきなり配管を作るのは、錆などのコーティング技術やら逐一入るメンテナンス的難しさなどから結局は一つ一つの部屋に設置する方が確実という事になった。




(いつか絶対、配管技術をこの街で開発してもらおう……)



ライアは、これから始まる数千の魔道具デスマーチを思い浮かべ、心の中で将来この街でしてみたい事リストの中に配管技術の事を書き込むのであった。












――――――――――

――――――――

――――――








「という感じで、飛行船開発も順調ですし、街の開拓も着々と進行しています」



「うむ……それはとても喜ばしい事なのだが……どうしてライア君が直接ここに?」




現在、ライアが居るのはリールトンの街の領主邸であり、領主であるアイゼル・ロー・リールトンの執務室である。



アイゼルへの報告やらはいつもアハトかノインにやらせているので、いつもと違う報告の仕方に戸惑いを隠せないアイゼル。



「いや、まぁ……さすがに魔道具を5000個も作るのはキツくてですね……なんというか……はい、精神的な現実逃避です…」



「ならきちんと休めばよかろう!?なぜ1ヵ月もかかるリールトンまで来るという発想になった!?」



「あっ!もちろん魔道具製作は分身体にやらせているのでサボってる訳では無いですよ?…それにリールトンの街には【重力】の魔石のおかげで1週間で到着出来ました!」



「魔道具を作っているのに現実逃避とはいったいどういう……?」




アイゼルはライアが本格的に疲れているのだと察して、可愛そうな目を向けつつ、聞き捨てならない話が出た事に気が付く。




「……いや待て!?ライア君の街からリールトンまでたったの1週間だと?報告にあった【重力】の魔石はそれほどの物なのかい?」




アイゼルは以前に、アハト達から街の進捗がどうかと報告を受けていた中にワイバーンの魔石が【重力】の魔石であるという話は聞いていた。



その魔石を使う事によって人は飛べるし、人や荷物を運ぶ飛行船の存在も聞かされていた。



だが、アイゼルの想像では精々『ふあふあ~』とのろのろと遅いスピードで風に揺られる程度の認識であった為、1ヵ月もかかる道のりを4分の1程度まで減らす程のスピードが出るとは全く思っていなかったのだ。



「【重力】の魔石で空を飛べば、道中の道の起伏きふくや障害物、それに地上を行けば迂回しなければならない山道も飛んで越えれますからね」



「……なるほどな……どうやら私の想定よりも【重力】の魔石の重要性は高そうだな…」




アイゼルは何やら考え込んでいるようだが、恐らく国への貢献度合いやこの技術が広まって起こる問題などに頭を悩ませているのだろう。




「まぁと言っても元はワイバーンの魔石なんですから、そうそう乱獲を起きないですし、悪用なんかをするよりワイバーンの素材を売った方がお金儲けは出来そうですけど」




「そうだったな、この魔石はワイバーンの魔石だったか……はは!無駄に考え込んでしまったよ!……こちらから流す魔石の量を制限すれば特に問題などは起こりずらいか…」



アイゼルは肩の力が抜けたのか、はぁっとため息を溢しながらにこやかにライアの事を見つめる。




「……私の“息子”には驚かされてばかりだな…」



「……ここは、お義父さんの教育の賜物ですから……とでも返せばいいですかね…?」




ライアの返答に満足したのかアイゼルは「あははは」と機嫌が良さそうに笑うので、ライアもつられて笑ってしまい、アイゼルの執務室は暖かな雰囲気に包まれていた。











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